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第四話 『冗談じゃねぇ!』

 部屋の中もそうだったが外に出てみると文明の違いが一目瞭然。

 電柱やアスファルトで舗装された道路などあるわけもなく、自動販売機なんてもってのほか。

 街から一キロも離れれば、道だと思わしき通路脇に草木が生い茂っている。現代日本の田舎でもこんなところは無い。

 オーケー。少し状況を整理しようか。

 まず、此処は超が付くほどド田舎、住人達の方言がひどくて言葉が通じない。生活収入源は狩。

 いやいやいや、ありえないだろ!

「アリシャさんッ!」

 エリファが狙いを付け前方を走る青い髪の槍女の名前を叫ぶとアリシャは空高く飛び、軽々と木の枝に飛び乗った。

「嘘だろ、ニメーター以上飛んだぞ!」

 開いた口が塞がらないというのはこういう事を言うのだろうか。とりあえずありえない。

 アリシャの居た場所を風を割く音を立てながら一本の矢が飛んでゆく。

 遥か遠方で何やら剣を振り回している人影に矢は吸い込まれるように命中した。

「嘘だろ、この距離から当たるのかよ!」

 とあるサーティーンも驚きの腕前だ。とりあえずありえない。

 人影の顔が見えるぐらいまで接近する頃には、体育の授業のマラソンを走り終えた後のように肩で息をしている俺だが、同じ距離を走ってきたはずのほかの人間の息は全く乱れてない。

 敵と思わしき人影の顔は坊主頭に鉢巻を巻いている。身長は俺よりかなり低い。百五十過ぎぐらいか。

「……後は私たちがやる」

 黒い髪の巫女さんの着ているような袴を付けた女の子は、先に敵と思わしき人物と戦っていた男にそう告げると剣を構えた。

 剣は女の子の身の丈の三分の二を占める大きさで、一般高校生の身長平均より少し高い俺と比べても半分ぐらいの大きさである剣を軽々と構える姿は違和感だらけだった。

「……」

 フッと短く息を吐き、黒い髪の女の子は馬鹿でかい剣の重さを感じてないような身軽さで一気に坊主頭との距離を詰める。

 水平に女の子は剣を振るったが、坊主頭はそれを見通していたのか、大きく後ろへ跳ぶ。

 反撃の一撃を加えようと坊主頭は剣を振りかぶるが、女の子は跳躍の着地と同時に左足を軸に回転し、右足を強く地面に擦らせ、剣を振った。その姿はホームランを打つ野球選手のように見えた。

 ギャリっと耳障りな音が周囲に響くと坊主頭は地面を何度も転がりながら木にぶつかった。

「ソースケ様ッ!」

 エリファの叫び声で前方から迫り来る槍を持った何かが近づいてきているのがわかった。

 その『何か』が人で、俺は進行形で命がヤバイと理解するのに時間は掛からなかった。

「右に上体を大きく反らせッ!」

 誰の声なのか理解できてないが、それに従い大きく上体を反らした俺の顔のすぐ傍を風が吹き抜ける。

 風は槍が通った為に起こったものだと横目で槍を眺めながら理解した。

「うおぉぉおうッ!?」

 叫んだ後に足から力が抜けて、俺はその場にへたり込んだ。何をやっているんだ、などと周囲の声が聞こえてくるが動かし方を忘れてしまったかのように足の感覚が無い。

 槍を持った人物が長髪で手に持った凶器を構える。夢から覚めるお決まりのパターンだが驚いて飛び起きるのは嫌だ。

「何をやっている、馬鹿ッ!」

 俺の目の前に青い影が躍り出て、目に見えない動きで長髪の男を張り倒す。その動きよりも、流れるように宙を踊る青い髪に見惚れていた。

「粗方片が付いたようですね……大丈夫ですかソースケ様?」

 エリファが俺の肩を持って揺らすが、何処となく意識は別のところに飛んでいるみたいな感じしかしない。

 何がどうなってるんだよ、夢にしては長いって。マジで。

「あ、少し頬を切ってますね……」

 言われるがまま、俺は右手で頬を擦ってみると、甲にべっとりと赤黒い液体が付着した。

 これが血だと理解すると痛みが左頬全体に広がり、放心状態だった俺の頭にもようやく考えるだけの余裕が出てきた。

「貴様ッ!」

 眉を吊り上げ、アリシャが俺の胸倉を掴み上げる。

「何故戦わない、剣を抜かないッ! それでも貴様は戦を生きてきた人間かッ!」

 胸倉を掴まれてあからさまに怒りをぶつけられ、俺は思わず口を開いた。

「俺が知るかよッ、何なんだよコレ! ワケわかんねーよ、こんなもんいきなり握らされ次は訳もわからず走らされ、終いにゃ戦え? ふざっけんじゃねぇよッ! 平和な時代に生きてきて、こんな凶器振るよりペン持って勉強しろって育ってきた俺に何を求めてんだよ、てめーらはッ!」

 関を切ったように次から次へと言葉が口から飛び出し、手に持っていた日本刀を地面に叩きつける。

 俺の反応に周囲の視線が集まるが、もう止まれない。

「ソースケ様、落ち着いてください……」

 肩に添えられた手を払い落とし、手の主のエリファが心底落ち込んだ表情を浮かべた時、高ぶっていた感情が一気に冷めた。

「わ、悪い……」

「とりあえず、クレアに報告しましょう、皆さん」

 エリファがアリシャと黒い髪の女の子に告げると、重い空気のまま俺達は街へと向けて歩き出した。


 −オルタルネイヴ領主の館−

「そんな、まさか!」

 クレアは驚き、手に持っていた紙を床にばら撒いた。

「こんな世界の人間には信用できないかも知れないけど、俺の生きてきた世界は戦争の無い平和な所だったんだ。人を殺す事よりも、ペン持って勉強していい学校、いい会社に入れって言われるところでさ」

 周囲の人間と顔を合わせ辛く、俯いたまま、俺は静かに喋る。

 散々夢だと思ってきたこの世界、さっきの怪我でも目は覚めない。当然だと言えばそうだ。俺は寝てないんだから夢を見ることもない。

 …ありえないが、コレが事実らしい。

「戦の無い国……少々信じられませんが、これは困ったことになりましたね」

 目の前のリーダー格の赤い髪の女性は何かを思案している。

「ちょっと悪いのだが、俺はこの国で生きていく自信が無いよ」

 一同は、先ほどの俺のダメダメッぷりを見ているから『確かに』と言った感じで頷く。

「とは言っても、帰るためには数ヶ月此処で暮らしてもらわねばなりません」

「悪いね……。ってちょっと待てッ!」

 リーダー格の女性は俺の話を聞いてなかったのか。クソ、まともそうな性格だと思ったのに。

 俺と同じように周囲の人間は驚き、リーダー格の女性を見つめる。

「此処数日の敵の動きをみらねばなりませんが、恐らく数ヶ月は敵の進行も弱まると思います」

 数日先を見通せるといった表情でリーダー格の女性は強く言い切った。

「クレア、それは何故?」

 エリファがリーダー格の女性…クレアに質問をすると、くすりと笑い口元に指を当てた。

「そんな気がします」

 悪戯を告げるときのような表情でクレアが呟くと、どっと、周囲の空気が笑いに包まれた。

 俺の周りを飛び交う笑い声に唖然とし、今の何処が面白かったんだろうかと、考えていた。

「では、話を戻しますが、元の世界に戻るためには覇気と闘気を使いこなさなければ難しいでしょう」

 俺を見つめ、クレアは言う。

「は、はきと、とーきですか?」

 全っ然訳わかんねぇ。この国の専門用語をいきなり出されてもなぁ。

「はい、ディレイラさん、アリシャさんよろしくお願いします」

「解った」

「……ん」

 アリシャと、ディレイラと言われた黒髪の女の子は双方自分の武器を構える。

 アリシャの武器は槍。自分の身長の倍は無いにしろ、自分より大きい武器を軽々と扱っている。武器の事がわからない俺でもそう感じ取れる。

「ディレイラ、行くぞッ!」

 短くそう掛け声を掛けると、アリシャの足元に風のようなものが巻き起こり、それが弾けた。

 次の瞬間には槍を構えて、物凄いスピードでディレイラに切りかかっているアリシャの姿が見えた。

「……」

 ディレイラは押し黙ったり、精神統一しているのか目を瞑ったまま、自分の身体の横幅と同じぐらいある剣を構えていた。

「…今」

 静かにそう呟くと彼女は力強く剣を振った。

 そのタイミングはアリシャが槍で突きを行ってきたタイミングぴったりで、両者の武器がぶつかる寸前に周囲を大きな光がさえぎった。

「うぉッ!」

「あれが覇気です、ソースケ様」

 眩しくて顔を背けた俺に笑いながらエリファが説明を行ってくる。

「私たちは身体の周囲にオーラのようなものを纏っています、それは盾と剣、どちらにも使えお互いに打ち消しあいます」

 ……はい?

 訳解りませんが。オーラがあって、剣と盾になって打ち消しあう?

 すいません、テストの成績四十人中二十後半から三十前半の駄目学生に解るように説明してください、プリーズ。

「そ、その顔は……とりあえず追々覚えていきましょう」

 思っていたことが顔に出ていたのか、エリファは苦笑を浮かべる。

 そして、何故か目の前で武器を合わせるアリシャとディレイラの様子はもっと白熱していた。

「あのエリファさん、俺今日からしばらく厄介になりそうですけど、何処で寝泊りすれば?」

 目の前の二人はスルーし、最も気になっていたことを問いかけてみる。

「えっと、あっちです」

 エリファが指差したのは、緑の芝生が生い茂る場所だった。

「……野宿?」

 無理、無理、無理ッ!!

 何度か公園とかで寝たことはあるが、流石にこんな街頭の一つもなさそうな世界の原っぱで寝るなんて無理!

 朝起きてたら野生の動物に身体毟られてました〜なんて笑えねぇッ!

「いえいえ、兵士駐屯場の兵舎に部屋を与えられると思いますので」

「え、えっと、要するに兵士専用のアパートがあるんだな」

「あ、あぱーと?」

 エリファは頭に疑問符を浮かべたが、俺が整理できれば多少の疑問なんか関係ないさ。

「ひ、一人部屋だよな?」

 口にしようかしまいか悩んでいたことを聞く。

 俺としては一人部屋の方が助かるのだが。色々と整理したいことや今後の事を考えなきゃならない。

「一応、私たちと同クラスの部屋を与えられると思います」

 ふう、それを聞いて安心した。

「とりあえず其処に案内してもらっていいかな?」

「はい、わかりました」

 クレアとエリファが俺を手招きし、なんか二人だけで盛り上がっているアリシャとディレイラを放置し、その場を後にした。

「そこだぁッ!」

「……甘い」

 などと、自分達の世界に入りきった二人の掛け声が聞こえてきたが、とりあえずスルー。


 −オルタルネイヴ、兵舎−

「うぉ、意外に広いな此処」

 クレアとエリファに連れられてきた兵舎はアパートというより、学校そのものだった。

 …藁とかで作られた案山子のようなものが無ければ。壁の一角に的があって、その周囲に無数の矢が刺さったであろう後が無ければ。

「此処では訓練も行いますし、兵士育成のための兵法なども学ぶところでありますね」

 マジで学校だ。時代が古ければ学校もこんな感じなんだろうか……。

 いや、それはないな。さっきも街を歩いてきたんだが、少しこっちと文明が違う。

 街頭のようなものが道に立っていたり、郵便ポストのようなものがあった。そんなものがあるとするなら、手に頼る作業から機械を導入し大量生産数の確保などを考えても良さそうなのだが、未だに機織のようなもので布を作ったりなんかしている姿が目立った。

「とりあえず、こっちが兵舎で、こちらが私たちの住む館になってます」

 エリファが学校の校舎のような建物じゃなく、少し小さめの館みたいなの建物を指差して言う。

「向こうのほうがでっかくていいけどなぁ」

 ぽつりと漏らした俺の愚痴にくすりとエリファは笑う。

「でも、あっちだと良くて三人部屋ですよ? ひどい場合は何十人と……」

「うーわ、それは嫌だッ!」

「とりあえず部屋に案内しますね」

 エリファの後ろをトコトコと付いていき、ある部屋の前で立ち止まる。

「ん、此処が俺の部屋?」

「そうですね。えっとあと歩きながら説明したように食堂とかの位置わかりましたか?」

「大丈夫だよ」

 そうは言ってみたものの、全く自信がねぇ。似たような場所ばっかで、全く訳わかんねぇ。たとえるなら、中学校の頃に行った学校行事のキャンプで泊まった青年の家みたいな感じ。 ゴチャゴチャして地図がないとマジでやばいかもしれない。

「とりあえず、明日また迎えに来ますので、それまでゆっくりとお休みください」

 そう言うとエリファはその場を立ち去ろうとしたが振り返り、

「戸締りはきちんと。あと、寝るとき剣は手の届く場所に置いて下さい。賊が侵入するかも知れませんので」

「あは、あははは……」

 其処まで治安悪いのかよ……。

 否応無しに俺の生活が始まろうとしていた。

やっぱり戦闘の表現は難しいです。

でも、まだがんばっていきます!


登場人物まとめ

特になし。

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