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第二十六話 『戦功…おかしいだろ』

 ーガリンネイヴ平原ー

 俺の初めての戦が終わって三日が経った頃、戦に出ていた将らが呼び出された。本来、俺は陣で待機という話だったが、レイラの計らいにより参席することになった。

 肩書きとして、俺はコールヒューマンとか言うのなんだが、実質地位とかはそんなに高くないらしい。参加しなければならない話と、参加してはならない話の区別がつきにくいったらありゃしねぇ。

 どうせなら、顔パスで何でも出来るような権限付けてくれよな。

 ま、こんな場所でもらえる権限って言ったって、武器庫顔パスとかか? ぜってーやだ。

 移動民族の住居のようなテントが密集した真ん中に、目的の場所があった。

 入り口の布は、学校に寄贈されてあるテントのような感触で、どうやって作ったか結構気になる。

「むぅ、こんなに将が居たのかよ……」

 急遽作りました、という感じが漂う集会場。そんな狭いテントの中に三十人いかないぐらいの人間が入り込んでいる。

「先日の戦は我が方の勝利であった。皆、ご苦労」

 数人の親衛隊を連れ、エドラがテントの中に入ってくると将らの顔を一瞥し、一番奥へと進み、大きな机の前に立つ。

「まず、今後の流れと、今回の戦功について話をしよう」

 当然のように、エドラが話を進める。いつ見ても好感をもてない奴だ。

 他の将らが待ってましたと言わんばかりに、エドラの声を聞き漏らさないように半歩前に出る。

「今回、我等がこの平原を敵の手から取り戻した事で、シュレイム地方、ベルジ地方への足掛かりが出来た。両地方とも全て敵の手に落ちており、今後は二つの地方合わせて六つの支城、砦を奪回する」

 机の上の大きい地図を指し、エドラは駒を進める。必死にそれを見ようと、俺は背伸びしてそれを見る。

「もう数日は此処で体制を整え、オルタルネイヴから援軍が来るのを待つ。援軍と元兵力、合わせて七百程度になるだろう。これを三つに分け、平原に留まる部隊に兵数三百、シュレイム地方に三百、ベルジ地方に二百兵を分ける」

 うーむ、戦の話になると全く解らんな。

 解る奴の余裕か、他の将らも今後の戦況よりも、戦功の方が気になっている様子で、七割ほどの奴は上の空だろう。

「まだ詳しく決まってないことでな、また軍議を開くのでその時にでも。では、次に戦功の発表を行う」

 此処に居る将らが一番気にしていた事なのだろう、上の空だった奴らは意識を取り戻し、今後の説明より明らかに盛り上がってきている。

「まず、戦功第一は、アシュナ隊である。あの戦況で、よく働いた。今回の戦で比類なき働きである」

 ちょっと残念な気がした。テストで総合点数一番が取れなかった時とか、体育祭の徒競走の時みたく。

「次に戦功第二……」

 それからしばらく戦功の発表があったわけだが、アリシャにレイラ、ジーニアの名前が出てこない。それどころか、後方で動かなかったエドラの名前が出ている事には正直驚いた。

 周囲の人間も、その戦功がおかしいということには気が付いているのだが、口に出さない。

 アリシャ、レイラ、レシアらの顔が覗える。三人の顔は、悔しそうに、唇をかみ締めている。

「……おかしくねーか、これ」

『なっ、馬鹿ッ!』

 周囲の人間が俺の口を押さえるが、時既に遅かったようだ。

「今、何か言ったか?」

 エドラがこちらを向いて怪訝そうな表情を浮かべる。

 こうなったら全部言っちまえ! 俺は命掛けて戦ったんだ、それぐらいいいだろ。

「あぁ、だからこの戦功おかしいって言ってるんだよ。別に戦功の順番とか関係ねぇが、でも、アリシャやレイラにジーニアらだって頑張ってただろ」

「可笑しな事を言う。もともと、そいつ等は自警団。こうして、今この場に居られるのも臨時の将と言う肩書きを与えてやっているからで、元々軍の兵らを指揮する権限すらないのだ、これ以上のこの話題は無駄である。軍議はまた後日」

 エドラは逃げるようにその場を後にする。周囲の将らもこちらに残念そうな視線だけを向け、足早に去ってゆく。

「お前ッ、なんて事をッ!」

 周囲の将らが居なくなって、アリシャが俺の胸倉を掴みあげる。

「だって、納得いかねーじゃんかよ! 何にもしてねー奴が頑張ったような事言ってさ、そんで頑張ってた奴らが、がんばってねぇなんて言われるのは!」

「確かに真田様の言うとおりですが、実際この場での発言力があるのはやはり、私達ではなく、正規将らですよ。悔しいことに」

 エリファが俺を嗜める様に、肩に手を置き、アリシャの手を外す。

「…戦功なんて関係ねぇ。俺は、俺の戦をする。ただ、それだけだ。そして真田、俺はてめぇをまだ認めたわけじゃねーからな」

 吐き捨てるようにそう言い残しアリシャはその場を去る。

「エリファ、レイラ、レシア……一体、何がどうなってるんだよ?」

 頭の中がこんがらがって、冷静な判断が出来そうにない。

「…なんとなく、今の状況がどんなものなのか理解していますが、あくまでも私の推測ですので、あまりアテにはしないでくださいね」

 エリファがそう言い残すと、場所を変えるため、その場を後にした。


 −エリファの陣−

 俺達がエリファの後に続いて、テントの中に入ると、重々しくエリファが口を開く。

「まず、私達は二年前からのアド帝国の侵略で軍に手を貸すことになった自警団です。今、こうして自警団が百名程度の兵を率いてるわけですが、上の考えでは、正規の軍と言うより、義勇軍といったところでしょう。だからこそ、正規軍じゃない集まりが必要以上に手柄を立てられては困るという話です」

「……つうことは何か、俺達はどんなに頑張っても意味がないというのか?」

「いえ、決してそういう訳ではありません。私達がこれから更に手柄を立てれば、さすがに上もその働きを無視など出来なくなります。そうすれば、仮領主であるクレアの発言力も高まり……」

「今の扱いを返れるって訳か……」

 …偉い奴らの考えなんてわかんねーけど、とりあえずこのまま黙ってるわけにはいかないぜ。見てろよ……。

 外に出るなり、戦功報告があったテントの方向を見て、決意を新たにする。


「なぁ、レイラ……俺達は後どれぐらい待機しなきゃならないんだ?」

「さぁ……今のところ何の連絡も無いから…」

 戦功報告が終わって三日が経つ。

 他の部隊は兵を纏め、移動を始めたが、俺達はずっと待機のまま。

 いくら待っても、沙汰が出ず、暇を持て余したエリファとレイラ、レシアは三人で近くの街に行った。

 結局、夜近くになって、三人が紙袋を抱えて戻ってきても、まだ指示はでなかった。

 翌日の朝、急にお呼びが出たらしく、アリシャ、エリファ、レイラ、ジーニアはエドラの元へと向かった。

 これからまた、戦が始まるのか……。

 周囲のスピリットヒューマンらが忙しそうに陣幕などを片付けている様子を眺めながら、拳を握るとまだ完璧にふさがってない傷が痛み、顔をしかめた。


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