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第四十三話 『アリヴェラ平原戦2』

 −アリヴェラ平原、右翼砦−

 カコウ率いる東国の一団が電光石火の勢いで右翼砦を落とし、三時間ほどの時が経った。

 アド帝国の砦に駐在する兵は東国一団の奇襲を予想していなかったようで、一団の中で大きな被害を受けたものはいない。

「カコウ殿、そろそろ頃合かと」

 この東国の一団の中でカコウの右手ともいえる存在のロウキュウは兜を脱ぎ、額に前髪が邪魔にならないように布を巻いた格好でカコウに問いかける。

 額に布を巻いたのはロウキュウだけでなく、兜を被る者は皆すべて同じような格好をしている。

 ロウキュウの問いかけに、もう一人の猛者チュウショウが笑顔を浮かべ立ち上がる。

「やっと出番かい! 早く行かなければルノ帝国の奴らが全部敵を倒してしまう」

 チュウショウは待ちきれないとばかりに太ももを守る防具の佩楯はいだてを腰に縛り始め戦に赴く準備を始める。

「確かに。これ以上ここに居ては電撃的に此処を攻めた意味が無くなるでござるな」

 カコウも立ち上がり鎧を着けようと手を伸ばすが、それをロウキュウが止める。

 思いもよらぬ行動に一瞬カコウは呆けた表情を浮かべる。そんな彼女をよそにロウキュウがカコウの鎧を手に取り、カコウの身体に着け始める。

「これは大事な戦ですよカコウ殿。カコウ殿がいつもの様にご自分で鎧を着ければ此方が心配でたまりません」

 ロウキュウの言葉に周囲で準備をしていた兵達が声を上げて笑う。カコウは顔を夕焼け空のように真っ赤にして言い訳を呟く。

「せ、拙者だって好きでやってる訳ではござらん。ただ、難しいというか…なんと言うか……」

 カコウは刀槍弓を使わせれば右に出るものは居ないのだが、幾つか欠点を抱えていた。

 一つは絶望的に男に免疫がない事と、紐など指先を使って結ぶということが苦手だった。

 男に関しては彼女の環境が問題でこれからどうにでもなるのだが、紐などを結ぶ時の不器用さはどうしようもないレベルだった。

 紐を解こうとすれば絡まり、蝶結びをしようとすれば、固結びになってしまう。

 そんな彼女はいつもは自分で鎧の紐などを結ぼうとする姿勢を見せるのだが、結局一人じゃ解けなくなりロウキュウらに手伝ってもらう事になる。解けなくなる分はまだ良いが、何度か戦の時紐が解けるという事もあって、いつの間にかカコウの戦の準備はロウキュウらを筆頭とし、手が空いたものが行っている。

 真っ赤に染まったカコウの頬が元の色に戻ったとき、ロウキュウの元に見張りが駆け寄る。

「ロウキュウ様、敵兵と思えるものが数十名、この砦に向かってきているようですが如何に?」

 報告を受け、カコウは不適な笑みを浮かべる。

「敵を砦ギリギリまで引き付け、二十名の兵を残して平原へと続く小坂を駆け下り、敵の背後を突くでござるよ。今頃平原ではアド、ルノ帝国が互いにぶつかり合っている頃でござる。いくら兵数の勝るアド帝国と言えど、前と後ろから挟撃されればひとたまりも無いでござる」

 カコウをはじめ、東国の面々はこの先の戦の流れが目に見えていた。


 −突撃、そして現実−

 見張り台に上った守備兵が静かに手を挙げると重々しい音を立て、砦の門が開く。

「東国武士の意地を見せる時ぞ! 全軍突撃でござる!」

 カコウの声が雨の上がった空に響き、地面に広がる水溜りを踏みつけ、東国武士団はアド帝国の兵に襲い掛かる。

『な、何でこいつ等が砦に! 退け、本隊まで退けッ!』

 指揮官は予想していなかった事態に狼狽し、剣を合わせる事無く背中を向け元来た道を戻り始める。

「皆、追うでござるよ! このままの勢いで敵を打ち崩すでござる!」

 東国武士団の士気は高く、嵐のような勢いを持ってアリヴェラ平原へと続く坂を下り始める。

「カコウ殿、この坂を下り、そのまま真っ直ぐ進めばアリヴェラ平原、戦の地にたどり着きます!」

 ロウキュウは駆け抜けながらある不信な点に気が付いた。

 彼女は走る速度を緩めないまま一人考え抜いていた。

 静か過ぎる。砦まで戦の音が聞こえないにしろ、戦場の目と鼻の先であるこの坂でも剣のぶつかり合う音、両軍の兵のときが聞こえないのはおかしい。

 此処まであっさりと勝敗の付く戦では無い筈……まさか。

 彼女がある結論に至った頃、東国武士団は坂を下り終わり、目前に広がる光景に己が目を疑った。

 通常なら坂を下り広がる平原の彼方ではアド帝国とルノ帝国の大きな戦が繰り広げられてる筈なのだが、戦は勿論目前を撤退する敵数名しか見当たらないのだ。

「こ、これは一体、どういうことでござるか……?」

 現状を把握できない東国武士団が一歩、二歩と前に進むと、地面から草が生える様に次々と武装した騎士が姿を現し始めた。

 三角形の頂点の一つを東国武士団に向け、後方のアド帝国本陣へ近づくにつれ横に広がる陣形。魚の鱗を思わせる陣形が東国武士団の目に飛び込んでくる。

 姿を現したのと同時にアド帝国全軍が前進する。その姿は小さな稚魚を飲み込もうとする巨大な魚のように見える。

 してやられたと気が付いたカコウは強く唇をかみ締め、拳を握る。

「カコウ殿、敵の数…我等の倍以上はあると……」

 ロウキュウも現状を理解し表情を曇らせた。

 先ほどまで飛ぶ鳥も落とすような勢いだった東国武士団の勢いは目の前の状況に完全に止まった。

 誰もが前に進んでも道はないし、坂を急いで駆け上ってもその背中をアド帝国に突かれるということを理解した。

「今敵に背を見せれば壊滅は至極当然……」

 カコウは腰に挿した一メートル程の刀を抜き放つ。

「我等東国武士団は敵に背を向けないでござる! 皆で一丸となり敵中を突破し、敵の背後にある中央砦まで突き進むでござるよ!」

 カコウの言葉に応えるようにチュウショウは槍で地面を強く叩く。

「戻れば地獄の門を潜ることになる…が前に進み潜るのはどっちの門だろうかね!」

 誰よりも早く前へと駆け出すカコウ。そんな大将の姿を見て東国武士団は沸き立つ。

「皆東国武士団の意地を見せる時ぞ!」

 カコウの掛け声と共にアド帝国と東国武士団の戦が始まった。

がんばります、細々と。

久々に市販の小説を読んだのですが、やっぱ上手いですね。

ふつふつと意欲が沸いてきた今日この頃です。

では、次話ご期待をー。

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