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第二話 『召喚への決意』

 青く澄み切った空を見つめる赤い髪の女が居た。その女の見つめる先には空の色を覆ってしまうかもしれないと思える黒煙が立ち上っていた。黒煙は一時間ほど前から立ち上り始めていた。時間から考えてそろそろだろう。

「伝令ッ!」

 静かな空間だった部屋が急に騒がしくなる。伝令と叫んで飛び込んできた兵士の姿はひどい。肩に矢を刺し、鎧は砕け、身体のいたる所に切り傷を負っている。特に左手の出血がひどく、鎧の下に着ている服が赤く染まりきっている。

「我が方、アリヴェラ平原での戦い…敗戦ッ!」

「そう……ですか」

 解りきっては居たが、こうも戦力が違うものなのか。と赤い髪の女は唇をかみ締めた。

 戦は朝方に始まり、昼を少し過ぎた時点で敗戦。地方での小競り合いとも言える戦闘なので、大人数での戦闘ではなく、百人とか千人単位での戦であるがそれを考えてみてもやはり戦闘をしていた時間を考えると短い。それほど敵の兵力が優れているのだろうか、それともこちらの兵が弱いのだろうか。そんな事を考えながらも女は口を開いた。

「被害の状況は?」

「はっ、負傷者が六割ほど出ております。死亡者は一割程度かと」

「主だった指揮官の死亡者は?」

「皆全て無事かと……」

「そうですか…では、下がって傷の手当てを」

「はっ」

 兵士はそう言うとよろりとよろめきながらも立ち上がり、部屋を出ようとした。その背中に何かを言おうと女は口を開こうとしたが、言葉が見つからずただ見送るしかできなかった。

 それから二時間もすると、城の大手門の辺りが騒がしくなってきた。戦に出ていた人間が帰って来たのだろう、そう思い、女は静かに広間の椅子に座った。

 数人の足音が近づいてくる……。

 バタンと荒々しく開け放たれた扉から数人の人間が広間に入り込んでくる。

「クソッ! 何で他の隊は動かないんだッ!」

 荒々しく扉を開け放った青い髪の女は手に持っていた槍を地面に叩き付けた。

「アリシャ…怪我は無いですか?」

 椅子に座っていた赤い髪の女は苛立ちを隠せない青い髪の女……アリシャに語りかけた。

「すまん、クレア…また……」

 アリシャはそう言うと椅子に座っている赤い髪の女…クレアに頭を下げた。ポニーテールのように束ねた髪が申し訳なさそうに垂れる。

「いえ、この戦は負けます。私達ががんばってももう、どうしようもない戦なんです」

 ぎりっと唇をかみ締めてクレアは言う。この苛立ちがクレアが押し秘めてきた言葉の鍵を開けてしまったのかもしれない。

「本来私達は街の自警団でした。それが二年前のアド軍の侵攻で私達自警団は街を守るために戦いましたよね。それの結果、私達はいつの間にか軍に組み込まれて、今のこの現状……やはり、経験の無いものが人の上に立つべきではなかったのでしょうか……」

 アリシャと共に部屋の中に入ってきていた緑色の髪の女はクレアの肩に手を置き、笑顔を向けた。

「誰しも人の上に立つという事は経験が無いんですよ、それを失敗しながら色々覚えて行くんです。今は押されてますが、いつかはきっと挽回します!」

 緑色の髪の女はそう言い聞かせると、ガッツポーズをして、一生懸命気が落ちかけているクレアを元気つけようとしていた。

「エリファ……そうですよね、人の上に立つものが簡単に弱音を吐いちゃいけませんね……」

 クレアが何かを決意したと同時に広間に一人の兵士が入り込んできた。

「クレア様…軍議を行いますので、大広間までお越しください」

「はい、解りました」

 クレアは兵士に連れられ、広間を後にした。


 大広間の丸い机には数人の騎士達が座っている。クレアの席は其処には無く、大広間入り口のすぐ脇に立ち、国王の登場を待った。

 数人の豪華な鎧を着けた騎士と共に国王が大広間に入ってきて周囲の騎士たちを見て、椅子に座る。

「では、軍議を行う」

 軍議の執り行いを任されている騎士はそう言うと、立ち上がり現在の戦況などを言う。

「…と、言うことであって、ルノ帝国の領土は少しずつであるが、アド帝国の進行を受けている状態である、まだ六つある領土は守り通せている」

「何を呑気なことを言っていやがる、今もまた負けて、オルタルネイヴ領も三分の一ほどはアドの手に落ちたんだろ!」

 がっしりとした体格で、髭を生やした男は机を叩く。

「で、だが、オルタルネイヴ領を任されている私としての意見は、敵の数が多く、領内の戦力だけではどうしようもならない……それに私は私の領があり、其処の防衛も……」

「何を言っていやがる、てめぇはてめえの領土増やすために領主の居ないオルタルネイヴもまとめるって言ったんだろうが! それを途中で曲げたりするなッ!」

 がっしりした体格の髭男と、今オルタルネイヴを任されている男は折り合いが悪く、軍議の際ではいつも領土を巡って言い争いをしている。

「…オルタルネイヴは我が国の入り口であり、その領を奪われてしまってはどうしようもない。ネイド殿はネイド領よりもオルタルネイヴ領を優先してもらいたいのだが」

「ルノ国王ッ!」

 オルタルネイヴを任されている男、ネイドは不服ありと口を尖らせる。

「へへ、いいじゃなぇか。てめえのご自慢の騎士団を使えばいいじゃねぇかよ」

「しかしそれをしてしまえば、我がネイド領に進行が来たとき対応が……」

 此処に居る領主達は自分の領土を守ることが大事で、他の領の事など二の次。そして敵に侵略されている領ならなおさら。

「…国王ッ!」

 クレアは口を開いた。周囲の視線がクレアに集まり、クレアは一歩足を下げようとしたが、踏みとどまった。

「ネイド様はネイド領を纏める事で精一杯のご様子、バルドス様も同じようにバルドス領だけで手一杯のご様子……」

 クレアはネイドと髭男、バルドスを交互に見て言う。クレアが口を挟んだことで両者の矛先がクレアに向けられる。

「自警団風情が口を慎め!」

 ネイドは高圧的な態度でクレアを怒鳴りつける。

「実質、お前の自警団員は使えぬ奴らが多く、それによって我が騎士団もどれほどの被害を……」

「口ではそういいますが、敵の兵力以下の人間しか動かさず、自身の保身しかやってないように思えますが?」

 クレアはネイドを睨みつけ、言葉を続ける。

「一度、ガディア様の件で代わりに受け持つと言ったからには責任を持っていただきませんと…そしてバルドス様も、同じようにオルタルネイヴ領をネイド様と統治権をめぐり話し合いを行ったなら、統治権が貰えずとも、手伝いぐらいはするべきかと思いますが?」

「領を持たない自警団長が知ったような口を聞くんじゃねぇっ!」

 やり取りを見ていた国王は埒が明かないと理解したのか、三人のやり取りを止め、口を開いた。

「で、クレア殿は何が言いたいので?」

「はい、この際私にオルタルネイヴ領全ての統治権を委ねていただきたいのであります」

 クレアが口にした事を聞いた五人の領主達はざわめいた。それも無理は無い。クレアが口にした事は、私を領主にしろと言うことそのものだった。

「…よかろう」

 国王の言葉で更に大広間内がざわめく。

「ただし、オルタルネイヴはアド帝国の侵略を受けているのだぞ? それを任せるということは領内全てのアド軍を駆逐しろという意味でもある。もし、それができなければ……」

「愚問を。私には策があります」

 クレアはそう言うと大広間を出た。

「ふう、何て事を言ってしまったんでしょうか……」

 クレアは空を見上げ、アリシャたちの待つ広間へと足を進めた。

「クレア…軍議はどうだった?」

 アリシャは暇を持て余していたのか、鎧の手入れを行っていた。エリファも同様で自分の弓の手入れに力を入れていた。

「とりあえず二人は兵をまとめ、オルタルネイヴの領主の館に戻りましょう、話はそれからです」

『解った』

 アリシャとエリファはお互いに頷き、部屋を出た。

「これからが本番ですね……」

 クレアは空を見上げ、きゅっと口を結んだ。


 ーオルタルネイヴ領主の館ー

「では、今から軍議で決まったことを…あれ、ジーニアさんは?」

 クレアは周囲を見渡し、一人の指揮官…クレアの元では将と呼ばれているが、その将が一人足りないことに気がついた。

「あぁ、ジーニアちゃんならさっきの戦で怪我して治療中さっ」

 一人の赤い髪の女が前へと進み出て能天気にケラケラと笑った。

「アリアさん……」

 呆れた表情でエリファはアリアと呼ばれた能天気な女を叱咤した。アリアはてへっと笑って舌を出す。どうやら反省していないようだ。

「では、まず私達自警団がこのオルタルネイヴ領の全てを任せられました。後日、国王直属のお目付け役が数人来るでしょうが」

 クレアの突然の告白に将達はざわめく。

「く、クレア!? それは本当なのか!」

「そ、それって、領主になったようなものでは……」

 そんな周囲の言葉を遮り、クレアは語る。

「ですが、今の現状、油断したらなし崩しに敵の進行を許してしまいます、そのためには一度、領内に居る敵を足止めしなければなりません。そのためには何か敵が警戒して情報を集めるような手立てをやらなければ……」

「しかし、それはどうやって?」

 エリファがそう口を開くと、クレアはにこっと笑いかけた。

古道具アーティファクト……を使用し、英雄をこの世界に呼び出します」

 古道具とは遥か昔から存在する正体不明の道具で、その形はいろいろ。使い方などの研究はされていたが、失敗したときの被害が大きく、古道具でできることは限られていた。

「古道具によって別の世界とこちらの世界を繋げる方法はわかります、文献にも使用方法は書かれています。ここまで出来ているなら何とかなるでしょう」

 クレアのやろうとすることは賭けであるが、其処に居る皆が現状を理解していて、それに頼ざるを得ない状況であった。

「では、皆さんは待機でお願いします、私の後は国から来る国王直属の人に……」

 クレアの言葉の伝えようとする意味を理解して、アリシャ達は声を荒げた。

「つまり、お前は自分の命を賭けてまでやるというのか? ……馬鹿馬鹿しい」

 アリシャはそう言ってクレアに背を向ける。そんなアリシャをエリファが叱咤する。

「アリシャさんッ!」

「一人で大きな見栄を切って自分は早々に逃げるなんて卑怯者だ。俺は一度クレアに死にそうな所を助けられた。そう思えば俺はもうあの頃に死んでいるも同然で、今此処に俺が居るのは全てお前の為なんだ」

 アリシャはそう呟くと静かに己の槍を柱に立てかけた。

「あ、アリシャ?」

 クレアは心底驚いた顔でアリシャを見つめたが、口元を緩め一言、ありがとうと呟いてその肩に手を置いた。

「………」

 クレアの手にもう一つの手が重ねられる。手を重ねた主は黒い髪の女で、西洋風の服とは違い東洋の巫女服に似たような服を着ている。

「ディレイラさん……」

 重ねられた手の主を見てクレアはふるりと全身を震えさせた。

「…私は特に理由は無いけど……手伝う」 

 呟いたのかと思えるほど小さな声だが、その声はしっかりと意思を持ち力強く周囲に響いた。

 そんなやり取りを眺めていたエリファはくすりと微笑み、クレアに語りかける。

「この二人がこうなってはもうテコでも動きませんよ? そして私も」

 周囲の部下…いや友たちの決意にクレアは目頭が熱くなるのを感じたが、それに負けないよう強い声で三人に言った。

「今から召喚の為の準備を行います!」

二話目出来上がりました。

此処でちょっとお話の登場人物まとめを。


クレア…元オルタルネイヴ自警団のボス。赤い髪。女。

アリシャ…青い髪でポニーテール。武器は槍。女。

ディレイラ…黒い髪。女。

エリファ…緑の髪、カチューシャ。女。

ジーニア…怪我してる。女。

アリア…能天気。女。


ネイド…ネイド領を治める。領主の居ないオルタルネイヴ領の仮領主もやっていた。男。

バルドス…バルドス領、領主。ネイドとオルタルネイヴの仮領主権を取り合った。ネイドとは不仲。


アド帝国…ルノ帝国に絶賛侵略中。

ルノ帝国…アド帝国に侵略されてる。

オルタルネイヴ領…ガディアの件で領主が居ない。

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