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第三十四話 『ベルジ戦6』

 −ケルヴィン隊−

「敵、我等に気が付き、体勢を整え始めました!」

「……思ったより早いな。だが、我等の半分にも満たない兵力で何処まで粘るかが見ものだな」

 ケルヴィンは物見からの報告を受け、唇を緩ませる。

 中央砦を奪回した後の敵の行動、兵力の分散。すべてが読みどおりであった。

 東砦で受けた苦渋を返すべく、ケルヴィンは兵を進める。

「皆、聞けッ! 我等で西砦に布陣した敵を引き付け、中央砦からの後詰を要請させるようにする! これで敵が動けばアリヴェラ平原で陣を整えているクロスロビンらが何らかの手を打ってくれる! もし万一敵が後詰を送らぬ場合は、我等が勝利ッ!」

 野を駆けながら、ケルヴィンは剣を抜き放ち、声高らかに宣言する。

 彼の頭の中には戦の流れが東砦で謀られた時点で既に出来ていた。

 ベルジ地方に存在するルノ帝国の兵はおおよそ二百。だが、二度の戦闘で少なくとも総兵力の三分の一程度は減っている。

 そんなルノ帝国が各砦に兵力を割くとするならば、兵数五十程度が限界である。ガリンネイヴ平原からの援軍が出てないことも解りきっている。早急に他地方への足場を固めたいルノ帝国側としては早々にベルジ地方にある砦に兵を置き、援軍を待つはずである。

 手薄になった西砦を自らの兵百六十で攻め、中央砦へと援軍を要請するように仕向ける。

 そうすることで、次は中央砦の守りが手薄となり、アリヴェラ平原へと退いた味方が中央砦を攻めるという流れ。

 アリヴェラ平原の味方と打ち合わせをしてはいないのだが、ガリンネイヴ平原を取り戻すべくシュレイム地方、ベルジ地方、両方に注意を向けているはずである。

 早急に動かせる兵は少ないものの、十分中央砦を攻め落とせる。そうケルヴィンは考えていた。

 だがこの時、彼はまだルノ帝国の動きを把握しきれていなかった……。


 −西砦−

「敵、砦を簡易包囲するようです! 布陣は大手門に固まっており、中央砦へと向かう道を開けているようにも思えます!」

 櫓に登っている味方の兵士が叫ぶ。

 やっぱり敵はなんか企んでいやがる。一見兵の少なさから両方の門を包囲するのを躊躇ったように思えるが、実際俺達は同じぐらいの兵力で此処の砦を包囲した。

 周囲をガッチリ囲む必要はねぇ、両方の門周辺を固めれば何とかなるからな。

「では、敵の思わぬ行動に備え、ディレイラ隊、ローチ隊で打って出ます」

 レシアの指示を聞き、数人の兵士がローチの部隊が待機している場所、ジーニア、エリファらが待機している場所に走る。

 始まるぞ……気持ちを切り替えろ、真田槍助。

 自分自身を落ち着かせるために、何度も心の中で言い聞かせる。

 数分後、静かにレイラが先頭に立つ。

「合図を出して……出る」

 大手門を守る兵士が甲高い音の出る矢、鏑矢を空に向けて放つ。

 数人掛かりで大きな門を開き始める。少し離れた場所にアド帝国の旗を掲げた一団が見える。

 開いた門から風が砦内に吹き込んでくる。戦が始まるッ!

「ディレイラ隊……突撃ッ!」

 レイラが宣言すると、周囲の兵士らが大声を上げ、走り始める。

 俺も遅れないように、他の奴より大きな声を上げて外に飛び出した。


 −ケルヴィン隊−

「敵、打って出てきました!」

 大きな鬨を聞き、ケルヴィン隊に動揺が走る。

「何ッ!?」

 ケルヴィン自身も、ルノ帝国側の思わぬ行動に驚きを隠せない。

 守備で精一杯で攻勢に出るほどの余裕は無い。誰もがそう思っていたのだ。

「援護射撃始まりました! 敵砦内にも兵力は残っているようです!」

「前線の部隊、敵と交戦開始、敵の思わぬ攻撃に統率を失い、崩れております!」 

 傷を負った兵士が陣内へと転がり込んでくる。

 ケルヴィンは立ち上がり、号令をかける。

「全隊、進めッ!」


 −ディレイラ、ローチ隊−

「敵は崩れ始めた。このまま押せるところまで押す……」

 敵と戦い始め、段々と兵士達が散らばってゆく。それでもレイラ達は前へと進む。

 先頭が足を止めちまえば、戦の線が其処までしか延びない。進めば進むほど、俺達が退いた後に敵に与える影響が大きい。

 敵に踏み荒らされた陣地を見れば嫌でもその敵がどれだけ強いかってのが解って来る。もし、次これと同じような突撃が来たら…と不安にもなる。

 数としてはこちらのほうがやや少ないが、こうして相手に恐怖を与え続けて行けば、怯え、その場を逃げ出したくなるもんだ。

「敵、前進してきます!」

 少し離れた場所で見ているだけかと思った一団がこちらに向かってくる。

「敵迎え撃ちます!」

 レシアの号令と共に、前進を止め、敵と戦うべく陣形を整える。

 レイラレとシアは速やかに陣の中央へと戻ってくる。

 その数分後、集中豪雨とも思える矢が俺達の頭上に降り注ぐ。

 身体を丸め、小手で頭をかばう様にして覇気障壁を張る。

 何本かが障壁をすり抜け俺の身体を掠る。

「ッ!?」

 むき出しになっている肩に痛みが走る。

 視線を少し向けてみると、肩からは血が滲んで、超痛ぇ。

 だが、エリファ達が俺にくれた小手は相当良いものなのか、単に前俺がしていた小手が安物だったのかわからないが、減速した矢がぶち当たっても壊れやしない。

 矢の雨が止んだ時、少し離れた場所で剣がぶつかり合う音が始まる。

 徐々に広がっていく陣形。

 個人個人で戦闘を開始したようだ。

「ッ!」

 また……だ。また例の偏頭痛が始まりやがった。

 戦の緊張はどうにも慣れないらしく、自分の命を賭ける場面が近づけば近づくほど、高確率で頭痛が起こる。

 治まれ、治まれっつうの、この馬鹿ッ!

「覚悟ッ!」

 西洋風の兜や鎧に身を包んだ男が剣を振り上げ、俺に向かってくる。

 左上からの斬り下ろし。残念だが、そんな隙の大きい動きじゃ俺は倒せねぇッ!

 軽く後ろへ飛び、着地と共に重心を前に押す。

 勝手に足が前へと出て、真横に刀を振る。

 目の前に透明の壁があるように、手に少し硬い感覚。

 だが、まだこんなんじゃねぇ。

 真横に振り終わった手を曲げ、脇を閉め、そのまま突き。

 まだ手ごたえは無いが、もう一撃ッ!

 手首を捻り、斜め下から切り上げる。

 先ほどと違う感触が手に伝わってくる。

「がッ!?」

 兜と鎧で身を包んだ敵は数歩後ずさり、鎧が無く、身体剥き出しの左わき腹を抑える。

「負傷者は下がれッ!」

 後ずさった敵の斜め後ろからマントを翻し、青い髪の男が俺に向かってくる。

 兜は着けていないが、鎧、剣どれを見ても造りが良さそう。

「ケルヴィン・ジェフリダー、いざッ!」

 青い髪の男、ケルヴィンの斬り下ろしを咄嗟に刀で受ける。

 速さ、刀から伝わって来る力、すべてがさっきの奴の比じゃねぇッ!?

 咄嗟に両手で持っていた刀の柄から左手を離す。

 ケルヴィンの込める力が一気に右手に降りかかる。

 やべぇ、マジでこいつ力強ぇ。

 空いた左手をケルヴィンの剣部分にぶち当てる。このままこいつと鍔迫り合いなんかしてたら、こっちの身がもたねぇッ!

 金属同士が削れる甲高い音が周囲に響き、ケルヴィンの剣が少し浮く。

 よし、今の内……。

「うぉッ!?」

 俺の行動より早く、もう一度刀と剣がぶつかる。

 軽く打ち上げる程度じゃ、ケルヴィンの力は抜けてない。

 小手と刀を使い、懸命に剣を抑える。

 くっそ、このまんまじゃ、ジリ貧だ……なんとか、なんとかしなきゃッ!

「中々面白い剣だな」

 ケルヴィンはそうつぶやくと、剣を構えなおし、俺に息をつく暇を与えさせないように、次の一撃を叩き込んでくる。

 それを刀で弾き、剣の軌道をずらしながら、敵の隙を探る。

 斬り下ろし……これを刀で受け、剣先を滑らせながら刀を振ればッ!

 黒板を爪で削ったような鼓膜に悪い音が響き、刀と剣の接点から火花が散る。

 完全に剣先が宙を斬った、攻めるなら今だッ!

 そのまま刃先を左上から右下に走らせる。

「ふッ!」

 完全に意表をついた行動だった筈なのに、ケルヴィンは難なく俺の一撃を受け止める。

 だが、流れはまだ死んではいねぇっ!

 振り下ろしきるのと同時に、刀を右から左に走らせる。

 それも意味を成さず、ケルヴィンに防がれる。

 相手の動きに注意を払いながら突きを繰り出すと、ケルヴィンは剣の刃に手を当て、無理矢理突きの軌道をずらした。

 金属音と火花が散り、互いに距離を一歩取る。

「……その剣、東国の者が良く使う剣に似ているな……お前は亡国の流れ者か? それにその髪の色、珍しいものだ。ルノ帝国に異色の当主が居るというフィンレルム家の者か?」

 口を開いても、隙を全く見せない。

「ボーコクだとか、イショクだとか細けぇ事は知らねぇ!」

 肩で息をしながらも、ケルヴィンの全身から目を離さない。どんな小さな隙でも見逃すかよ。

「そういうことか……お前がコールヒューマンだな」

「へ、探せば色んな所に居るようなコールヒューマンじゃねぇ、俺は真田槍助だッ!」

 初っ端は先攻奪われちまったが、今度はこっちの番だッ!

 柄を握る手に力を込めて、刀を振り下ろすが、まるで俺の行動を読んでいたかのように、ケルヴィンが反応する。

「その身体では想像も出来んほどの強い打ち込みだなッ!」

 行動の一つ一つに余裕があるように振舞っていたケルヴィンの顔が初めて歪む。

「だがッ!」

 大きくケルヴィンが踏み込むと、渾身の力を込めた一撃が弾かれる。

 やべぇ、このままじゃ勝ち目がねぇ……俺がどんなに頑張っても、こいつには通用しねぇのかよ!? 今まで味わったことの無い感覚が一気に押し寄せる。

 背中から汗が吹き出る。

 そうだ、今思ってみれば、俺は元はただの高校生なんだ。

 今まで色んな奴と戦ってきたけど、あれは殆どが まぐれで勝ったようなものじゃねぇか……。

 冷静に考えりゃ、こっちの世界の人間と俺とじゃ、生きてきた年数がいくら一緒だろうと、過ごしてきた内容が違いすぎる!

 ずっと戦うことばかり考えてきたこいつらが、もし俺達の学校に来たら、絶対テストは赤点の山だろう。植物の光合成すら知らなかったぐらいだし。

 じゃぁ、逆はどうよ? 勉強して、友達と遊んで、家に帰れば親が飯を作ってくれて……そんな甘え尽くしの俺が、こんな弱肉強食の世界に飛び込んだらッ!

「多少はやるようだが、まだまだだな。コールヒューマンと言っても所詮この程度のものか。歩将ゲイアを討ち取ったのも単なるまぐれか、それとも……」

 ケルヴィンが剣を構える。

 つ、次が来る……。

 本気のスイッチを入れるように、ケルヴィンが一つ深呼吸をする。

「ッ!?」

 先ほどとは別人のような強く、速い打ち込み。

 一撃を防ぐと、逆方向からの強い一撃が連続して襲い掛かってくる。

 必死に捌けば捌くほど、ケルヴィンの一撃は重さ、速さを増し俺に襲い掛かってくる。

 疲労で動きのテンポが遅くなり、刀を握る力も落ちてくる。

 筋肉の疲労、息切れ。

 もう何がなんだかわからなくなってきた。

 考えるのも煩わしくなってきた。

 どうにでもなれ。

「何ッ!?」



「さ…な…ッ!」

 何かが目の前を横切り、音が鳴る。

 その直後、黒い何かが俺とケルヴィンの間に割って入る。

「さ…か……し…くだ…いッ!」

 誰かに後ろから手を引かれ、目の前からケルヴィンが遠ざかる。

「だ…ん、しっ…り…して……いッ!」 

 乾いた音が鳴り響く。

「サナダさん、しっかりしてくださいッ!」

 目の前にレシアの顔。視界の下方から、真っ直ぐ伸びる線。

 頬が熱い。

「大丈夫ですか?」

 レシアが両手で俺の頬を挟んでいる。痛みは恐らく、気付けの為に頬を張られたんだろう。

「あぁ、大丈夫だ……」

 全身が気だるく、痛い。

 体育のマラソンの授業を終えた後のような疲労感が全身を襲う。

「俺は一体…?」

 落ち着いて周囲を見渡してみると、遥か遠くでケルヴィンとレイラが打ち合っている。

 遠くからでは詳しいことは解らないが、レイラはケルヴィンと互角か、それ以上の打ち込みをしている。

「サナダさんは恐らく覇気を使いすぎたんです、サナダさんが持っているすべての力を使い尽くしてもなお、無くなった力を使おうとして、身体がついていけなかったんです。その証拠に意識が混濁、全身に強い疲労感を感じた筈です。敵は完全に押し切りました。砦に一足早く戻りましょう、そして休んでください」

 俺はレシアに連れられ、戦場を後にした。

ちょっとばかしタイトル弄ってます。

試行錯誤ちゅうなので……。

とりあえず話は盛り上がってきているのでしょうか?

ではまた次話にご期待ください!

お付き合いいただき、有難うございます!

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