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第三十一話 『ベルジ戦5』

 −ベルジ地方中央砦−

「搦手門は落としたぞッ! 皆雪崩れ込めぇぇぇッ!」

 遠くで大きなときが上がる。そんな声を聞いて俺は我に返った。

 周囲を見渡すと、折れた矢や剣、鎧の破片などが散乱している。周囲を見渡すと少し離れた場所にレイラとレシアが居た。どうやら乱戦で周りが見えなくなっていたらしい。随分と長い時間、刀を振るっていたような気もするが多分気のせいだろう。

 腕時計でもあれば…と考えつつ、落ち着いて状況を整理する。

 俺たちがこの砦に突入したのは今居る地点より十数メートル離れた大手門。そして先ほど裏門……搦め手門から大きな鬨が上がったという事は、おそらく門の突破に成功したんだろう。

 と、いうことは何だこの戦俺たちの勝ちか。残るは目の前の敵をぶん殴ってこの砦から追い出せば終わり……なんだかあっけない終わり方だな。

 こういう場合、砦にはボスキャラみたいなのが居るってのがゲームのセオリーっちゃセオリーだが、そんな大物が出てくる気配もない。

 いや、そんな奴居ないほうがいいんだけどな!?

「真田……お疲れ」

 呆然と砦内で佇んでいた俺の肩をレイラが叩く。

 砦内の敵は両門が突破された事により形振り構わず逃げ出し始めていた。流石にどんな馬鹿でも四方を敵に囲まれたりしたらその場に留まらず、早々に逃げ出すだろう。

「さて、サナダさん。これから五人一組となり砦内の探索を行います。敵は敗走を始めたとは言え、まだ敵の中には戦う意思を持った者も居ます。その者達が砦内に潜んでいた場合を考え、いつも以上に気を張り砦内を探してください。もし、残党と戦闘になった場合は一人で先走らず、必ず味方を呼んでください」

 レシアは俺にそう告げると次々と組み割りを発表していく。俺はレイラと一緒の組のようだ。

 元々敵の砦だったから敵の残党を探すのは解るが、なぜいつも以上に気を張る必要があるんだ?

 一人考えをめぐらせてみる。

 圧倒的に敵が多い場所にわざわざ残るということは余程のひねくれ者。

 いや、そうじゃないな。逃げずに命を捨ててでも敵を一人でも多く倒すという意思があるんだ。

 敵の集団の中に残るって事はそいつの頭には生き残るって選択肢はない筈。そんな強い決意を持った奴とやり合うとするならば怪我一つ負わないなんてありえない。

 そうか、納得。多人数で敵を探すのは敵と戦闘になった時、被害を抑える為。探索中に気を張るのは敵がいきなり襲ってきた時の場合を考えてか。

「真田……私と一緒。くれぐれも気を抜かないこと」

 レイラと他三名と一緒に砦の大手門からじっくりと敵を探して回り始める事になったのだが、メンバーの表情は険しく、周囲に必要以上に気を配っているのが解る。それにつられる様に俺もいつも以上に周囲に気を配りながら建物内を探す。

 二ヶ所と砦内の兵舎などを探したのだがその中には誰も居らず、放課後の教室のように静かで寂しかった。

 三ヶ所目、蔵のような場所を探すことになったのだが、どうやら此処は武器庫のようだ。蔵の中には無造作に矢が転がっていた。

 他の場所とは違い、窓など一切無くまだ昼過ぎだと言うのに中は薄暗く家の押入れの臭いがした。

「ッ!?」

 一歩、もう一歩と蔵の中に足を踏み入れると、当然耳鳴りがし、周囲の音が聞き辛くなった。

 それでも無理して微かな物音を聞き漏らさぬようしていると、蔵の端で物音がした。

「レイラ、さっき音がしなかったか?」

 隣に居たレイラに質問してみる。レイラは少し視線を反らし、考え込むように聞き耳を立てる。今更そんな事をしても先ほどの音は聞き取れるはずも無いのだが、俺もきっとそうするだろう。

「……いや、特には……」

「さっきそこら辺から音がしたと思うんだが……」

 抜き身になったままの日本刀の先で音がした場所へ切っ先を向ける。明かりを持った一人がその場所を照らすと、震える手で剣をこちらに向けて怯えきった表情の男の兵士が居た。

「…アド帝国の者……?」

 レイラは確認を取りつつもいつでも大剣を振れるようにスタンバイしているのが解る。

「こ、降参だ……命だけは助けてくれ!」

 男はその場に持っていた剣を投げ捨て、地面を転がりながら剣は男の手に届かない場所まで転がった。

 俺はその剣を目で追い、男よりもその剣に注意を向ける。

 男は他の四人が注意して見ているが、剣は誰一人注意して無いだろう。もし男の他にもう一人この蔵に潜んでいたら? 男のこの行為は命乞いよりも仲間に剣を投げ渡すためだったのでは? と様々な疑問が頭に浮かぶ。

 疑心暗鬼になることはどうかと思うが、疑い深い方が今の状況ではきっといい。

「……では鎧を脱ぎ捨て、こちら間で来い……」

 レイラは視線を男から外さず、鎧を脱ぐように命じる。俺だったらそのまま来いって言ってしまいそうだが、この男がもしかしたら武器を隠し持っているかもしれない。そう考えるとレイラのこの行動は正しい。

 男は渋る様子も無く鎧を脱ぎ捨て、蔵の壁に手を掛けて立ち上がる。そのまま男の前に三人、背後に二人並び、男を囲むような形で外に連れ出す。

 明るい場所に出て解ったのだが、この男右足を怪我している。右足の脛に無造作に巻かれた包帯と包帯の隙間から、足を両方から挟みこむように添えられた木のようなものが見える。きっとこの砦攻めで足を折ったか挫いたかしたんだろう。おぼつかない足取りでこの砦攻めで捕まえた兵達が集められている場所に向け、ゆっくりと歩き出す。

 この男も災難だな、足さえ怪我していなければ逃げられたものを。あんな暗い場所に一人隠れていたこの男は相当不安だっただろう。と男の背中を眺めながらそんな事を考えていた。

 あれ、ちょっと待て。おかしくないか?

 もし、俺があいつと同じ状況に居たなら、もう少し判りやすい場所に居るな。あんな場所では戦う意思が無くとも切り殺される可能性が高い。それに大雑把だがあの男の足には包帯が巻かれていた。と、言うことは少なくとも男は何処かで一度応急手当を受けている。あのようにおぼつかない足取りでまた持ち場に戻れば他の奴の邪魔になる。そんな奴が何故武器庫に居たのか?

 ……まさか?

「うぐッ……」

 人気の少ない場所で男が急にしゃがみ込む。男は右足を両手で擦り始める。

 俺は刀を強く握り締めた。怪しい、怪しすぎる。怪我をして何故あの場所に居たのか?

「傷が痛むのか? もう少し辛抱しろ……傷の手当ては他の捕虜達が居る場所で行われている筈……」

 五人組みのうち一人が心配そうに男に声を掛ける。男は中々立ち上がらず、ずっと両足を撫でている。

 強く打った時は足を撫でてしまうが、切り傷や擦り傷、打ち身の時は怪我の患部には触りたくない。触ることにより必要以上に痛む。これは俺だろうがスピリットヒューマンだろうが変わらない事だろう。

 俺は男の足だけを見つめていた。

 男は数回足を撫でるていると、内側…足の親指側に添えられている添え木を握った。それを静かに下に引き抜き始める。

 やべぇ、あいつやっぱり怪我はフェイクかよ!?

 焦り、刀に手を添える。

『強く……強く刀を握りなさい……』

 俺は強く刀を握ると同時に抜刀し、その男の背中を左下から右上へと切りつけ、そのまま首へと刀を走らせる。

 力の抜けた男の手から短刀が転げ落ちる。男は何も言わないままその場に倒れる。

 自分でも驚くほど、正確な動きだった。

「さ、真田ッ!?」

 俺の行動に驚いたレイラが俺を見つめる。

「よ、よく気がついたな……」

 他の三人も俺の行動に驚き、目を丸くしている。

「え……あ、あぁ……」

 四人に気の抜けた返事をしながら俺は自分の手を眺める。

 自分でもよくわからないまま、動いた気がする。

 反射神経とはまた違った感覚だった。

「真田……今の……一体? いつもの真田の剣とは比べ物にならないスピードだった……」

 レイラは驚きを隠せない表情で俺を見つめたまま。実際俺も何がどうなったのかまったく解んない。

 俺の身体、一体どうしちまったっていうんだ?

 

三十話こえたあたりからあとがき再開。

とりあえず近日中にはサブタイトルを修正していこうと思いますです。


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