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技術系研究員 由比川のどかの日常  作者: 錬金術師まさ
実験潜水艦アルバコア
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第10話.変わる日常と...


ルルイエでのヴェルナー救出作戦の後、流石に疲れてホテルで寝込んでしまいました。

普通に暮らしていたら一生お目にかからないような海神を相手に大海戦を演じて何とか生還できたのですから、精神の方が参ったぐらいで済んだだけでも僥倖と言うべきなのでしょう。

悪寒が止まらずにベットに入ってしばらく震えていると、ふいに何だか柔らかく暖かいものに包まれてようやく落ち着いて眠ることが出来ました。



 目覚めると、すっか明るくなっていました。

夕方にベットに入ったので12時間ぐらい寝ていたのでしょうか。

流石に気分すっきりです。

なんだかふわふわのお餅の様なものが額にあたっています。


 ん、ふわふわ?

 それに何だか良いにおいがします。なんだろこれ?

 眼を開けると肌色、ぷにぷにの駄肉が二つ目の前にあります。

 視線を上に上げていくとヴェルナーと眼が合います。

 なぜか私はヴェルナーに抱きつく形で寝ていました。


「あぁ、のどか起きたのか。良かった。顔色も良くなっている。どこか調子悪いところとなないか?」

「あ、ありがとう。特に調子の悪いところはないみたいですよ...って、何で貴方が隣で寝ているんですか!」


その声で、近くの椅子で腰掛けて寝ていたアカが目を覚ます。


「...あ、のどかちゃん、おはよう。ヴェルナーさんに感謝しなよ。のどかちゃんガタガタ震えてたんだから。ヴェルナーさんが暖めてくれなかったら酷いことになってたと思うよ」

「いや、感謝なんていいんだよ。のどかは私の恩人だ。それに...」


 頬を赤く染める。なんか可憐です。私がもし男性でしたらこれだけでやられていたでしょう。


「それに、何です?」

「私は昔から、その...白馬の王子さまに憧れていたんだ」


 そっぽを向いてそれだけ言うとうつむいてしまった。

 唖然...というわけでもないですね、そういえば、コイツは見かけのクールさとは裏腹に意外と乙女チックなところが在りました。


「あの時、お前はかっこよかった。私を助けてくれた。あんな恐ろしい化け物を、知恵と勇気だけで退けた。私はわかったんだ、のどかこそが私の王子様だったんだって。私は王子様に助けられるだけでなく助けたいと思ったんだ。だから肌を重ねて温めるぐらいなんてことはないんだよ」


 さり気に爆弾発言しやがったですよ。

 はっ、肌を重ねるなんて、なんて、なんて....


「お嫁にいけなくなったら如何してくれるんですか!」

「もしそうなったら仕方が無い。同性結婚というのも本国では認められている...のどかさえ良ければ私と...」(///∇//)テレテレ


 なに?私なんか変なフラグを踏んだのですか?


「ちょっと、落ち着きなさい。貴方を助けたのは友人として放っておけなかったからで、決して白馬の王子様的な『姫、今お助けいたします』的な発想は無かったのであって...」


 急展開過ぎて、言語中枢が付いてきてくれません。

 もしかして、未だ熱があってこれは熱の見せる幻覚なんでしょうか...

 そんなわけ無いですよね、判ってますとも。えぇ。

 話を聞いていたドールズも、こぞってヴェルナーの見方をし始めました。


「のどかちゃん。どうせ彼氏いない暦=年齢なんだから、もうこうなったらヴェルナーさんに貰ってもらいなよ。私たち応援するからさ」

「そうです。幼馴染がある日、恋愛感情に目覚める。なんて素敵な展開でしょう」

「マスター、マスターはそこまでのどか様のことを...」


 完全にアウェー状態です。


「いえ、ほら、私達は幼馴染というのは合ってるけど、恋愛感情というのはちょっと...」

「何言ってるんだよ、これはもう結婚しちゃう流れじゃないの?」

「それは、異性の場合だから!私達は女同士だから」

「えーい、男だ女だと心が狭いよ。愛があれば全てOKなんだよ」


 えぇ、愛があればですよね。

 口に出せばその場で袋叩きにあいそうな言葉を胸の中でつぶやく。

 方法はさておき、看病してくれたのは感謝してますし、確かにヴェルナーが本国に戻った後、また妙な暗示にかかるという可能性を考えると、近くに居た方が良い気もします。同姓結婚というのはもちろん論外ですが...

 仕方ない。ちょっと策を弄します。


「貴方の気持ちはよく分かりました。でも貴方のことはただの友達としてしか見ていなかったの。だから、そんな風に好意を示されても、すぐには応えることは出来ないわ。すこし時間が欲しいのー(棒)」


 『欲しいの』のところで、胸前で指を組んで小首をかしげる。

 普段のヴェルナーなら『気は確かか?』程度の言葉は出てくるはずなんですが、いたく感動している様子です。


「本当か?じゃあ、このまま のどかの家にお邪魔するよ。就労ビザの期限も残っているから問題ないし、生活用品は二人で一緒に買に行けばいいし....」


 えっ、なんか一緒に住むことで話が進んでますけどっ!


「ちょっ、ちょっとまって...」


 反論をしようとしたとき急に眠気が襲ってきて、そのまま眠りの世界に引きずり込まれました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「のどかちゃん。のどかちゃんてば!」


 んっ?なんか見覚えのあるパープルの波が揺れています。きれーですね。


「まいったな。『銀の鍵』なんて始めて使うから加減が違ったのかな」

「んっ?パー子...パー子なの?」

「そう、のどかちゃんのアイドル、兼、ヒーローのパー子さんだよ」

「...ここは何処なんです」


「華麗にスルーしたね(´;ω;`)。此処はドリームランドだよ。のどかちゃん今回かなり無理したみたいだからね。ちょっと心配になってね」

「心配?」

「そう、心配。のどかちゃんて只でさえ邪神共に目つけられやすいのに、あの『ダゴン』と渡り合っちゃって...全く人間にしておくのはもったいないぐらいのやんちゃぶりだよ」

「貴方にやんちゃって言われるのは心外ですよ。良いじゃないですか、負けなかったんですから、負けなければ勝ったも同然です」


「勝ち方が問題なんだよ。あれで『ダゴン』は完全にのどかちゃんの事、ライバル視するよ。あれで結構、武人ぽい所あるからな」

「そうなんですか?私としては小人の小知恵で火の粉を払っただけなんですけどね。出来れば、二度とお会いしたくないというのが正直なところです」

「私もそのほうが良いと思うけど、邪神のやることは邪神しかわからないし...まぁ気をつけても仕方ないんだけど気をつけて。あと邪神のこと、あまり調べるのも止めたほうがいいよ。今回の調子悪さはそれが原因だから」


「調べるといっても、ちょっとぐぐったりツィッターしただけですよ?別に危ない魔道書とか読んだわけでもないし...」

「ネットの中身を全て人間が書いていると思っちゃダメだよ。『千の異なる顕現』なんてフォロアー10,000人オーバーだって自慢しているんだからね」


 ネットカフェでコーヒー飲みながらツィッターに興じる邪神。ロマン無さすぎなのでは...


「今回の件でSAN値が変化した様子は無いようだけど、とりあえずこれ飲んどいて」


 パー子から渡されたのは、虹色に輝く不定形の物体。


「これ本当に飲むんですか?」

「見た目はこんなんだけど、必ずのどかちゃんを守ってくれるものだから。危険なものではないはずだから」


『はず』という所が若干気にかかりますが、覚悟を決めて飲み込みます。

 口の中に入れたそれは、ちょっと懐かしい感じのサイダーの風味を残して消えてしまいました。


「これでいいですか?」

「....大丈夫みたいだよ。精神強度が飛躍的に上がってる」

「それって、打たれ強くなったってこと?」

「対邪神的にね。そろそろ起きた方が良いかな。ヴェルナーさんがさっきからのどかちゃんを起こそうと色々試しているからね。そろそろ貞操の危機かもよ」


「だめです。私を今すぐ起こして」

「判ってるって、あとアカが心配だから気をつけてやって」

「それってどういう...」


 急に襲ってくる覚醒の感覚。目が覚める瞬間、あいまいな感覚の中で消えていくパー子の右手か見えた。

 あの子って未だあの包帯つけてるんだ。もう少し可愛いのにして置けば良かったな...


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 キス直前のヴェルナーを撃退したあと、体調が回復した私は沖縄を後にしました。

 残念ながら私が寝ている間にヴェルナーは、我が家のドールズの懐柔に成功したらしく、すっかり我が家に転がり込む準備を終えていた。

 仕方が無いのでベッドルームを分けてルームシェアすることにしました。

 ヴェルナーが『夫婦は同じベットで寝るべきだ』と抵抗しましたが、黙殺しました。


 で、本日は休暇明けの出社当日。

 二人増えてちょっと手狭になった食卓を囲みながら、ふとアカが目に入って、何気なく言葉が出た。


「そういえば、調子はどうです。何かおかしな事ないですか?」

「別に普通だけど、何で?」


 え?はて?私は、なんでこんなことを聞いたのでしょう?

 何か重要な頼まれ事をされていた様な気がするのですが思い出せません。


「可笑しなのどかちゃん。まだ、調子悪いの?」

「いえいえ、海とかいったからボディとかメンテしなくて大丈夫かなって思って...」


 本当になんでしょう?本当に調子が悪いのかな。

 なんとなく、視線をめぐらすとヴェルナーと目が合った。にっこりと微笑んでくる。


「そういえば、のどかの会社で世話になることになったから、宜しくな」

「えぇっ、聞いてないですよ、そんなこと。なんですか、また部長が変なことをやろうとしているんですか?今度という今度は、絶対拒否をしてやります。とりあえずどんな話です?」

「あぁ、それはね....」


こうして、他愛無い会話を繰り返しながら、私達の変わらない日常は続いていくのでした。


実験潜水艦アルバコア FIN

 前回の『テスタタワー異聞』『コロンビヤード砲外伝』共にパー子の活躍が目立ってしまって、のどかは特に目立った活躍は無く『主人公?』って感じでした。

 今回は、のどかに頑張ってもらいましたが、基本一般人の彼女に、どうやって頑張ってもらうかは結構悩みました。出来上がってみると、のどかが結構活躍も出来たし、ヒロインのハートも射止めた(!)ようなので何よりです。

 とりあえず「日常」編は章間を残して終わりですがシリーズとしては、「技術系研究員 由比川のどかの冒険」に続きます。今後とも宜しくお願いします。

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