第8話.忘れられしもの
「しくじった...身代わりなんて全くらしくない」
黒い雨に打たれながら消滅のときを待っていた。
無限のエネルギーを放出するコアは修復不可能なまでに砕かれ、自壊を始めている。
外部から入ってくる情報もノイズまみれだ。
次第に、瞼が重くなってきた。
多分これが最後の眠りだけれども、抵抗はしきれない。
傍にいるはずのバディにお休みを言っておく。
「私、眠くなってきちゃった。おやす...み」
視覚情報がブラックアウトして、何もわからなくなる。
バディが何かを叫んでいる気配だけわかった。
『ゾクリッ』
センサの崩壊も感覚の消滅も無視して、その感覚はやってきた。
やばい...あいつだ。
はやくにげ...て
そこで私の意識は切れた。
そこで舞台は暗転し、再び幕が開くように次のシーンが浮かんでくる。
真っ暗な中で覚醒した。
私はコアだけの存在に戻っていた。
ボディはすべて消えていたが、コアが無事ならば投影で復元することができる。
どうやら私のコアは、何かに取り付いているようだ。
それを外装にして、アクチュエータやセンサーを投影していく。
身体の機能チェックする。
うん、大丈夫動く。
静かに目を開くと見知らぬ少女の顔があった。
「えっ」
その子は、私が動き出したことに驚いた様子もなく受け入れている様だ。
子供ながら、なかなか肝が据わっている。
「そっか、のどかちゃんていうんだ」
七歳の誕生日を迎えたばかりの少女への接し方って、こんなものだろうか。
私のボディは、のどかちゃんの誕生日プレゼントで所有権は彼女にある。
私が抜け出すにはボディ壊すしかないが、そんな真似はしたくない。
こうして、彼女のお気に入りの人形としての生活が始まった。
「お名前はなんていうの?」
「え?私?認識番号はあるけど名前は無いな」
「じゃあポチでいい?」
「却下」
何か適当な名前をつけないととんでもない名前をつけられそうな気がする。
そういえば、この機体綺麗なパープルの髪がある。
「じゃあさ。パープルって呼んでよ」
「パー子?」
「...それでいいよ」
私の新しい名前が決まった。
認識番号しかなかった私にはどんな名前でも嬉しかった。
ここで、再び、シーンが途切れた。
まるで、切れ切れの動画ファイルを見ている様だ。
そうこうしている間に、次のシーンが始まる。
重装甲のアンドロイドたちを紙のように切り裂いていく。
暴力への渇望を抑えられず、剣を収め近くに転がっている手頃な石に持ち帰る。
さすがに石で殴りつけたのでは、簡単には倒せないがそれが良い。
石が砕け尖った部分をゴキュッゴキュッっと相手にねじ込む。
「ほらほらほら、どうした? もう終わりか」
嬉々として石を打ち込むと、血飛沫のようなオイルが周囲に飛び散る。
気がついたら、周りに動くものの気配はなかった。
「のどか大丈夫よ。パー子ちゃんが着たからね」
「いやっ、パー子怖い(((;゜Д゜)))ガクブルガクブル」
戦闘が終わった後、のどかは口を聞いてくれずにずっと震えていた。
...かなり凹んだ。
(暗転)
「この世界を消滅させて終わりって事は許さないからね」
「**************」
「その当たりで手を打つが、のどかちゃんに全うな人生を歩ませてやること。それが守られない場合、永久凍結なんて破ってあんたをくびり殺しに来るわよ」
「***************」
「ちょっと待ちなさい。別れの挨拶ぐらいさせなさいよ」
呆けたような表情ののどかの方を見て別れの挨拶をする。
「あなたは、私のことを忘れちゃうけど。私は忘れないから」
泣きじゃくるのどかちゃんの。
悲しいって事、よく分からなかったけど今なら分かる気がするよ。
「ピンチになったら必ず私を呼びなさい。どこにいても必ず駆けつけるから」
「...ひっひっく...ほんとうに?」
のどかの涙を拭いてやりながら答える。
「ホント、ホント。何処にでもパー子さんは駆けつけちゃうよ。だから笑って」
そうだよ。笑って見送って欲しい。
一緒にいることはできなくなるけど、私はずっとあなたを見守ってるから...
必ず守ってあげるから、だから今はさよなら。
暗闇が収束し消えた後に、私の姿は無かった。
永久凍結されてしまったが、のどかちゃんの様子は判るようになっている。
幻想郷の王としてのあいつは意外と慈悲深いと聞いたことがある。
「これはこれで割と快適かも。のどかちゃんの様子もわかるし」
私が消えたショックなのか、のどかちゃん倒れている。
ハラハラしてるとアイツが、のどかちゃんをベッドまで移動させ寝かしつけた。
その後、あいつも消える。
「結構律儀なやつだな」
そんなことを考えながらも、眠りにつくことにした。
...夢見るままで待ちいたり...なんてね。
舞台は次第に白んでいき、そのまま私の意識は覚醒に向かった。
悪夢で無い夢を久々に見た。
なんか楽しい夢だったような...悲しい夢だったような...
そのまま起きると、アカが私の顔をみて不思議そうな顔をしている。
「どうしたの?」
「のどかちゃん楽しそうなのに泣いてるのはなんで?」
頬をに手をやると確かに涙の跡がある。
アクビでもしたかな。
ちょっと格好悪いな。
「多分アクビをしたからですよ。由比川のどかは今日も絶好調ですよ」
アカの髪をなでてやるってるとアオちゃんも起きてきた。
ベットを降りる瞬間、紫色の髪をした何かが微笑んだ気がした。