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技術系研究員 由比川のどかの日常  作者: 錬金術師まさ
実験潜水艦アルバコア
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第7話.海底の女王様

与那国島からルルイエまで約30分で移動してしまうアルバコア。


性能に言うことはありませんが、『大気圏突破後、急反転して釣瓶落とし、再び大気圏に突入、減速をしないまま海面寸前で急停止』という挙動は人間向きでない事は明白です。


慣性制御で身体的には何の問題もないのですが精神がついていけません。ぐったりとシートにもたれかかって虫の息です。


簡単に言うと、「うわっーー、ほっ、ひーーーん」と言えば伝わるでしょうか?


じゅぶじゅぶじゅぶ....


大気との摩擦で加熱したボディが海水で冷やされる音をぼんやり聞いています。


スティルス機構が効いていて何もないところに湯気だけが発生している図はとてもシュールなのでしょうね。


「アルバコア目標深度に到達しました」


「ふぃぃぃぃ....」


ようやく、地表に到着してほっと一息していると赤い子から情け容赦の無い声が飛びます。


「付いてきたいって行ったのはのどかちゃんだからね。ほら起きて!ヴェルナーさん助けに行くよ」


容赦の無い赤い子とは、いつかロボット三原則について議論したいと思いますが、今は議論より行動の時、黙って救出作戦を開始します。


「じゃぁ、アルバコアはここで待機して、私たちはヴェルナー救出に向かいましょう。『力場』の展開を忘れないでくださいね」


アルバコアのハッチから静かに深海に身を沈めます。バリヤジャケットのおかげで水圧に潰されることも窒息することもなくてホッと一息。


「かなたちゃん、周りの海水に干渉して私たちをルルイエまで運べる?」


「えっと...はい、出来るみたいです。こんな感じでしょうか?」


『こんな感じ』の当たりで、身体に感じる浮遊感。さっきまでが亀だとすると今はまるでイルカの様です。


「これは...なかなか楽しいですね」


そんな場合ではないことはわかっていますが、思わずウキウキしてしまう程です。チョッとだけイルカの気分です。


ルルイエ内に侵入すると、この間はよく見えなかった建物の細部がよく見えます。


立派な建物なのですが、どこか人の感性を逆なでする歪みがあり、見ているだけで気分が悪くなってきます。


なるべく周りを見ないようにして、かなたちゃんについて行く事にします。


「なにか来ます。隠れてください」


慌てて、熱光学迷彩を起動し、狭い路地に隠れる。


程なく向こうからカエル顔の人魚たち『ディープワンズ』が近づいて来ました。


彼らを人魚と表現しましたが、盛り上がった目、灰緑色の肌、指と指の間には水かきを見るとカエルのイメージに近いかもしれません。私は別にカエルがダメな人ではないですが、これは見ているだけできついです。こっそりとその場を離れることにします。


ふと見ると巨大な泡で囲われている施設があります。


「のどか様、ヴェルナー様がいるならば空気のあるところのはず。あのあたりが怪しくないでしょうか?」


「そうですね。気をつけながら近づいてみる事にしましょう」


空気の玉には何の抵抗もなく、するりと中に入ることができました。


どうやら中はちゃんと呼吸出来るようで一安心です。


周りには何かのプラントらしき建物が乱立していますが...私、この建物には見覚えがあります。これって...


「のどか様、これってコロンビヤード砲なのではないですか?」


そう、そこにはまさしくロケット射出用の巨大なコロンビヤード砲だったのです。


「のどか!こんなところで油を売っていないで、制御システムの方は大丈夫なのか?」


数ヶ月前を彷彿される声に振り向きながら答えます。


「貴方こそ何やっているんです」


そこには、いつもの格好をしたヴェルナーがいた。


「なにって、しっかりしなさいよ。ダゴン様のためにロケット開発をするんだろ」


「貴方こそ何を言っているんですか?ダゴン様って誰です?それにこんなところからどうやってロケットを飛ばすつもりです。外は海ですよ」


「判ってない、判ってないな。ダゴン様のお力があれば可能なんだよ」


いっこうに要領を得ないヴェルナー。眼差しもギラギラしちゃって、行っちゃってる感ありありです。


冷静に考えると、ホテルを出て行った処からおかしかったのです。やはり操られていると思って間違いないでしょう。こっそりアカに耳打ちする。


「なんだか操られているですね」


「う~ん、脳波がかなりフラットになってるから間違い無さそうだよ。なにか強いショックを与えて元に戻したいけど、のどかちゃん何かネタ無いの?」


ネタって言われると漫才っぽくって嫌なのだけどね。


ヴェルナーに対して強いショック...ショックかぁ、多分あれが最強だと思うけど、あまり気は進まないな。


「ほらヴェルナーさん行っちゃうよ。早く何とかしなきゃ」


ええぃ、背に腹は代えられない。思い切って芝居がかった声でヴェルナーを呼び止める。但し、ヴェルナーとは呼ばない。


「ジュリエット、愛しのジュリエット」


ヴェルナーの顔つきが変わる。そう、おそらくヴェルナーの心に深いトラウマを残したと思われる『ロミオとジュリエット事件』の再現だ。


「....やめろ..やめてくれ」


よしよし、効いてる効いてる。こうなったらもう、いけるところまでいってやる。


「愛しい人、直ぐにそちらに行くからね」


「いや、来ないで」


逃げ出そうとするヴェルナーを捉えて、腕の中に抱く。本当なら余裕で振り切られてしまうのだが、怯えているヴェルナーはそれどころではないらしい。


効いている様ですが、最後の一押しが足りないようです。この後はアレになっちゃうけど...


「(ぽっ)」


ええぃ、いまさら考えても仕方ない!女は度胸だ!なるようになれ。


「さぁ、瞳を閉じて...」


ヴェルナーの肩をしっかり抱く。近づく唇、思わず閉じた瞳。そして....


『ズキューン』


「いゃーーーーー」


いきなりヴェルナーの身体に力がこもり、思いっきり突き飛ばされて尻餅を付く。全く、この馬鹿力は...バリアジャケットがなければ怪我をしていた所です。


「まったく、お前というやつは、一度ならず二度まで人の唇を....あれ?私はどうした?」


 どうやら、ショックは十分だったらしく、正気に戻ったようです。


「全く、私に感謝しなさいよ。身を挺して正気に戻してあげたんですから...」


 感触を思い出したのか、唇に触れ赤くなって下を向くヴェルナー。


私がやったのは、小学校時代のちょっとした事件の再現。


学芸会でやったロミオとジュリエットで、シナリオ通りに演じていたら、何故かヴェルナーのファーストキスを公衆の面前で奪っていたという痛可愛い小学生の思い出です。


まぁ、テンパった私が暴走したという説もありますが。驚いたヴェルナーは泣き出すは、先生には大目玉を食うは大変でした。


こいつが泣いたのを見たのは別れの時とこの時位だったので効果あるかと思ったのですが思いの他、効果抜群だった様です。

『ぷにっ』世の男性が憧れるお姫様の豊かなバストの感触を楽しむというシチュエーションにも特に萌えるものも無く、不公平感を募らせています。

「何で私が貴方に抱きつかなきゃならないんだ」

おまけにお姫様は、童話のようにしおらしくすることもありません。

「仕方ないじゃないですか。貴方こそ、その駄肉を押し付けないでくださいな Σ(-_-+)」


次回「実験潜水艦アルバコア 脱出」

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