第6話.侵食
タイムパラドックスの発生場所のは、初日に秋葉原化していた場所です。
もとに戻って一安心と思っていたのですが、そう上手くは行かなかったようです。
「すみません。タイムパラドックス修正がうまく行かなかった様です」
「前回あそこが元に戻っていたのは、アオちゃんのお蔭ということですか」
「はい。こちらに来た直後にあれを見つけたのですが、途中で修正プログラムのパフォーマンスが落ちて、消しきれなかったようです」
「良いんですよ。今のあなたは、そんなことができるコンディションではないのですから」
「しかし...」
サーバールームに到着すると、どこからかニコラ・テスラの声が聞こえてきた。
「タイムパラドックスの解析が終了した。可視化するのでゴーグルをかけて欲しい」
言われるままに、ゴーグルをかけると景色が一転した。
風景を...空間を押しのけて染み出ようとする大量のデータが見えた。
あれがタイムパラドックス?
空間に黒い穴が空いて、超高密度の大量データが侵食し始めています。
まるで黒い霧の様です。
私の脇をアオちゃんがすり抜けようとするので慌ててキャッチします。
「ダメです。おとなしくしていてください」
「しかし、このままでは...」
その間にも流れ込んでいるデータ量が増えている。
『ぎしっ』
何かが歪むような音がします。
黒い穴を中心に空間に亀裂が入っている様子が見える。
ほどなく破裂し、大量のデータがこちらに流れ込んでくるでしょう。
破裂の衝撃を予感し、アオちゃんを抱きしめて身を固くする私。
しかし、急にデータの奔流が停止しました。
いえ、停止していません。
押し戻されています。
「これ以上の狼藉はゆるさん」
気づくと、前にニコラ・テスラが立っていた。
ニコラ・テスラの周囲に渦巻いている白銀の風が黒い霧を押し戻しています。
「大丈夫かね」
「お陰様で。貴方にも修正プログラムが組み込まれているのですか?」
「いや、単なるハッキング対策だ。我々をハッキングしようとする無礼者には、それ相応の罰をくれてやらんといかんのでね」
会話のあいだも行われる大量データのジェノサイド。
黒い霧が染み出す、染み出す、染み出す、染み出す、染み出す・・・・・・・
白銀の風が消去、消去、消去、消去、消去、消去、・・・・・・・・・・・・・
「すごい...」
アオちゃんが感嘆の声をあげる。
やがて、黒い穴周辺まで押し込まれ、穴自体が黒い結晶体に変化している。
「ふむ。一部、物体化を許してしまったようだ。すまないが、私に出来るのはここまでだ。後は頼んだぞアカくん」
気づくとアカが侵食の中心だった場所にいる。
何をするのか注意を向けた瞬間、アカは結晶化したそれを手に取り一気に頬張る。
ぽり、ぽり、ぽり・・・ごっくん
咀嚼と嚥下の音を残して、タイムパラドックスが消滅する。
ちょっ、ちょっと待ちなさい。そんなもの食べて大丈夫なの?
「心配ない。修正プログラムの本来の使い方とは異なるが、タイムパラドックスの処理は完全に終了している」
私の気持ちを察したかの様に、ニコラ・テスラが無事を請け負う。
ゴーグルをかけたままなのを思い出して、アカの内部をスキャン。
「アカ、大丈夫なの。お腹痛くない?」
追わず場違いな質問をしてしまう私。
「のどかちゃんの報告書よりは美味しかったよ」
とりあえずホッとして、アカを抱き上げた。