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第四十一話 『敵が動いた、なんか変?』

 −ベルジ地方、中央砦−

「敵が動き始めた模様です! 各隊持ち場につき指示を待ってください!」

 エリファが忙しそうに砦内を駆け回る。

 報告を聞いて浮き足立っている指揮官も居る。その様子を見るに敵が動きを見せるのが予想よりもかなり早かったという事が解る。

 不思議と俺は敵が攻めてきたという報告を聞いても驚く事はなかった。遅かれ早かれ敵は攻めてくるって解っていたから。

「なんだサナダ割と落ち着いてるじゃねえか。もう少し面白い姿を見たかったのだがな」

 アリシャが俺の前に姿を現す。どうやら俺が慌てふためいていると思っていたのだろう。当然アリシャは落ち着いた様子。背後で慌てている指揮官が嫌でも目に入ってくるから、いつもより余計貫禄のある指揮官に見えた。

「ご期待に添えなくて悪かったな。今からでも慌てようか?」

 軽口を俺が叩くとアリシャは頬を緩めた。

「それだけ言えるなら大丈夫だな」

 隊員に声を掛けに行く為に俺に背を向け手を振るアリシャ。その手にはいつもの小手を着けていない。

「アリシャ、小手はどうしたんだ?」

「戦前の調整中」

 気になって問いかけたが、それだけ言い残すとアリシャは喧騒の中に消えた。どうやら忙しいようだ。

 アリシャが去り、話相手が居なくなった俺はこれからどうしようかと悩むところだが、できる行動は限られている。

 下手に今の場所を離れるとアリシャ隊から逸れてしまう可能性もあるので、このまま動かないほうが得策だろう。次に誰か暇そうな奴を見つけ出して話し相手になってもらうという行動もあるが、戦前で触発ムードの奴も居るのでそれもしないほうが良いだろう。

 となると、残る行動は一つ。その場に座って待つだけ。

 非常に寂しいが。

「お、今日からウチの隊だよな。さなだん」

 座っていた俺を影が覆う。顔を上げ相手を確かめなくとも誰だかわかった。

「だな、アトラ。俺がピンチになったら助けてくれよ」

 アトラッシュ・ラッシュ。ディレイラ隊の奴ら以外でよく暇な日に行動を共にしているこの世界で数少ない男のダチだ。

「なーに言ってるんだよ、ディレイラ隊の期待のつわものが言う台詞か? 戦じゃさなだんのツワモノぶり楽しみにしているぜ」

 俺の隣に腰掛けアトラが続ける。肩に立てかけた槍と剣を足したような武器はいつ見ても派手な武器を好む男心を刺激する。この武器には特にこれと言った名称はないようで、俺が冗談で言った槍剣そうけんという名前が俺達の間で定着しつつある。

「しっかしこの周囲の慌てぶりと来たらまぁ……もう少し落ち着けないのかね。こうなってしまったら今更慌てても意味ないだろうに」

 アトラも周囲で慌てる兵や指揮官を眺めてため息をつく。ディレイラ隊に居た頃にもアリシャ隊の面々の活躍は耳に入っており、オルタルネイヴ元自警団だった臨時の四人の将の指揮する隊では一番の実力者達と名高い。そんな隊員の名に恥じない実力を持つアトラ。正直羨ましいと思った。

「とまぁ、此処で一つ聞きたいが、敵は一体何がしたいんだ?」

 暫く無言の時間が流れ、どういう会話を振ろうか考えていた俺にアトラが質問をする。

「俺が知るかよ」

 アトラの質問は本当に俺が知るはずも無い事で俺はため息と共に言葉を吐き出した。

「だってよぅ…俺たちがこの地方に戻ってきたのは敵さんがこの砦を奪い返すために兵を率いて進んできたんだろ? でも到着してみれば敵さんは早々に砦へと引き上げてると来たもんだ。そうしたらまたこちらの予想よりも早く兵を動かしてきたんだから、もう何がしたいのかわかんないよ」

 アトラの言う事は解る。今までの敵の行動は全て『無駄』だと思える行動ばかりしている。戦で兵を動かすにしてもタダじゃない。人が動くためには食べ物が要る。その食べ物だって雑草のように地面から湧き出てくる物ではないし、限りもある。

 戦の前には通常よりも多く食べ物が振舞われる。食べ物が減るだけで軍全体の士気が上がるなら安いものだが結局、戦を行うために動けば動くほど並ならぬ量の食料を消費してしまう。

 考えても答えは出るはずも無く、俺とアトラは二人並んで指揮官の動きを眺める。

 視界の先では次々に指示を出すジーニアやアリシャの姿が見える。

「まぁ、こうして見ると随分と正規軍の指揮官もアリシャ、エリファ、ジーニア、レイラらを認めるようになってきたな。今じゃどっちが正規の指揮官かわかんねぇや」

 ポツリと俺が呟くとアトラも頷き相槌を打つ。

「確かに。ガリンネイヴの戦から今までのたった二回の戦闘でかなり他の将らの見解が変わったな。ま、元々自警団の奴らは実力はあるが、その実力を発揮する機会が無かっただけで、無能と言うわけじゃないからな」

 眠れる獅子と言うべきか、磨けば輝く宝石だったと言うべきか悩んでいる間にタイミングを外し、喉まで出かかった言葉を飲み込む。

 忙しそうに指示を出すエリファらを眺めていると戦始めの頃の指揮官らの態度が嘘みたいに思えた。最初の頃は自分の事で手一杯で周囲を見る余裕は無かったが、そんな中でも指示に従わず、自分勝手に動こうとする者を注意するエリファらの姿を何度か目撃していた。

「っと、さなだん召集みたいだ、行こうぜ」

 アトラは槍剣を肩に担ぎ召集場所に走り出した。俺も置いていかれないようにその背中を追う。

 

 召集場所はすぐにわかる場所だったが、もし一人でこの場に居たなら今頃不安でたまらなかっただろう。アトラ様々だ。

「よし、アリシャ隊揃ったな」

 人数が揃ったのを確認したアリシャは頷くと砦の壁に地図を貼り付けた。

 かなり局地的な地図で一瞬何処だかわかんなかったが、どうやらこのベルジ地方の砦とアリヴェラ平原の砦二つが書かれている。

「敵は八百程度でこのベルジ中央砦に向かってきている。八百といえばアリヴェラ平原に居る兵の大半を動かしている状態で、砦の守りなど微々たるものだ。恐らく我等をアリヴェラ平原へと誘い出し、野戦で勝敗を決するつもりだろう」

 確かに兵数はほぼ互角。その状況で砦なんかを攻めたらその被害は増える一方で敵が野戦に持ち込みたがる気持ちは解らないでもない。

 だが、敵の動きがおかしいと思うのは確か。中央砦を奪い返すつもりならば俺達が来る前にそれは出来たはずだ。ベルジ地方中央砦とシュレイム地方に同時に敵が侵攻してきたという報告を受けて俺達はまた戻ってきた。九百という兵数を持ってすれば中央砦を落とす事も出来た筈なのに、敵は此方が到着するのを待っているかのように兵を早々に引き上げた。

 敵の狙いは別にあるとしか思えないが、それは俺の考えすぎだろうか?

「それに敵はこの地方に東国の者達が潜んでいるという情報を知らないようだ。手薄になった砦。そのような好機を見逃すような者達ではねえしな。奴らが味方だと断言は出来ないが、利用できるものは利用するさ」

 東国ってぇと、確かカコウ達のことだよな。灰色の髪の色をした騎士…いや武者達か。あいつ等はアド帝国に恨みを持っているみたいで、時々報告の時に東国の者どもがアド帝国の補給隊を襲ったとか聞いたし……確かにこの機を逃すわけ無いよな。

 思考を一度中断させる為に空を仰ぐと、山の方から暗い雲が流れてきていた。風も少し強くなったような気もするし、これは雨が降るな。

 雨の降る中で移動した事はあるが、雨の中での戦は始めて体験する事になるだろう。恐らくいつも以上にやりにくいだろうな。

「敵が平原に陣を布いたら我等も打って出る事になるだろう。その時は俺達アリシャ隊が先駆けとし、ローチ隊、ガルディア隊、ジーニア隊、ディレイラ隊が二番手となり他指揮官らが続くだろう。俺達の働きで戦況は大きく左右される。失敗は許されないッ!」

 アリシャ隊の面々が大いに沸き立つ。失敗の許されない責任重大な役を受けても怖気づかないアリシャ隊の面々。これが実力第一といわれる理由なのか?

 敵の布陣を待ち、出撃の合図を待っている間に俺の予想通り雨が降ってきた。通り雨というレベルではなく空から降り注ぐ雨粒はすぐに地面に大きな水溜りをいくつも作った。

 砦の中で雨風を防げる場所に移動しても、体温の低下が思ったよりも激しいようで指先が痛くなってきた。

「戦場での雨は初めてだ……こんなに寒いとは思ってなかった……」

「だな、これならいっそ突撃の合図を出してくれたほうが身体が温まりそうだ」

 アトラと並んで雨音を震えながら聞く。アトラの言うとおり突撃の合図が出てくれたほうが気が楽になる。ただじっとして体温を下げるよりも、雨に濡れながら何も考えずに戦場まで走ったほうがまだマシだ。こんな状況が続いたらきっと戦どころではなくなるだろう。

「でも外に陣を布く敵よりは数倍はマシだよな。指揮官ならテントの中に引っ込めるが、俺たちのようにその手下となれば野ざらしでこの冷たい雨を受けなきゃならないからな」

 アトラはそう言うと鼻を啜る。

 確かに敵のほうが一層厳しい状況に置かれているわけか。これで戦闘になっても、少なくとも俺たちの方が有利なのかもしれない。

「アリシャさん、大変です!」

 髪や服を濡らしてエリファがアリシャ隊へ駆け込んでくる。

 水に濡れたエリファはいつもとは違った様子で少し見とれてしまったが、そんな状況じゃないと言う事を俺とアトラは嗅ぎ取りアリシャの元へと掛ける。

「一体どうした?」

 不思議そうにアリシャが問いかけるとエリファは櫓に登るように催促している。

「これはただ事じゃないな。アトラ…確かめるか?」

「勿論!」

 持ち場を離れる事はいけない事だが、アリシャに見つからなければ良い。俺とアトラは頷きあってアリシャらが登る櫓から離れた櫓に向かった。

 雨に打たれながら櫓まで到着したが、別の隊が雨風を凌いでいる状況で櫓に登れそうも無い。

「貴方達、何をしているの!」

 背後から声を掛けられかなり驚いたが、声を掛けてきた人物の顔を見て表情が緩む。

「レシアか。なんか状況がおかしいみたいだから様子を見に来た」

 ディレイラ隊の副将であるアトレシアが其処に立っていた。周囲の面々を見ても見知った顔ばかり。流石にジーニア隊とかなら追い返されそうな状況だが、きっとレシアならわかってくれる。

「アリシャさんの指示ですか?」

 険しい表情のレシア。そして思いがけぬ問いかけに答えに詰まる。

 そんな状況を予想していたのか、レシアは険しい表情を緩める。

「個人的に見に来たという感じですね。まぁ、いいでしょうこの事は内緒にしておきますので上に登ってください」

 流石レシア。話がわかるぜ。

 アトラと急いで梯子を駆け上ると、一足早く登っていたと思われるレイラが遠くを見つめていた。

 見つめている先はベルジ地方ではなく、アリヴェラ平原。レイラも敵の動向を探っているのだろう。

 俺達が登ってきても此方を見ようとしないレイラの首元に指先から滴り落ちる水滴を垂らす。

「ひゃう……」

 驚いているのか判断に困る声を上げレイラが振り返る。

「真田…遅かった今まで何をしていたの……?」

「いや、今俺ディレイラ隊じゃないし」

 俺はまだ自分の下に居ると思われているのか。嬉しいが心配だ。戦場で俺が居るものと思われちゃ困るぜ。大して役には立たないだろうけど。

「…自分の隊にカエレ」

 ひどっ、一気に手のひらを返した対応になりやがりましたね!?

 カエレと言うレイラには本当に帰れという意思は無いようで、もしかしたら冗談を言ってマジレスした俺に対するツッコミだったのかもしれない。

 もしそうだとしたら非常に解りにくい冗談だが。

「で、一体何があった?」

 何気なくレイラの横に並んで、レイラの視線の先を一緒に眺める。

 雨で視界が遮られ、遠くまで見渡せないが、薄っすらと敵陣が遠のいていっている気がする。

「敵が退いているのか?」

 横でレイラが頷く気配がする。どうやらその通りらしい。

「物見が平原の敵の動きを監視していたんだけど…急に敵が陣を退き始めたから急いで報告に戻ってきたの……」

 それで砦から出るわけにもいかず、櫓に登った訳ね。確かに物見…偵察の言葉どおり敵が退いている訳か。

「やっぱり雨が理由なんじゃないのか?」

 アトラも身を乗り出すように平原の敵を眺め呟く。

 レイラが表情を少し強張らせ口を開く。

「コイツ……誰?」

 割と俺と行動を共にしている姿を何度かレイラとかに見られていたはずなのだが、アトラは通りすがりの兵士その一ぐらいにしかとらえられてなかったようだ。

「俺はアリシャ隊の…」

「用が済んだら自分の隊に戻れ……」

 アトラに名乗らせもせず、レイラは櫓を降りていった。

 呆然と立ち尽くすアトラを引きつれ、アリシャ隊に戻った頃には一足早くアリシャが戻ってきていた。

「何処に行っていた?」

 馬鹿正直に他の隊に行って櫓に登ってましたと答えるほど俺とアトラは馬鹿じゃないので二人で声色を揃えて『乳繰り合っていましたー』と答えた。

 アリシャは呆れた表情を浮かべる。

「嘘を付くならもう少しマシな嘘を言え。大方ディレイラ隊の近くの櫓に登っていたんだろ」

 全てお見通しのようで、俺とアトラは次にアリシャの口から飛び出す言葉を固唾を呑んでも守る。

 勝手に隊を離れる。そんな事を兵らが当たり前のようにやっていたら統率を無くすのは目に見えている。では、それを行わないようにさせるにはどうするか。答えは簡単だ何かしらの罰を与える事によって他の兵士らに軽率な行動をさせないように出来る。

「本来罰則を与えなければいけないところだが、お前達のその向上心に面して今回は目を瞑ってやる。それに今回はまだ出撃も行えず、このような状況になったわけでほんの数分居なくなっても問題は無かったからな」

 アリシャはそう言うと表情を引き締め、俺たちを連れ、クレアの居るテントに案内する。

「アリシャ…入る」

 テントの中にはエリファやレイラをはじめ、この砦の指揮官達が集まっていた。その数はおおよそ四十人。

「アリシャ殿…その者達は?」

 顔も名前も知らない何処かの小隊を指揮しているであろう男が口を開く。

「このような時は将だけではなく兵の考えも聞いておきたいのでな」

「はん、たかが兵に戦の事が解るものか。アリシャ殿には悪いが、お前達、此処はお前達が居る場所ではない、早く陣に戻りなさい」

 明らかに俺たちを見下した上から目線の言葉。正直頭に来たがそれよりも早くテーブルを叩く音が響く。

「真田はただの兵じゃない……ベルジ地方での戦で勝つ事が出来たのはこの真田の策のおかげ……真田が居る場所でないのなら私も陣に戻る……」

 前半は理屈になっていたのだが、後半は理屈になってない事を並べ、レイラが席を立つ。

「い、いや確かに。今のは言い過ぎました。」

 男は焦り、言葉を取り消した。

 レイラはそれで良いといわんばかりに勝ち誇った表情でまた座りなおす。

 これは、俺を庇ってくれたと見て良いよな?

「では、話を進めます。敵はアリヴェラ平原から陣を退きました。今後我等の取る行動ですが、私は今攻めれば敵の背後をつけると思いますが……反対の方は?」

 クレアが話を進める。エドラの時とは違い他の意見にも耳を傾けようとしている。

 俺は反対も賛成も無く、その場の状況を理解する事に必死になっていた。

 此処に居るのは将と副将で、その比率は6:4。アリシャのように副将を持たない奴も居れば、レイラやジーニアのように副将を持っている奴も居る。

 そして座る位置だが、将は机を囲むように座り、副将は自分の補佐する将のすぐ傍に控えている。

 軍議の中でもある一定の決まりごとがあるようで、今後の行動を決める時の多数決などは将のみ票を与えられているようで、副将はその方針の長所や短所を指摘している。

 例えるなら選挙か。賛成や反対が選挙地区とすれば、立候補者が将。で副将はマイクを持って立候補者をアピールする人。『賛成』という選挙地区に立候補する『将』そしてそれを援助する『副将』といったところか。

 解りにくくなった気がしないでもないが。

「敵が退いたのは何か策があってのこと。今不用意に飛び出す事こそ敵の思惑なのではないのですか?」

 ジーニアはこのまま砦に残り警戒を強める事を主張している。

「いや、此処は砦から打って出て敵の背後を強襲し、早々にアリヴェラ平原から敵を駆逐。そのままヘルムランド地方へ軍を進めるべきです!」

「それよりもアリヴェラ平原を避け、迂回路からアリヴェラ平原の右翼砦を落とすべきでしょう!それからこの中央砦と右翼砦から敵を押し返す!」

 ジーニアの発言を皮切りにテント内がざわめきだし、誰もが自分の意見を言う事に躍起になり他者の話をまるで聞いていない。例えるならそう、文化祭の出し物を決めるときのような騒がしさか。

 どれの意見も正しいといえば正しいし、間違っていると言えば間違っているようにも思える。目先の事に捕らわれて…そう、何か大事な事を忘れているような。

 忘れている何かを思い出すべく、周囲の喧騒をシャットアウトし、一人思案をめぐらせる。

 敵は何故この状況で陣を退いたんだ? 確かに予想外の雨で困りはするが、天候を考えて行動してちゃ何にもできなくなってしまう。もっと、別の何かがあるんじゃないか?

「ッ!?」

 頭痛と耳鳴りが俺を襲う。いつもは頭痛だけなのに、今回は耳鳴りも加わっている。マジで俺の身体どこかおかしいんじゃないか?

「別の…」

「そ…目的…」

「がしかし……敵の狙いが我等……」

「……ではあるまい…」

 周囲の騒がしい喧騒が途切れ途切れに聞こえてくる。

 って、もしかしたら!

 ある事に気が付いたら耳鳴りと頭痛は治まる。いつもこんな調子だ。頭痛が起きて俺が何かを閃けばその痛みは嘘のように退いていく。そしていつもその予想は的中する。もしかしたら今回のもそれがヒントになってるんじゃないか?

 確かにテレビでもやる気の無かった学生がボランティアに参加した後、見違えるように人が変わったりする番組とか見たことあるし。それと同様に俺も生活する世界が変わったからこそ、眠っていた力が目覚めたのか?

 よし駄目もとで言ってみるか。

「一つ良いかな?」

 手を上げ、恐る恐る口を開く。思いがけない発言だったのか周囲の視線が俺に集まる。ある者は口を慎めと言う。

「何…真田…何か気が付いた?」

 レイラが騒ぎ立てる奴らに手のひらを突きつけ黙らせる。

「あぁ、敵が退いたのは何か目的があっての事じゃないかと」

「だからそれは!」

「続けてください真田様」

 進まない議論で頭に血の上った将が口を挟むが、クレアがその先を促す。

「敵はあらかじめアリヴェラ平原に陣を布き、それを引き払うのが目的だったんじゃないか? 今回の敵の目標は俺達じゃなく、東国の奴らなんじゃないか?」

 俺が口にした可能性の話を聞き、将や副将らはそれぞれの頭で考えはじめる。

「ガリンネイヴ平原の戦からこれまで、大きな戦のほかに、各地で小さな小競り合いはあってきた。例えばこのシュレイム地方。何度か奪回して何度か敵に攻められてるっていうし」

 俺たちがオルタルネイヴへと凱旋したあとも何度か小さな戦が行われていたという。

「その中の報告で東国の者達がアド帝国の補給隊を襲い物資を奪うなどの報告があったし、敵としてもこれ以上東国の奴らを野放しに出来なくなったんじゃねぇか?」

「そうか、そういう考えもあるな」

 アリシャが立ち上がり、手を叩く。

「少数を残らず殲滅するためには一箇所に集め、それを包囲叩くのが得策だしな。殲滅の為に倍の兵力を持って動いたとしても、勝ち目の無い戦いに自ら身を投じる者は居ないわけだし、敵のこれまでの動きは東国の者どもが動き出すのを誘っているという見方もあるな」

 アリシャは俺の言いたい事が理解できたのか頷きならが言葉をつなげてゆく。

「戦の上手い奴らだから手薄になった砦を襲ってくるというのは目に見えている。その手薄となる砦をを不自然なく作り出すためには俺たちが必要だったというわけだ」

「我々が必要だった……その理由は何故?」

 一人の指揮官がアリシャに質問をする。確かに俺の口から説明するよりも的を得ていて説得力があるのは認めるが、俺の意見を取られたような気分だ。

 騒がしかった喧騒もいつの間にか治まり皆、アリシャの説明に耳を傾けている。

「理由も無く兵を動かし砦を手薄にすればその思惑に東国の者達は気が付く。怪しまれないように砦を攻めさせるには我等との戦いの為に兵を動かした…と思わせることが一番だ」

 アリシャの説明が終わると他の将らも理解できたらしく頷き返す。

 これが理由なら、なかなか攻めてこなかった理由や急に陣を退いた理由にもなる。

「だが、そうだとすれば我々のとる行動は?」

 また終わらない議論が始まった……。

やっと更新です。

思ったより書けなくてびっくりです。

同時進行が多すぎるのも問題ですが。

もう少しペースは遅いですが、なんとか速く書けるようにがんばりますね。

では、次回にご期待を〜。

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