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第二十三話 『ガリンネイヴ戦6』

 −ガリンネイヴ平原、外れの獣道−

「その話、乗ったでござる」

 真田が半ば諦めかけ、肩を落としていた所に思いがけない言葉が掛けられる。

「マジで!?」

 この言葉が流行り出してから、ずっと真実をもう一度確認する時に、必ず使っていた言葉を急に変えることなどできないようだ。真田本人も変えるというよりも、その言葉の意味を教えて召喚された世界の住人に覚えさせようとしている。どっちが手間や労力的に厳しいか考えればすぐ解る事なのだが。

 どんよりとしていた表情を輝かせ、カコウへと近づく。

「ま、真血でござるか……?」

 近づいてくる真田と距離を取って、カコウは頭に真っ赤な血を思い浮かべて問い返す。

「そうそう、マジかよ!」

「き、貴殿しか血は流しておらぬでござるが……?」

 全く話がかみ合っていない。それもその筈だろう。道端で外国人に道を聞かれたのは良いが、その目的とする場所の単語が日本語じゃなく、難しい英語で言われたら殆んどの人間が解るはずが無い。まさに真田とカコウの会話はそのようなものなのだ。

「あぁ、もう、時間がねぇ。早く助けに行ってやってくれ!」

 自分で話をややこしくしていた本人が図々しくも一行を急かす。

「調子に乗ってッ!」

 この一団の中心人物のカコウ、ロウキュウ、チュウショウの中で一番短気なチュウショウがやはり怒りを露にする。

「ショウ、落ち着いて。とりあえずカコウ殿の決定だ、皆を纏め、早急にオルタルネイヴの救援に行く」

 真田は二人の会話を聞きながら、自分の所属する国を言ったか思い出したが、言った記憶が無い。

「そういえば……俺、国の名前言ってな……」

「だが、ロウも、カコウ殿も! もう少し戦の流れを見て動くべきだ! まだ流れが、勝敗がはっきりしない状況で打って出るのは万一の時、また仲間が!」

 真田の言葉に割り込み、チュウショウは声を荒げ、槍の尻の部分にある石突で地面を叩いた。

 大きな音が響き、具足の肩の部分を守る袖が音を立てる。

「アンタらは戦に参加する事、決定だな」

 真田は不適に笑い、チュウショウの胴を右手の拳で軽く叩く。

何故なにゆえッ!」

「そりゃ決まってんだろ、こっちの奴らと敵さんの実力は同じぐらい。それにあんたらのような武人が加わりゃ、勝利は決定!」

 とびっきりの笑顔を見せ、真田は靴紐を結び、集まり出したカコウらの部下を眺めて、日本刀を抜き放った。

「皆、案内は俺に任せろッ! そして、死ぬんじゃねーぞ!?」

 そう言うと、真田は加速をつけてまた駆け出す……いや、飛び出すと言ったほうが適切かもしれない。

「なっ…皆の者、あの者を追うぞ、見失うなッ!」

 ロウキュウが号令を掛けると、百人ほどのスピリットヒューマンらは一斉に真田を追って駆け出した。

「……しっかし、なんという奴だ」

 先頭を掛けながらチュウショウは、遠くに見える真田の背中を眺めて呟いた。

「左腕と身体を数箇所、負傷している者の動きではないな」

 ロウキュウも段々開いてゆく距離感を感じ、呆れたような表情を浮かべる。

「皆の者、手負いの者に負けてなるものか、もっとスピードを上げるでござる!」

 いくらカコウが兵を鼓舞しても、地面に足を付けて走る一団と、靴の裏にスプリングを付けて跳ねて歩くような状態といえる、真田との距離は縮まらず、寧ろ開いてゆく一方。

「一体、何者でござるか……?」

 カコウはペースを下げ一心に駆け抜ける真田にその言葉を投げかけた。


 −ガリンネイヴ平原、ジーニア・レイラ隊−

「何で本陣は動かないのです!? このような状況下になっても見物を決め込むつもりなのですか!」

 ジーニアは縄跳びのような両持ち手の先に槍の先と縄の部分が鎖で出来ている武器を敵の兵士の喉元に突き立てながら、全く動く気配のない味方本陣を睨み、吐き捨てる。

「十六人衆も……所詮はそのようなもの……まじで」

 周囲の敵兵を片付けたディレイラは、肩で息をしながら長さ一メーター、幅二十数センチの大剣を地面に付き立て、それにもたれ掛かった。

「密集陣形を組んでは居ますが、敵の波が強すぎて、徐々に包囲されつつあります……」

 アトレシアも疲れきった表情を浮かべ、周囲を見渡す。

 後方までは包囲されてないものの、扇状に広がって行く敵の陣形を見て、もう一度ため息を付く。

「サナダさんは安全な場所に退いたでしょうか?」

「そう……だといい」

 ディレイラとアトレシアは後方で動く気配を見せない陣を一瞥し、空を見上げる。雲一つ無い無い空だった。


 −ガリンネイヴ平原、クロスロビン隊−

「かぁぁぁ、敵のディレイラ隊、援軍のジーニア隊、結構やるじゃねーか! おもしれぇ、だがそれが何時まで持つかな?」

 扇状に広がった陣の中央でクロスロビンは二隊の予想外の奮闘振りに鼻息を荒くする。そんな彼の元に伝令を伝える為に兵士が転がり込んできた。

「後方からアシュナ隊が接近、このままでは挟まれます!」

「大丈夫、落ち着け! 兵力数的には互角だが、こっちの方が一人一人のほうが強い! エンルフ、マッシュ隊を迎撃に当たらせろ、俺とリーネ隊で目の前のディレイラ、ジーニア隊を叩き、敵本陣の横っ腹を突く、そのまま一気に撤退だ!」

 クロスロビンは慌てた様子は無く、当然のように兵を動かす。

 傍に居た伝令の三名は今来た兵士を残し、一斉に散った。

「さーて、軍師さんはきっとディレイラに会えなかっただろうな。あのコールヒューマンの傍に居た黒い髪の女、あれがディレイラだろう。中々に別嬪さんだったな」

 空を仰ぎ、クロスロビンは少し前の戦闘の事を思い出す。


 −ガリンネイヴ平原、アシュナ隊−

「見えた、敵本陣だ!」

「もう戦闘が始まってるな、ディレイラ隊はまだ残ってっか!?」

「あの旗は、ジーニア!?」

 アシュナ、アトラッシュ、アリシャが続いて言葉を発する。

 三人の目に映るのは敵の波に飲み込まれようとする、危険な状態の味方の姿と、このような状況になりつつも、援軍一つ送らない味方本陣の不甲斐なさ。

「くそ、敵を突破して合流するしかないが、数が多い!」

 アトレシアが唇をかみ締め、剣を持つ手に力を入れる。

「前から敵の部隊が反転し、こちらに来るぞ!」

 アリシャが槍を突き出すように構え、加速する。

「こいつら倒さない事にはさなだんに合流できねーだろ!」

 アトラッシュは槍のように長い剣の柄を肩に担ぎ、大きく跳ぶ。

「目の前の敵は叩くのみ!」

 アシュナは剣に闘気と呼ばれる気を溜め、一呼吸置いてそれを衝撃波として前に打ち出す。打ち出された気がうねりを上げ、目の前の草地を容赦なく抉ってゆく。


 −ガリンネイヴ平原、小高い丘−

「あれは……アシュナ隊だっけ? 何とか敵を分散させることに成功したのか?」

 戦場を一望できる丘にたどり着いた真田とカコウら。すぐ真下ではルノ帝国兵と、アド帝国兵が入り混じって戦っていた。

「皆、準備は!?」

 自分の親しい仲間に声を掛けるような調子で物を言う真田。不思議と周囲から不満の声などは上がらない。それを確認した真田は日本刀を掲げる。

「貴殿の武器、拙者らと似ているが……」

 カコウが真田の持つ日本刀を見て呟き、自分の刀を抜き放つ。

 真田とカコウの武器は外見はほぼ一緒だが、決定的に違う箇所があった。

「私らの国の鍛冶ではこの長さが一番なのだが、それより短すぎると、かえって折れやすかったりするのだが……」

 真田の日本刀の長さはおおよそ七十センチほど。カコウらの持つ刀はおおよそ九十センチほどで、一般的に野太刀と呼ばれる部類のものだ。

「人から貰ったから詳しい構造や作り方は知らねー」

 カコウらの刀をチラリとも見らず、真田は熱心に人を探している。

「よし、まだレイラ、レシアは健在! まぁ、元気って訳じゃねーが、死んでねぇ!」

「先ほどからその二人の名前を出しているが、どういう間柄なのだ?」

 ロウキュウが不思議で堪らないという表情を浮かべ、真田に問う。

「ぜってー死なせねぇ二人、死んで欲しくねぇ二人。そして俺の夢、いや目標の二人だ」

「夢……で、ござるか?」

 カコウも真田と距離を置きつつも質問する。

「あぁ、俺の周囲の人間、ぜってぇ幸せにするって。戦の無い世界作るっつうのが俺の目標、夢、誓いだ!」

 カコウ、ロウキュウ、チュウショウはそれぞれ三者三様の表情を浮かべる。感動を覚える者、何を言ってるのか理解できないという顔、心の底から呆れきった顔。

「さて、皆頼むぜ?」

 真田が振り返り刀を強く握る。

「レイラ、レシアッ! 助けに来たぞッ!!」

 大声で下に向けて叫ぶと、真田は一気に丘を下り始めた。

「あの大馬鹿ッ! 叫んじゃ意味がない!」

「ヤレヤレ……」

 チュウショウとロウキュウは呆れ果て、面頬に手を当てる。どうやら頭を抑えてたいという気持ちの表れのようだ。

「皆の者、東国武士の底意地、見せる時でござるッ!!」

 カコウも負けじと声を張り上げ、それに続き、兵士が雪崩のような勢いで戦場に降り出し、戦の流れが変わったのを知らせる為か、一陣の強い風がガリンネイヴ平原を吹き抜ける。


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