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第四十八話 『カコウの過去3』

 −東国、国境付近−

 もう何時間歩いただろう…正確な時間が解らない。

 自分がしてしまった事を悔やんでも悔やみきれない。何故あの時自分は逃げ出してしまったのだろう?

 カコウはツキヤの亡骸を置いて一人で逃げ出してしまったのか、その理由を考えるが答えは出てこない。

 すべてが嫌になり、カコウは野太刀ともう一本常に持っているナイフのような刀を取り出した。

 もう、楽になろう。

 その場に腰を下ろし、自らの腹部を確かめるように二度触ったとき、一陣の風が強く吹いた。風の強さに目を瞑り顔を背ける。風が止み目を開けた時、傍に置いていた具足を入れた箱が目に止まる。立て続けにもう一度風が吹き、風で飛んだ花びらが頭についた。

 覚悟を決めようとカコウが目を瞑るといろんな言葉が頭の中を駆け巡る。

 …生きろ。

 その言葉が何よりも強く響いてきた。

 母の声、父の声、そしてツキヤの声で。

 他にも沢山言葉を掛けられたはずなのだが、記憶はその単語だけを何度も繰り返し流させる。

 生きろ…生きるのです…初陣だが死ぬな、手柄を立て生き残れ。

 生まれて今までの人生の中でいろんな人から掛けられた『生』という言葉がカコウの頭の中を廻る。

「もう、生きる意味なんて……ないでござる」

 一人呟き、腹に短刀をつきたてようとした時、風に乗って声が聞こえてきた。

「そっちへ回れ!」

 声を聞く限り少し離れた場所で戦闘が行われているようだ。

 恐らく東国の生き残りの者達を追うチョウサ、アド帝国の兵の声だろうとカコウは短刀を握る手の力を抜いた。

「あちらにも一人居るぞ!」

 足音が近付いてくる。あぁ、これでやっと楽になれる。

 目の前には三人。剣を構え距離を詰めてくる。

 そこでカコウは自分がおかしな行動をしている事に気が付いた。

 そのまま座していれば死ねるの言うのに、何故自分は立ち上がっているのか? 何故自分は自らの太刀を抜いているのか。

「こいつ!」

 目の前の敵が怯む。

 矛盾しているじゃないか。死にたいのだろう。でも何故?

 襲い掛かってくる一人を切り捨てカコウは気が付いた。

 あぁ、怖いんだ。死ぬのが。

 日頃、死ぬ覚悟は出来ていると口にしている癖にいざとなったらその度胸は無い。

 ツキヤ殿のように死に行く覚悟は自分には無いんだ。

 考えの回らない頭でもう一人斬りつける。

 怯んだもう一人を素早く突く。

 カコウは素早く箱の中から具足を取り出し、結べない紐を無理に結び、一番最初に声のした方向へと駆けていった。


「ロウキュウ、悪いね、此処で終わりみたい……国境間近だって言うのに…」

「解りきっていた事…しょうがないさ」

 オオエ城が落ち、チュウショウ、ロウキュウらは手勢を集め、戦線離脱を試みたが追っ手に追い付かれて心身ともに疲労し、諦めかけていた。

「皆、再起は不可能のようだ…此処で潔く皆で散ろうぞ!」

 ロウキュウは足を止め、その場で敵と打ち合うために体制を整える。

 同行していた者もこれ以上逃げ切ることは出来ないと理解したらしく、文句を言わずに野太刀を構える。

「数はおおよそ三十ぐらいってとこかね。最後にしちゃ上出来の舞台だね!」

 全身に傷を負ったチュウショウ咆える。生粋の武人たる彼女は絶望的な状況にも関わらず、戦闘を楽しんでいる。

「誰が一番手柄を立てられるか…地獄まで競争だな」

 ロウキュウはそう呟くが、身体は傷だらけ。満身創痍の状態でいつまでもつか。そんな考えが頭の全てを占めていた。


「敵は予想以上に多いね…」

 チュウショウが持っている槍を重そうに構えなおす。

 周囲には十数人の追っ手の姿が横たわっている。

 追っ手は確かに倒してはいるのだが、一人、また一人と打ち倒され、自然と背中を寄せ合うように身を寄り添う頃には何十人と居た同士が四人まで減っていた。

「此処まで…か」

 倒しても倒しても無限に湧いてくる追っ手。希望をすべて絶たれ潔くその場で果てようロウキュウが考えた時、チョウサ、アド帝国兵に乱れが生じる。

「…ロウキュウ…敵の動きが乱れてるね…一体何があったのかね?」

「わからない」

 困惑する一同の下に敵の陣を切り崩し、一つの光が此方に飛び込んでくる。

 一体何が? とロウキュウが考えた時には、目の前には黄金の甲冑に身を包んだ武者が立っていた。

「…味方の数は何人でござるか?」

 黄金の甲冑に身を包んだ赤い瞳の女性が立っていた。

 ロウキュウはその人物の問いかけに素直に応じる。

「此処に居るものがすべてです」

 と周囲に居る四人に視線を走らせる。

「そうでござるか…」

 黄金甲冑の女性はそうとだけ呟くと野太刀を構え、目の前の兵を容易くなぎ払った。

 周囲の安全が確認できたことでロウキュウはため息をつく。

「助かりました。貴方のお名前は?」

 ロウキュウは目の前の黄金甲冑の女性に声を掛ける。

「カコウでござる」

 黄金甲冑の女性、カコウはそう答えると野太刀を鞘に仕舞う。

「カコウ殿…一刻も早くこの場から立ち去るべきです。また追っ手が来ます…我等が此処に残り追っ手を抑えているうちに…」

 ロウキュウの言葉にカコウは表情を歪ませる。

「それは出来ないでござる」

 カコウの言葉にロウキュウは困惑した。

「我等はこの通り手傷を追い、我等と行動を共にすれば追っ手に追いつかれる可能性が…」

「では、その追っても打ち倒すでござるよ」

 あくまでもロウキュウら五人を連れ逃げるという意思を曲げないカコウにロウキュウは苦笑を浮かべる。

「今は一人でもチョウサ、アド帝国を打ち倒すための人手が必要でござる。周囲の状況を見るに、此処に居る五人の実力は捨てるには惜しい」

 カコウはロウキュウに答えつつも、心の中で自笑する。

 先ほどまで死のう死のうとしていた奴がよく言うな…と。

「…皆死んではならない…生きるでござるよ!」

 カコウを中心とし、東国の生き残りは数度追っ手と戦闘をしつつ、東国国外に姿を消した。


回想終わりです。

長くなってしまったなぁ。

予定よりかなり長くなってしまい、ちょっと反省です。

メッセージなどに励まされつつ、がんばってます!

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