第6話.ピュアドールズ+ONE
かなたちゃんの持っていた便箋はホテル据付の簡素なものだ、そこには短く『ルルイエに行く』とだけ書いてあった。
「なかなか起きてこられないのでベッドルームへいったら、枕元にこの便箋が置いてあったんです」
悪い予感が的中してしまいました、どうやら自分で行ったようですがマインドコントロールされているという線もあるので、自分の意思で行ったかは微妙な線です。
流石に放っておけない状況なので助けに行くのですが、頼りはアルバコアは水中では、あちらの巨大半魚人『ダゴン』にはスピードで勝てませんでした。
この前は何とか逃げ切ったけれど、次も同じように上手くいくとは限りません、正面切っての殴り込みはかなりリスクが高い、となると、こっそり忍び込むことにします。
「のどかちゃん、早くヴェルナー様を助けないと!!」
「そうです。ヴェルナー様の貞操の危機なのですよ」
貞操の危機なんて言葉どこで覚えてくるんだろ、この子?
「まぁ待って、このまま行っても逆に捕まるのが落ちよ。準備に少し時間を頂戴!」
キャリーバックを引っ張り出し、底に忍ばせていたアイテムを引っ張り出す。
「じゃじゃん!これぞテスラドールの力場を応用した画期的なバリヤジャケットよ。これさえあれば深海だろうが、山のてっぺんだろうが思いのまま!!」
フリフリのスカート、胸にリボン、頭を守るのは羽根つきカチューシャ、まさに地球の正義を守るためのコスチュームだ。
「どうしたのこんなもの?」
「もちろん貴方たちと海で遊ぶために作ったんですよ。まさかこんな事で日の目を見るとは思いませんでしたけど...」
感動に打ち震えたドールズの反応を期待したが、何かびみょーな反応が帰ってきた。
「私たちの為にありがとうございます。ですがもう少し控えめなデザインが良かったのですが...」
「デザインが、のどかちゃんの趣味丸出しだね」
「これでヴェルナー様をお救いできるならば、私はどんな恥ずかしい格好だってしてみせます」
みんな何気に酷い(´;ω;`)
「ち、ちなみにデザインはニコラテスラ監修だからね」
ニコラテスラというのは、この世界ナンバーワンのAIである、ある事件で知り合って以来、私のポータブルサーバーを彼の分体が占拠するとか、監督官庁に圧力をかけるとか、いろいろと仲良くしてもらっている、とは言え、実際はこの子達の映像データをこっそり収集しまくっている残念なエロAIだ。
「じゃあ使い方を説明するからね。・・・[中略]・・・という訳でみんな使い方はわかった?」
「何か面倒な説明部分を・・・[中略]・・・で思いっきり端折ってた気がするけど、要するに『力場』をこの服に注入すればいいんでしょ」
「そうよ。このバリヤジャケットさえあれば防護力はもちろん動くスピードも通常の3倍が可能なの」
「...まぁ、変身ブローチが無いだけましかぁ」
「それはまだ開発中よσ(´┰`=)」
『うげっ』と言う顔をしているドールズ、貴方たちテンション低いですよ?
「あなたたちこの間は『ビュアドールズ』とか言って盛り上がってたじゃないですか」
赤い子が目の前で指を振る。
「ちっちっちっ、のどかちゃん。ドール(ヒト)は日々進歩するもの。私たちはその段階は卒業したのさ」
「諦めたほうがいいですよ、中二病はそんなに簡単に完治しないんですから...」
「中二病とか言うなよ」
赤い子の抗議を軽く受け流して出発を宣言する。
「ちょっと時間が経っちゃったけど、サッサと着替えてヴェルナーを連れ戻しにいきましょう」
明らかに嫌そうな赤い子、実はまんざらでも無い青い子、最初から覚悟を決めているメガネの子。
三者三様の反応があるのが面白いですよね。
「そうやって、ほのぼの雰囲気を醸して誤魔化そうと思ってもそうはいかないからね」
ちぇっ、ばれたか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
人影の少ない海岸まで移動、周囲に人影をない事を確認して、かなたちゃんがちょっと舌足らずな声でアルバコアを呼ぶ。
「アルバコア!かむ・ひゃー」
熱光学迷彩を停止したアルバコアが、ぬるん、といきなり現れる。
「本当にこの掛け声いるのですか?」
言って恥ずかしかったのか、かなたちゃんが赤い顔して聞いてくる。
ぐふっ、可愛いぞ。私を萌え殺す気ですか?こっそり動画撮影もしちゃう。
「も、もちろんですよ。巨大な飛行物体とかロボットとか呼ぶときは、『かむ・ひゃー』とか叫ぶことになっています。これをしないと全世界のおっきなお友達に怒られます」
こっそり隠し撮りしていたカメラを隠し適当な受け答えをしながらアルバコアに乗り込む。
「かなたちゃん。貴方のバリアジャケットの属性を『水』ですからね。アルバコアとの相性はばっちりですよ」
「有難うございます。でも、私はどちらかというとアオねーさんのように『風』が良かったんですが...ほら、ロケットって言うと風のイメージじゃないですか...」
「あぁその設定なら弄れるよ。何なら私が後で直してあげるけど...」
世の中の理に無頓着な赤い子がとんでもないことを言い始めます。
「アカ!なんて恐ろしいことを言うんですか!一つの戦隊もので属性がかぶっちゃったら大変なんですよ!玩具化できるアイテムも減ってしまってメーカーさんには怒られるは、脚本家さんも同じような脚本を書かなきゃいけなくなるし、声優さんも変化をつけるの大変だし、出番だって減っちゃうんだから!!」
「メタ発言はいいから。要するにのどかチャンはかなたちゃんに如何しても『水』属性をやらせたいということなんだね」
あきれ返ったようなアカを置いておいて、かなたちゃんにリンクの説明をする。
「バリヤジャケットに通信用のプロトコル制御は全てお任せでOKになっていますから、これまでより通信負荷がかからないはずですよ。これで通信側に裂かれていたリソースを操船にまわせるから、アカとアオちゃんのアシスト無くてもこの船は動かせるはずですよ」
バリヤジャケット経由の通信を試していたかなたちゃんが納得言ったかのように『こくり』とうなずく。
「で私達はお払い箱?」
「貴方たちには、ルルイエに潜入するという重大な使命があるでしょ」
などといいながら、持ってきた荷物を広げ始める。
「のどかちゃん何やってるの?」
「貴方たちだけでヴェルナーをなんとかできるか心配ですから、私もついていきます。その準備ですよ」
狭い船内で苦戦しながら着替えていた私に、アカから突っ込みが入る。
「ところで、なんでこんなところで着替えているのさ、ホテルで着替えてこればいいだろ」
「何言っているんですか、こんな格好ホテルの人に見られたら恥ずかしいじゃないですか」
「私達は思いっきり見られたよ!!」
そんな心温まる会話をしながら、ドールズに渡した衣装よりかなり抑え目なバリヤジャケットの装着が終わり、最後に付属の『力場パック』をくっつけていっちょ上がりです。
「この『力場パック』に貴方たちの力場を分けてもらえば、私も何とか付いていくことは出来るはずです」
試しにドールズに力場を送ってもらう、特にアオちゃんの『風の力場』で空気をもらっているので其処のチェックは最重要なのです。
「のどか様、いかがですか?」
「アオちゃんありがとう。問題なく息できそうですよ」
更にアカの火の力場を使った暖房、かなたちゃんの水の力場で水圧対策をしているので冷たい深海でも活動可能です、さすが私!つまりドールズと逸れたら最期ということですが...へんなフラグ立ってませんかね?
「さて、海底遺跡で移動すると待ち伏せを食う可能性が高いから、此処は空路で行きましょう」
ようやく見つけ出したヴェルナーは何かに操られているようでした。
「なにか強いショックを与えれば元に戻るかもしれません」
私もあまり気は進まないのですが、ヴェルナーの強いショックといえばあれしか思いつきません。
「ジュリエット、愛しのジュリエット。直ぐにそちらに行くからね」
ヴェルナーの顔つきが変わる。
「....やめろ..やめてくれ」
逃げ出そうとするヴェルナーを捉えて腕の中に抱く。本来なら余裕で振り切られてしまうのだが、怯えているヴェルナーはそれどころではないらしい。
「さぁ、瞳を閉じて...」
近づく唇に思わず閉じた碧眼。そして....
『ズキューン』
「いゃーーーーー」
次回「実験潜水艦アルバコア 海底の女王様」




