第3話.命名 『実験潜水艦アルバコア』
のどかちゃんとヴェルナーさんが食堂で鉢合わせした日の深夜、私たちはホテルのプライベートビーチにこっそり忍び込んだ。
「本当にココにきてるの?」
近くに停めたはずの『かなた』が全く見えない。
不安になって、かなたちゃんに聞く。
「大丈夫です。熱光学迷彩と電磁波のスティルスが効いているので全く感知不能ですが、そこにいるのは感じます」
もともと、ロケット『かなた』は、かなたちゃんにネットワーク接続されていた。
目をつぶっていても自分の手足の位置がわかるように、見えなくてもちゃんと場所を認識できるらしい。
「やっぱり、かなたちゃんに来てもらって正解でしたね。私達だけで乗り込むなんて不可能でした」
「『かなた』来ます」
その声と同時に、まるでカバーが外れる様にロケットだったものが現れた。
パーねえの魔改造の餌食になって、すっかり形が変わっている。
「改めて見るとコレはもう原型がないですね」
「そうだね。どっちかって言うとマグロとかそんな感じだよね。中はどう?」
かなたちゃんが内部システムとリンクを開始、異常チェックを始める。
「全く問題ありません。何週間も海水に浸かっていたとは思えませんね」
「まぁ、パーねえが気張って改造してたからねぇ」
パーねえが持っている触れるだけで物を変化させてしまう能力。
本人が言うように、まじめに働いているエンジニアの人が怒り出しそうだ。
「でも、かなたちゃんと同じ名前だと紛らわしいね。別の名前を考えませんか?」
「そうだねぇ。かなたちゃん、何かいいアイディアない?」
実は腹案があるのだが、姉の余裕を見せるために少し話を振ってみる。
「私ですか?私は、今のままでもいいですが...姉さん何かないですか?」
その言葉を待っていました。
満面の笑を浮かべて答える。
「実はいい名前あるんだよね。『アルバコア』っていうのはどうかな?」
「『アルバコア』?マグロのことですか?」
ずっこけそうになる。
マグロって、つまりはツナだよ。カッコよくない。
「いゃーマグロって言ってしまうと元も子もないんだけどさ。こないだ見たドキュメンタリーで『実験潜水艦アルバコア』っていうのがあってね。またこれがちょーカッコイイんだ。ちょうどこの子みたいに流線型でさ...」
「実験潜水艦...なにを実験するんですか?」
「そんなの決まっていないよ。いろいろだよ、いろいろ。ねー、いいでしょ『アルバコア』かっこいいよ~」
「まぁ、アカねー様がそれでよければ...」
「私も構いません」
半強制的だったような気もするけれども『かなた』だったその船は『実験潜水艦(←ここ重要)アルバコア』となった。
その時、岩陰からよく見知った黒髪と金髪の二人組みがひょっこり顔を出す。
「まぁ、アルバコアって言うのは涙滴型潜水艦の先駆けで一隻だけ作られたスペシャルメイドの潜水艦の名前だからな。この世界で一隻しかない万能ロケット兼潜水艦の名前としては最適だろう」
「でも、そんな名前をよく知っていましたね」
なんで、のどかちゃんとヴェルナーさんがいるの?
「の、の、のどかちゃん。これはね。あのね。そのぉ....」
「判っていますよ。これが元『かなた』だって事ぐらいは。で、貴方たちだけでコレで楽しもうという訳じゃないでしょうね」
「いや~だって人間用じゃないから中狭いし。空気だって...」
「初期設計のままだったら、コックピットは私たちはギリでいける筈だな。後は空気だが...」
「えーと、そのあたりは大丈夫みたいです。パー姉さん、のどか様を載せる気マンマンだったらしくその辺りは拡充されています」
早速、乗り込む算段を始めるヴェルバーさんに かなたちゃんが答える。
「じゃあ決まりね。コレで海底遺跡探検と行きましょう」
「のどかちゃん、ダイビングするんじゃないの?アルバコアじゃ近くまで寄れないよ」
すっかり乗るつもりでいるのどかちゃんに釘をさす。
折角ここまで来たならダイビングすればいいじゃないか。
ささやかなドールの楽しみを横取りするなよな。
「私たちはガチの理系少女(強調)なんですよ。冷たくて塩辛い海水に浸かっての遺跡探検より、ハイテクなマシンの中でゆっくり蜜柑でも食べながら遺跡を観光したいに決まっているじゃないですか」
「...今、全国のダイバーさんを敵に回した気がするよ」
だったら何でダイビングスポットに来たがるのさ?
ブツブツ文句を言っても、二人とも全く反応がない。
アルバコアを弄繰り回しながら、理系女子の会話を交わしている。
僕たちの密かな楽しみは横暴なマスター達に奪われてしまったようだ。
溜息をつく僕を優しい妹たちが慰めてくれた。
アルバコアにお菓子とお茶を持ち込んで、お茶の間気分で与那国海底遺跡を見物する のどかとヴェルバー。石切場説を説明するヴェルバーとそれを裏付けるように現れる転移ゲート。
次回「実験潜水艦アルバコア 深き神殿」




