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第三十三話 『プレゼントの後にやける俺』

 −西砦−

 朝日が昇る前に目が覚めた。なんとなく寝苦しかった、ただそれだけである。

 もう一度寝ると言う気分にもなれず、俺は少し早いが起きることにした。

 まだ周囲は薄暗く、のどかな田舎の朝を思わせる清々しい空気を吸うとなんとなく心が落ち着く。

 寝床のすぐ傍に置いてある小手が目に留まる。エリファ達が俺にくれた小手。新しい玩具を買ってもらった子供がするように、綺麗に磨き飾ってある。

 意味もなく小手を着けてみる。

 重量感はそこそこあるが、動きにくいと言う重さではない。無意味に頬が緩む。

 ヤッベ、これじゃぁ危ない奴じゃねぇか。

 小手を着けたのだから、いっそのこと完全武装することにした。

 最初こそ戸惑いはしたけれど、ひそかに一人で装着を何度も行った為、今では簡単に着けられる。

 そんなことをしていたら、薄暗かった空も徐々に明るくなっている。朝焼けを見るのもいいか。

 見張り担当の兵士が居る櫓に登る。

 縄と木で出来た梯子を上り終えると、一人大きな弓を抱え、遠くを眺めているエリファが居た。

「早いな……一体いつ寝てるんだよ」

 エリファの横に並びつつ、遠くの山から日が昇ってくる景色を眺める。

「あ、サナダ様…早いですね?」

 いや、それはこっちの台詞だっつーの。俺はたまたま早く目が覚めたからこうして動いているわけだけど、エリファはきっと、毎日がこんなに早いはずだ。その台詞はそのまま返すぜ。

「目が早く覚めただけだよ。エリファの事だ、きっと毎日こんな時間に起きてたんだろ? そっちの方がすげーや」

 俺の答えに、エリファは微笑を浮かべる。

「私は朝日が昇る時間の空が好きなんですよ」

 確かにそれは俺も好きである。特に夏の朝なんかは超素敵。徹夜の嫌な気分、すべて吹き飛ばしてくれる。

「それに……ッ!?」

 エリファは急に櫓に設置されてある鐘を叩きだす。

「何をッ!?」

 耳に響く鐘の音。時代劇の火事の時のような音。鉄で出来たバケツを力いっぱい鉄の箒で叩いた音。そんな音が西砦の中に鳴り響く。

 エリファが急に鐘を叩きだした事で、他の櫓からも同じような音が聞こえてくるようになってきた。

 おいおい、なんかの大会かよ? それにしては朝早すぎるぞ。まだ寝ている奴もたくさん居るだろうに。

 ちらりと砦の外に目をやると、何かの集団が真っ直ぐこちらに向かってきていた。

 朝の冷たい空気を切り裂いて西砦を目指し進む一団。

 巻き起こす土煙から見て数人なんかじゃない。何十、いや百何十人という数がこちらへと向かってきている。

「配置につけ、敵襲ですッ!」

 エリファが声を張り上げると、テントの中から鎧などを中途半端につけた兵士達が飛び出してくる。

 敵が来たのかよッ!? 方向からして中央砦じゃない、平原の方からだ! つうことは何か、平原の味方は打ち破られちまったのか!?

 いや、そうじゃない!東砦へ進路を取ってきた敵が砦を取り返しに来たんだ!

 やっぱり兵力を三つに分散しなくて正解だッ! 数は微妙に敵の方が多いだろうけど、地の利はこっちにあるッ!

「サナダ様ッ! ディレイラさんらと話し合い、打開策を立てましょう!」

「了解ッ!」

 答えを聞くよりも早く、エリファは梯子を駆け下り始める。でかい弓を持っているとは思えないほどの軽快な動き。俺もエリファに遅れないように梯子を駆け下りる。

 櫓を降りると、砦の一番開けた場所にはレイラとレシア、ジーニア、アリア、ローチといった、この砦の中で兵を指揮する奴らが集まっていた。

「……真田、こんな所に居た……」

 眠りから急に呼び起こされた所為か、レイラの体調は優れなさそうだった。だが、それもあと数分もすれば、いつものレイラに戻るだろう。

「東砦の敵がこちらに奇襲を掛けて来たんですね」

 レシアは小手を付けながら、敵の襲撃に備えている。こちらは寝起きは悪くなさそうで、いつもどおりの様子。

「やれやれ、休憩する暇ぐらい欲しいのさっ」

「アリアさん……戦場に居るのですからいつ戦闘が起こってもおかしくは無いのです」

 アリアとジーニアのコンビ。この二人の事はあまりわからない。

 だが、その様子を見るに、敵が攻めてくる可能性を頭の中に入れていたようで、冷静さを保っている。正直驚いている俺とは違うな。

「これからですけど、打って出ますか? それとも中央砦からの援軍を呼び、一気に殲滅しますか?」

 赤い髪の男、ローチが口を開く。

 この男、俺と同い年か少し下ぐらいだと思わせる外見である。でも、左頬に剣のようなもので出来たと思える傷があることから、かなり戦場に出ているようだ。

 とりあえずエリファや味方の見張りが早く敵の存在に気付いたおかげで、敵が砦を包囲するまでには対策を決めれそうだ。

 いつものように冷静に状況を考えろ。

 敵は陽動を掛けようとした部隊を無視し、東砦ではなく西砦へ進んできた。中央砦から東砦まで移動する時間と東砦から西砦まで移動する時間はほぼ変わらない。

 敵が陽動を行った部隊の存在を知っているなら、そちらに向かうはず。

 予想兵力は陽動に向かった部隊と、西砦の俺達が加わる前の兵力は変わらない。となればわざわざ遠くの部隊を攻める理由が見当たらない。

 敵の動きから考えられることは、何か理由があって、この西砦を狙っていた…ということだ。

「やはり此処は無駄に兵力を消費しないためにも、中央砦に使いを出し、援軍を待って一気に……」

 ジーニアが話を進め始める。

 確かに今この地方にあるこちらの兵力は限られている。その限られた兵力をいかに温存していくかが大事になってくるんだろうが、なにか、何かスッキリしねぇ。

 急に頭の中に浮かんできたギャグが、どの芸人のネタだったかと思い出せない時のように。

 俺達の周囲を駆け回る兵士達の姿があまり目立たなくなってきた。おそらく、配置につき終わりかけているんだろう。

 そろそろ方針を決めなければいけねぇな。

「では、援軍を中央砦に要請し、援軍が来るまで……」

 敵の最終目標はこの砦の後ろ、中央砦か。

 中央砦を攻めるのなれば、やはりこの西砦を攻める理由が無くないか? 確かに足元を固めたいとはいえ、リスクが高すぎる。中央砦を今ある兵力で攻めようとするなら、やはり無駄な戦闘は避け、隙を突いて一気に取り返すのが一番……ッ!?

「ちょっと待ってくれ、敵は俺達で迎え撃とう! 中央砦から援軍は要らない!」

「それでは被害が大きくなるだけなのです。手柄に拘り、敵にこの砦を奪われては目も当てられないのです。此処は確実に砦を守ることを考えて動くべきなのです、コールヒューマン」

 ジーニアは怪訝そうに眉間に皺を寄せる。

「違う、手柄とかそんなんじゃねぇ! 此処で中央砦の兵力をこっちに割いちまったらワザと西砦に兵を割り振らなかったのが無駄になっちまう!」

「西砦に兵を置かなかったのは、行動の見えない敵の一団に警戒してのはずなのです。敵の目標が解った今なら、中央砦の兵力を割いてもなんら問題は無いのです」

 確かに、確かにそうだけど、敵は今砦に向かっている奴等だけか!?

 俺の考えでは、中央砦の向こう側、名前は知らんが、ヘラベラだか、アリベラ平原だかに退いた敵も怪しい!

「もし、もし中央砦の向こう側へと逃げていった敵が、中砦からこっちへ援軍をやり、手薄になったところを突いてきたら!? 今、この砦に向かってきている奴らが陽動だったらどうするんだよ!」

 ゲームで体験したことと実際の戦争は全く違うが、歴史もんのシュミレーションゲームではよく国の一番上側と下側を同時に攻められて苦戦した記憶がある。

 もし、俺の考えが全く違うと言うならば、その可能性が全く無くて俺の考えすぎだと言うならば、此処に居る奴らが俺の意見を捨てるはずだ。

 だが、俺が可能性の話を口に出したとたん、他の奴らは黙り込み、考えているじゃないか。

 無言の時間がやけに長く感じる。

 そして、その沈黙を破るように、ジーニアが口を開く。

「コールヒューマンの言う事は可能性の話でしかないのです」

 そうか、じゃぁしょうがない。もし、万が一の事になったら、また皆で知恵を出しゃいいだけだからな。

 ジーニアは身を翻し、頭と尻に矛先のある左右対称の短い槍を持ち直す。

「ですが、敵が今まで行動を遅らせていた理由が必ずあるのです。この地方での一番最初の西砦、東砦奪回の時に後れてこちら側の意図に気が付いた敵ですが、急げば中央砦攻めの時に戻ってこれる距離なのにも関わらず、敵は一度姿を消したのです。これには必ず裏があるのです。此処は皆さん、コールヒューマンの言うとおり、私たちで敵を抑え、状況により、援軍を要請するのです」

 他の奴らも納得したように、俺の話した方針で話を進める。

 ジーニアは二つの策を出す。砦を包囲せず敵があくまでも時間を稼ぐような行動に出たときは、守備のエリファ隊を残し、残り三隊で突撃を慣行。

 敵が砦を完全に奪おうとしたときは、レイラとローチ隊で打って出て、敵と戦い、すぐに砦内へ退き、時間を稼ぐというものだ。味方の疲弊によって、突撃する部隊を調整する、とのこと。

 今までずっと攻めてばかりの戦だったが、今回は守る戦。

 守ってみせるさ、砦も人も。

とりあえず話数も多くなってきたので、後日サブタイトル編集を行います。

これからも頑張ります!

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