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第十九話 『ガリンネイヴ戦2』

「真田ッ!」

 レイラが俺の元に駆けつけようとするが、他の敵兵士により遮られる。

「サナダさんッ!」

 レシアも同様、手が離せない状況で、どうやら援護は望めない。

 不味い、転がっている刀まで少し距離があるし、刀を拾いに行く瞬間を奴は狙っている。どうすればいい?

 背中に嫌な汗が流れる。この先の俺の行動一つで、死ぬか生きるかの分岐点になってくる。流石にこの状況でライフカードを取り出すっていうギャグなんかやってる暇はねぇ。

「……ん、お前何処かで見た顔だなぁ」

 キャッチャーメット兜の男、ゲイアの唇が少し緩む。全く、いやらしい笑い方だ。男の俺ですらそんな感想を抱くなら、女性がこの笑顔を見たらどう思うだろうか。

「……」

 歯を強くかみ締め、ゲイアを睨みつける。奴は何かを思い出すように剣で手の平を叩いて遊んでいる。完全に舐めてやがる。

「あぁ、思い出した。あの町の生き残りか、おっと怖い顔しなさんな。あの焼き討ちだって俺もしたくてやった訳じゃない、少々あの町があると我々の行動に支障をきたすのでな」

「ちっちぇ支障のために町一つ滅ぼす必要があったのか? 子供から老人まで、殺した大半が民間人、いやヒューマンスピリットだろ。戦には関係ねぇ人たちだった!」

 脳裏に優しかった人達の顔が浮かぶ。皆、戦には関係ない生活をしていた。必死に日々を生きたいた。

「力の無いヒューマンスピリットなど、存在するだけ無駄である。無駄に食料を消費し、自らの財を集めるのに必死で、問題が起こればすぐにスピリットヒューマンに頼る。そんな弱者など世界が必要とするか?」

「戦をしない人間が文化を発展させてゆく!」

「文化など、戦により滅び去るのが道理! 良い例があるではないか、東に位置していた国。戦いを忘れ、いざというときに役に立たない文化を発展させて、外国に攻められて滅びた国が。生きている限り、戦い抜いて生きてゆくしかない!」

 ただ虐殺をしているだけかと思ったが、ちゃんと考えがあって動いていたのか。それでも役に立たないとか、邪魔だからという理由で自分と違う奴を虐げていい理由にはなりやしねぇ!

「永遠に続く戦いの先にあるのはやっぱり戦しかねぇ。何処かで、その流れを変えていかなきゃいけないんだ」

「まぁ、最後の言葉としては実に面白い」

 ゲイアは剣を構え直し、切っ先を俺に向ける。ダメだ、良い手が浮かびやしねぇ。

 今の俺で出来る事を考えろ。身体は大丈夫だ、左手が切られて少し痛むぐらいで。一撃、一撃を凌いで刀を取る。

「恥じることは無い、歩将ゲイアとこれほどまでやりあったのだからな、名前を聞いておこう」

「真田、真田 槍助」

 名乗らないということも出来たが、何とか隙を作るために出来ることは何でもやるしかねぇ。

「ふむ、生き残りではなく、その髪の色、聞き慣れぬ名前、コールヒューマンか。お前はこちらの世界に呼ばれるべきではなかったな、元の世界で生きてゆけば……」

「今から死んでいく奴にそんな言葉は要らないだろ」

 ゲイアはそれもそうだ、と哀れみをこめた微笑を浮かべ俺の喉元に狙いを定める。

『何こんな雑魚相手に手こずっているのよ、アンタはこんなところで死ぬ人間? もう諦めているわけ? 此処は戦場なのよ、腕の一本や二本犠牲にしてでも生き残るしかないわけ、命賭けるんだから無傷で事を済まそうなんてムシが良すぎない?』 

 諦めかけた俺の頭の中に誰かの言葉が響く。

 そうだ、何諦めようとしていたんだ俺は。まだ何一つ約束を果たしちゃいねぇ、この身体の全てを使って生き残るんだ!

「さらばだ」

 ゲイアの一撃が俺の喉元に向けて迫ってくる。

「わりぃ、まだ俺は死ねねーんだ!」

 喉元を庇うように右手の小手をゲイアに向け、左手の小手を盾にするように手を突き出す。

「!」

 死ぬことを受け入れたと思っていたゲイアの顔が少し戸惑う。それでも、剣のスピードは落ちず、俺の左手の小手を切っ先が貫いた。

「つぅぅッ!!」

 痛む左手に力を込めて腕を振る。滴り落ちる血が青々とした雑草を赤く染める。

「往生際が悪いッ!」

 ゲイアが剣を引くよりも早く、切っ先を左手で強く握り締める。手の平が切れる痛みはもう経験済みだ!こんなん命の重さに比べりゃ全っ然軽い!

「あぁッ!」

 空いた右手の甲でキャッチャーメットで覆われている顔の部分を叩く。右手に痺れが走るが、次の動作に移らなければこれまでの意味がねぇ!

 後ろへと転がるように飛び、転がっている刀を手に取る。

『危ないけど、まぁ及第点としましょう。腰を落として、敵を良く見て、流れに身を委ねなさい』

 また頭の中に声が響く。言われなくてもやるつもりだったさ、追い詰められた状況で身体が勝手にその姿勢を取ろうとしていたからな。

「ふぅぅ……」

 大きく息を吐いて、心を落ち着かせる。左手は力があまり入らず、ぶらりと垂れ下がっている。無理をすれば刀を振り回せるだろうが、かえって動きを鈍らせそうだ。

「咄嗟の判断、恐るべきものだな」

 ゲイアは先ほどの衝撃で歪んだ兜の向こう側でまた微笑を浮かべた。

「だがッ!」

 剣を持ち直すと、腕を振り上げて俺に斬りかかって来た。

 右斜め上からの打ち降ろしを後ろに少し飛んでかわすと、すかさず突きを繰り出す。

「ぬ!」

 振り下ろされた切っ先を上げて刀の軌道をずらす。まだ、こんなもんじゃおわらねぇ!

 柄のすぐ下側の太ももを狙って突きを繰り出す。

「ッ!」

 また剣を使い捌くが、完全に捌ききれず、太ももの外側を刀がかする。

 次々に防御がし辛そうな場所を狙って突きを繰り出す。殆んどが捌かれるが、鎧から剥き出した場所を赤く染め上げてゆく。

 何度右腕を突き出したか解らないが、予想以上に俺の右手は疲労しているが、ゲイアの消耗はそれ以上だろう。

「ぜぇっ……ぜぇっ……」

 お互いに肩で息をしながらも隙を狙いあい、身体に傷を増やしてゆく。

「だりゃぁッ!」

 渾身の力をこめた一撃をゲイアに向けて放つが、剣を右上に降られまたも捌かれる。むき出しになったわき腹を狙った一撃をかわされたが、俺の狙いは其処じゃない。俺が狙うのは……。

「うぉぉっ!」

 右上からの振り降ろしが来る! 

 大きく後ろへ跳ぶと、握り手を狙い右手を限界まで突き出す。刀の先から何か石を切りつけたような衝撃が伝わる。

「がぁぁッ!」

 右手の指を血だらけにして、ゲイアが悶える。この隙だけは見逃すわけにはいかねぇ!

 左手に鞭打って刀の柄を握り、左足を前に踏み出し、左上から刀を振り下ろす。 

「ぐッ……!」

 咄嗟にゲイアが剣で刀を防ぐが、右手を怪我した状態では力が出らず、俺の一撃を耐え切ることが出来なかった。

 両手から包丁で肉を切るよりも遥かに強い感触が伝わる。

 覇気を込めた俺の一撃はゲイアの鎧を切り裂き、斜めにすっぱりと切り傷を残していた。

「うご……」

 よろめくゲイアに向けて脇をしっかり締めて走り出す。

 砂場に木の棒を埋めるより楽に、刀がゲイアの身体に飲み込まれてゆく。

 根元まで刀が沈み込んだとき、俺は恐る恐るゲイアの顔を覗き見た。

「…見事だ……」

 その顔には俺に対する憎しみなど全く無く、何処か誇らしげな顔で口の端から血を零しながら微笑んでいた。

「う……ぁ……」

 ゆっくりと刀をゲイアの身体から抜いてゆく。切っ先が全て抜けると、糸が切れた操り人形のように地面に倒れた。どさりという音が時間を止める合図だったのか、俺の周りの時間が止まる。

 手の震えが止まらない。自身の血とゲイアの血で染まりきった俺の手だけでなく、全身から震えが来る。震えたくは無いのに、身体にバイブレーション機能がついたように小刻みに身体を揺らす。

「と…ときだ鬨を上げろ!」

 何処の誰が言った言葉か解らないが、ゲイアが倒れ止まったいた時が動き出す。

「こ、コールヒューマンのサナダソースケが歩将ゲイアを打ち破ったぁッ!」

「サナダソースケ、これにあり!」

「歩将は死んだぞ、歩将は死んだァァァ!!」

 ディレイラ隊のスピリットヒューマンが大声で叫び始める。士気の上がるディレイラ隊、戸惑いを隠せないゲイア隊のスピリットヒューマン。

「皆さんッ! 敵ゲイア隊は総崩れになります、余勢を駆って追撃をかけます!」

 レシアが剣を掲げ逃げ出そうとするゲイア隊の先へと切っ先を向け声高らかに宣言すると、ディレイラ隊のスピリットヒューマンたちは大声で陣形を整えつつ、前に進んでいった。

「あ……う……」

「真田…よくやった……まだ戦は終わってない……気を抜いたら次はお前がこうなる番」

 ばしりと背中を強く叩き、レイラが俺の背中を押す。

 放心状態だった俺頭の中がすっきりとしていく。考えるな、まだ。戦は終わっちゃいない、考えるのは全て終わった後だ……。


 


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