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第十二話 『決意示してやらぁッ!』

 ーオルタルネイヴ・領主の館ー

「さて、此処まで来たからにはもうやっぱやめだなんていえないよ? もう一度聞くけど本当に?」

「腹括っちまったから、此処でアンタがやっぱやめろだなんて言っても聞きやしないぜ?」

「ふーん。で、あと一応言うと私はアリア・キィルチェなのさ」

「覚えておくよ、アリア」

 俺とアリアは静かに館の大広間へと向かう廊下を歩いた。廊下にはアリアの鎧の金具の音しかしない。

「アリア、まず俺から部屋に入らせてくれないか?」

「別にいいけど?」

 広間の扉の前で俺は大股で歩き、アリアを追い越す。

「アリア・キィルチェ、リカーベルの町の事及び、火将の現状の報告に来たのさっ!」

『入ってください』

 分厚い扉の向こう側から微かに声が聞こえる。

 俺は深呼吸をし、その扉を開け放つ。

「貴方は……」

「ソースケ様!?」

「貴様ッ!」

「……」

 広間に居た領主クレア、エリファ、アリシャ、ディレイラの対応は人それぞれだったが、共通して何でお前が此処に居ると言う目で俺を見る。

 俺は静かにその場に脚を付き、刀を傍に置いた。

「今更、今更こんな事言っても駄目だろうけど、俺……戦います! 戦に出ます!」

 跪いた俺の後ろにアリアが控える。

「何を言ってんだ? 貴様は一度逃げ出したんだろうがよッ! 戦が嫌で逃げ出した奴が急にそんな事を言っても信用できるわけねーだろ! 大方、アリアに見つかり此処に連れて来られたから、そんなでまかせを言っているだけだろッ!」

「此処に居るのは連れて来られたからじゃねェ、俺自身の意志で此処に居るッ!」

 槍を持つ手に力を込めて叫ぶアリシャの目を睨んで俺は叫ぶ。

「あぁ、確かに戦は怖ぇし、したくねーよ!」

「やはり逃げる気でじゃねぇかよ!」

 アリシャは槍を片手に俺へと詰め寄る。

「目の前で子供が死んだ! その子供は俺に良くしてくれて、俺の事おにーちゃんだなんて言ってしたってくれていた! そんな子がほんの数分で死んだ!」

「子供が……?」

 一瞬アリシャの顔から毒気が消えるが、また再び俺を睨み、胸倉を掴み上げる。

「だからと言っててめぇが戦う理由にはなんねーだろッ! それをかざして殺した奴を探して殺すまでがお前の戦か!?」

「んな簡単に済むならそれで終わらせてぇよッ! でもよ、俺がその子の敵討ちを掲げて戦したって誰も喜ばなねぇんだよ!」

 頭に血が上った俺は鎧を着けていないアリシャの胸倉を掴み返す。

「ソースケ様ッ、アリシャさんッ!」

 エリファが叫んでこっちへと駆け寄ってくるが、俺は掴んだ手を離す気はない。

「もう二度と目の前で知り合いが死ぬのは嫌なんだよ、俺が戦を大きく動かすために呼び出されたコールヒューマンなら、その役目命を懸けてもやり通してやるッ!」

「口で言うのは簡単だがけどよ、実際にてめぇはそれだけの事をやる決意はあるのかよ!」

「腹括ってなきゃ今頃此処にはいやしねェ! 決意があるのかってお前は聞いたよな、じゃぁお前に俺の決意示してやらぁッ!」

 アリシャは静かに俺の喉元に槍を突きつける。

「ふん、口ではどうとでもいえるよな?」

「んなもん突きつけられたって俺はもうビビらねぇ。死ぬかも知れない場所に行かなきゃ行けねーのに、こんな脅しで腰抜かしてたまるかよ」

 アリシャの手に持った槍の槍先の部分を握り、無理矢理喉元から槍を離して、そのまま顔を近づける。

「ソースケ様ッ!」

 研ぎ抜かれた槍先を軽く握るだけでも皮膚は裂け、俺の手のひらから血が流れ、床を赤く染める。

 エリファが俺を押さえに来るが、俺は左手でエリファを振り払う。

「馬鹿ッ、止めろ! 何を考えてんだ、てめぇは!」

 アリシャは狼狽しながら槍を引こうと力を入れるが、俺は更にその矛先を握り締める。

「こんなちゃちい痛みじゃ俺の意志はかわんねーよ! 破れない約束があるんだ!」

「コールヒューマンのサナダソースケさん、手を離しなさい」

 俺とアリシャの間に割って入るようにクレアが俺の右手の手首を掴む。

「貴方の意思は伝わりました。利き腕は戦にて大事なもの。むやみに傷つけ、枷を作ってはなりません」

 一度俺は強く矛先を握り、ゆっくりと手を離す。

「解りました。では正式に申し付けます。サナダソースケ、コールヒューマンとしてその武器を持ち、戦に赴きなさい」

「了解」

 俺はそう言って刀を拾う。

「真田槍助、この日本刀で必ずこの戦を終わらせて見せる!」

 日本刀を突き出し、俺は声高く宣言をした。

「……真田」

 か細い声で今のやり取りを眺めていた黒髪で巫女服のようなものを着た女の子、ディレイラが口を開く。

「ん?」

「さっき言った約束って、何……?」

「平和を作ってもう大事なものを二度と失わないことさ」

 そう答えると、ディレイラは何も言わず、一メートルほどある剣を持ち直して部屋を出て行った。

「ふん」

 不機嫌そうな声をあげてアリシャもそれを追うように部屋を出て、大広間に残る人間は俺とクレアとエリファの三人になった。

「で、アリアさん、ジーニアさんは?」

「えっと、そろそろ怪我した左手も順調に回復。もう少し様子見で療養させるから、戻ってくるのは七領からの与力の部隊が合流する後になるんじゃないかな? まー無理させて後々障害残ったら洒落になんないのさっ!」

「そうですか、では今日は休んでください、長旅の疲れがあるでしょうから」

 クレアはそう言うとにっこりとアリアに笑いかけた。

「じゃー新しく加わったそーちゃんに色々と指導するかね!」

 そう言ってアリアは俺の手を引き、広間を出ようとする。

「エリファっち、ソーちゃん借りるのさっ! 積もる話は明日までお預けなのさっ!」

 カラカラと笑い、アリアはその場を後にする。勿論、俺を拉致って。


「ぶわっはっはっはっ!!」

 広間を出て一分ほど無言で歩いていたアリアが突如腹を抱えて笑い転げ始めた。

「ちょ!?」

「いやーーー面白いねェ、そーちゃんは!」

 涙目でバシバシと俺の肩を叩くアリア。周囲に居る人間が何事かとこちらを見る。

「何がよ!?」

「だって、あのアリシャっちのあの顔! そしてあの啖呵! ほんっと、面白いよ!」

「お、俺だってわざとやったわけじゃねーよ!?」

「わざとじゃないにしろ、あのアリシャに…ぶははははっ!」

 過呼吸になりながらもアリアは俺の肩を叩くことを忘れない。ほんと痛いんですけど?

「そんなにヤバイ奴なの? アイツ…」

「ヤバイ?」

「あぁ、えっと、危ないって言うか危険って言うか駄目だっていうか……」

「あぁ、なるほどね、そうそう、ホンッとヤバイ奴なのさっ!」

「マジで!?」

「まじ?」

「えっと、真剣とかいてマジと言う。本気とか、本当っていう意味」

「なるほど。マジマジなのさっ!」

 アリアは基本テンションやノリが高かったり良かったりするようで、俺もついついダチ感覚で話をしてしまう。

「ぜってぇ嫌われたよなーそんなヤバイ奴に嫌われて俺大丈夫かなぁ…」

 宣言後数分で暗雲立ち込めてくる。

「ダイジョーブ、ダイジョーブ! 逆に見直したんだとアリアおねーさんは思うのさっ!」

 アリアはウインク一つ。何処からそんな自信が出ているのか謎だ。

「いや、誰がおねーさんだよ!?」

 思わず突っ込みを入れてしまう俺。

 ぱっと見アリアは俺と同い年かそれより下。エリファは年下。アリシャは年上っぽい。ディレイラは…多分上。クレアは絶対年上だ!

「いや、アリアおねーさんは二十よん♪」

「う、嘘だぁ!絶対十六かなんかだって!」

「人は見かけによらないものなのさっ!」

そう言ってアリアは踊るように中庭へと飛び出し、井戸の縁に腰掛けた。

「これから戦闘訓練を受けることになるそーちゃんにおねーさんからの特別指導をしてあげるのさっ!」

 アリアは足元に転がっていた小石を拾い上に放り投げる。小石は真上に飛び上がり、アリアにぶつかる寸前で見えない壁にはじかれて軌道を変えて地面に落ちた。

「今のが覇気障壁っていうものさっ! そーちゃんも使えるよね?」

 もう一度足元から小石を拾い、今度は俺めがけて軽く石を投げてくる。

 今までは感覚というもんがてんでわかんなかったんだけど、今ならどうやればいいかが手に取るようにわかる。

 意識を壁を張る場所に一瞬だけ向け、弾くと考えれば自然と障壁が張れるようで、俺は咄嗟に飛んでくる石の方へと集中し、弾く!と考えると、石は俺の目の前で壁に当たったかのように少し跳ね返り、地面へと転がる。

「そう、それそれ! じゃー次はこんなのはどうかなー?」

 さっきよりも山なりに投げられた石を俺はさっきと同じ要領で弾く。

 一瞬だけか細い光を放った石はそのまま地面に落ちるものだと思っていたのだが、壁を貫通して何かが俺の頬を掠めた。

「…!?」

 驚いて投げられた石を見るが、石は俺の足元から離れた場所に転がっているだけで、俺の背後には石の姿は見えない。

「ふっふーん、何が起こったんだろうねぇ〜?」

 あからさまに顔をにやけさせたアリアが手のひらで石を遊ばせながら俺を見る。

 壁によって石は防がれたはずだ、じゃぁ今俺の頬を掠めて行ったものはなんだ!?

 幽霊とか、消える魔球とかそんなんだろうか。いやいや、ありえないから。

「今のは投げた石にも覇気を込めてみたのよん、やり方は簡単、一度ぐっと力を込めて握るだけ。これだと覇気障壁を気だけが貫通して行っちゃうのよん♪ 原理は不明ね」

「気って……」

「それでも気をつけなきゃ駄目なのさっ、今のは石だから当たってもちょっと痛いだけだろうけど、これが剣から出た気だったら確実切れるのさっ!」

「って、事は戦うって言ったらその覇気っつうのの事ばっか考えて戦わなきゃならんのか?」

「簡単に言えばそうなのさっ! 攻撃はかわしたはずなのに、何でってよくそれで焦っちゃうのさ!」

 そう言うとアリアは立ち上がり、尻の辺りを二度叩いた。

「まーこれは追々訓練でやるから、今すぐに覚えろってこた無いけどねー。明日からファイトだね、そーちゃんはっ!」

 俺は頭を掻いて、あることに気が付いた。

「あれ、そういえばそーちゃんって……今まで名前……」

「そりゃーそーちゃんがおねーさんを名前で呼び出したからだよっ! まーそれにおねーさんちょーっと見直したしね!」

 にへらっとアリアは笑いくるりと背を向けて走り出した。

 一人取り残された俺は走り去った先をしばらく見つめ、ため息一つ。

「さーって、俺の部屋に戻りますか」

 まだ存在しているか物凄く不安だが、荷物を抱えて歩き出した。

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