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第二十七話 『また戦…休ませろ!』

 ーガリンネイヴ平原ー

 暇を持て余していたのがまるで夢だったのかのように、周囲の兵士達が慌しく動いている中、まだ何が起こるのかイマイチ理解できてない俺は、その様子をただ眺めているだけ。体育祭などの後片付けをサボっているような後ろめたさがあったが、下手に手を出してもかえって邪魔になるだろうと思い、喧騒を眺めていた。

 ズボンのポケットに手を入れ、木に背中を預けていた俺の目の前を、槍を手にしたアリシャが大股で通り過ぎる。声を掛けようか迷った。考えてみれば、どうも俺は奴に嫌われているようなので、話しかけてもろくに相手もしてもらえないだろう。

 そう思うと、のど元まで出掛かった言葉を飲み込み、視線だけアリシャを追う。

「其処ッ! 早く運べッ!」

 自分の部下に怒鳴りつけるアリシャ。相当機嫌が悪いようで、もし声を掛けていたら十中八九何らかの言いがかりを付けられていただろう。声を掛けなくてよかったと、ため息をつきながらアリシャが歩いてきた方向を見ると、レイラとレシアが並んで歩いてこちらに向かっている。

「なんかアイツ、相当機嫌悪そうだけど、どんな指示を受けたわけ?」

 目の前を二人が通りかかった時、背中で木の幹を押し、反動を利用して歩み寄り、声を掛けた。二人とも顔色が悪いようだが、アリシャと違って他人に当たるような事はしないだろ。

「いつも仏頂面だけどよ、今日はそれに輪をかけてって感じだろ?」

 アリシャの機嫌が悪い理由が気になって、二人に問いかける。流石の俺でも、本人に機嫌の悪い理由を聞き出す度胸は持ち合わせていない。

 レシアが困ったような表情を浮かべ、レイラは俺の話を聞いていたかイマイチ解らん。

「私達も出陣の要請が出たんですけど……」

「ですけど?」

 歯切れの悪いレシアに続きを促す為、復唱し顔を見つめる。表情は冴えず、いつもニコニコしているレシアらしくない表情。

「ベルジ地方への出陣になりまして……」

 ベルギだかベルジだか解らんが、とりあえず其処が次の目的地なのか。また何時間も歩かなきゃいけないのかよ。

 長距離歩く事に慣れていない俺からしてみれば、確かに嫌だが、それがアリシャの機嫌の悪い事につながるんだ?

「やっぱきついの?」

「はい、今回こそ、勝てるという見込みはありません……なにせ、二百の兵でベルジ地方に駐留している三百五十ほどの敵と戦わなければなりませんからね……」

 距離的にきついのかと問いかけたのだが、レシアは丁寧に次の戦の説明をしてくださった。

 それもそうか。俺達は遠足に行くんじゃないんだよな、戦争をしにいくんだから。大方、アリシャの機嫌が悪かった理由はそれだろうな。

「でもよ、二百と三百五十って言えば、此処での戦と兵力差は殆どねーだろ。前のは本陣が動いてくれなかったからきつかったが、今回は数も少ないから皆動くだろうし」

「何が一緒なんだよ、全然違ぇよ」

 背後からの聞き覚えのある声に一度身を震わせ、おそるおそる後ろを振り向くと……奴が居た。

「あ、アリシャ……さん」

 まさか、アリシャが会話に加わってくるとは想定してなかったから、必要以上に驚き何故かさん付けで呼んでしまう。

「シュレイム地方の敵はおおよそ三百未満。こちらの兵力も三百。それだけでなく、平原から後詰で百程度の援軍を出すってなぁ……そんだけ動かせるってんなら、その百をこちらに加えれれば確実だというのに!」

 今にも握り締めた拳を振り上げそうな形相でアリシャが吐き捨てる。

 今の情報だと、シュレイム地方は味方四百程度、敵は三百程度か。うわ、俺そっちに行きてぇ。

「でもよ、上の奴らだって阿呆じゃないだろ、俺達が行くベルギー地方はそれだけの兵力があれば十分だって思ったから……」

「そんな訳ねぇだろッ!」

 俺の言葉を遮ってアリシャが拳で木を叩く。そんな行動に大人に叱られた時のように、俺の腹の下辺りがきゅっと縮こまった。

「ベルジ地方には敵の砦が三つ。二手に分かれ、進軍しながらまずは二つの砦を同時に叩かなければならねぇ。こっちは二手に分かれるのだから、百程度の兵力。敵は前線の砦に最低でも百二十の兵を配置しているだろう」

 ふむ。説明を受けてみるとたった二十人しか変わんないんじゃないか。確かにちょっときついかもしれないけど、アリシャやレイラ達の部下達は強い。前の戦でもかなり敵を押していたし、兵そのものの実力はこっちの方が上なんじゃないか?

 歴史シミュレーションゲームみたいに兵そのものの強さは数字で表してくれないけど、俺の頭でも、この戦はレシアやアリシャ達が危惧するほど、深刻なものには思えない。

「でもそうは言うけどよアリシャ、お前やレイラやジーニア、エリファらの部下はそんなに弱かねぇし、実際何とかいけるんじゃないか? たった二十人しか違わないんだ。足りない兵力とかは、強い奴が頑張ってカバーすれば……」

 俺の言葉にアリシャは大げさにため息をつく。確かに気合論とか通用するはずは無いんだが、それしか言いようが無いだろ。

 学校の騎馬戦だって、数が圧倒的不利になったら必ずしも負けるとは決まってない。残った騎馬の頑張りで勝てたりするし。

「数ヶ月こっちに居て多少は知識が付いたかと思ってたが、全く変わってねぇな。確かに、強えぇ奴が居れば何とかなるだろう、野戦では。でも、今回こっちがやるのは野戦じゃねぇんだよ、俺達がやるのは砦攻め。防衛拠点を叩かなければいけねぇんだ」

「きょ、拠点攻め?」

 いや、そんな単語初めて聞いた! 意味はそのままの意味だろうが、何でその砦を攻めるってだけでそんなにやばいような言い方をするんだよ!?

 とにかく敵と戦うって事には変わりねぇだろ!?

 目でレシアに救いを求めると、レシアは頷き、地面に絵を書き始める。

「サナダさん、まず野戦とはガリンネイヴ平原での戦のように、外に互いに陣を張り、正面からぶつかる総力戦です。この場合は互いの戦闘条件は一緒ですが、砦攻めは攻め手よりも、守り手のほうが有利です」

 駄目だ、全然解らん。

『そんな事は無いはずよ。貴方もちゃんと身をもって砦攻めの大変さを知ってるはずよ。小さい頃にやった遊びとかで』

 ずきりと頭が痛む。クソ、何時から俺は偏頭痛持ちになったんだ!?

 そのおかげか解らないが、頭の中がすっきりしたような感じがする。

 攻めと守り……そうだ雪合戦に例えて考えてみよう。

 お互いの陣地から相手に雪玉投げても、あんまり効果はないから、絶対相手の陣地近くまで行って雪玉を投げるよな。で、その時……あ、そうか。そういうことか。

 相手の陣地の中にはあらかじめ雪玉をたくさん作ってストックを作ってるけど、こっちは地面から作るしかないわけで。雪玉の補給もし辛い。加えて、相手には色々とこちらの雪玉を防ぐ盾があるけど、こっちは野ざらし。

 砦攻めってのはそういうことなんだな。

「……レシアつまりはこういう事か? 敵は砦に引きこもる。俺達はその場所から敵を追い出したい。だが、相手も同じ事を考えているはず。数から考えてみれば敵の方が少し多いだけだが、相手には防御施設がある。数が多い上に、有利な条件が揃い過ぎている。そう言う事だな」

「そのままアトレシアが言った事を復唱してるだけじゃねぇか」

 アリシャが呆れ顔で頭を掻く。

「つまりだ。ベルギー地方ってとこには敵が三百五十人ほど居る。そして敵は三つの砦を持っている。前線の二つの砦に確実百から百五十ほどの兵を配置し、後方に残りの兵を待機。どちらかの砦の状況が悪くなったら助けを出すってとこだな。そして味方の援軍のほうだが、後もう一つの地方への援軍を出すらしいから、きっとこちらに裂く援軍はそう多くは無い。もしこちらにも同じだけ援軍を出せば、どちらかの地方で負けてしまった時、そのまま平原へを奪われて、ゲームオーバー。その為には平原に敵を迎え撃つだけの兵力は残しておかなければならない。簡単な話、俺達は敵を足止めして、もう一つの地方を確実に取り返すための囮ってところか?」

 俺の頭の中が冴え渡り、スラスラと今の現状を喋れる。俺の推測を聞いていたレシアとアリシャの顔色がみるみる変わる。

「そ、そのとおりです……」

「ふん」

 俺が模範的な説明をしたせいか、アリシャはそのまま踵を返し、自分の陣へと戻った。

 騒ぐだけ騒いだアリシャの去ったほうを眺めながら、俺は自分の口から出た言葉が信じられなかった。

「真田……準備しないと……私達が遅れてしまう」

 レイラは俺の肩を叩き、後片付けに追われている兵の元へと掛けた。

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