第2話.勝負の行方
ヴェルナーの前に、地元の人たちにも大人気の『につけ』を置いた。
てびちと一緒に大根等が煮付けられているので、初心者には此方のほうが受けは良いはず。
「この『につけ』を食べても、私の舌がおかしいと言えるかしら?」
ヴェルナーを挑発する。
「安い挑発だがあえて乗ってやろう。このヴェルナー・フォン・ブラウン、挑まれた勝負からは逃げん」
なんかコイツもノリノリだ。
さっそく箸をとって中央の『てびち』に取り掛かる。
「おっ」
さしたる抵抗もなくすっと切れる『てびち』の感触に感動しているようだ。
一口ほおばり唸ったと思えば....
「生ビールをひとつ」
勝手にビールを注文しやがった。
「どうなのさ」
「まいった」
まったく参った様子も見せず、ヴェルナーはビールを飲み続ける。
勝利の余韻に浸りながら、疑問をぶつける。
「で、なんであんたがここに居るのよ。アメリカに帰ったんじゃないの」
「あれだけの大仕事をした後だ。私だってバケーションぐらい取るさ」
「休みとるなら色々あるでしょ。なんで沖縄なのかって聞いてんの」
「かなたがいきなり『沖縄に発送してくれ』と頼んできたんだ。フェデックスというのも気が引けたし『海底遺跡』にも興味があったから付いてきたんだよ」
はるかちゃんを呼んだと思わしき二人組に視線を向けるが、そ知らぬ顔でそっぽを向いている。
「まぁいいわ。このあと那覇市内を観光して明日与那国島に移動するけど貴方たちはどうするの?」
「私達か?特に決めていない...というか、かなた任せだからな。私はしらん」
煮付けをつつきながら返事をするヴェルナー、随分と気に入ったらしい。
「出来れば、のどか様たちとご一緒したいのですが如何でしょうか?」
すっかりヴェルナーの生活保護者になってしまったかなたちゃんが代わりに答える。
「じゃあ、国際通りに出て牧志公設市場とやちむんの里をブラブラしようと思ってるから一緒に行きましょう」
「私は、ここで飲んでいるから、かなた行っておいで」
「お一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。これでも日本語ペラペラだし、何かあれば、おばあを頼るから」
おばあに抱きつくヴェルナー。
こいつ結構甘え上手だからな。
「安心して任せなさい」
と請け負うおばあに、何度もすみませんと謝りながら、かなたちゃんは連絡先を書いたメモを渡していた。
すっかり世話女房になってしまって...(´;ω;`)
よしっ、ここからは私のターンだ。
隙があれば取り戻す。
「じゃあ、アル中の金髪は放って置いて私たちと楽しみましょう!」
「聞こえてるぞ...私のことは良いから。このバカのことも放っておいて姉さん達と遊んでおいで...」
「ふんっ」
そっぽを向いて私は出て行く。
中から「仲いいね」「腐れ縁です」という声が聞こえた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
結局、宿に引き上げる時間になってもヴェルナーからの連絡がなかった。
連れ戻しに店まで戻ってみると、ヴェルナーは開催されていたオトーリに参加していた。
このオトーリというのは、人数が集まった時のお酒の飲み方である。
メンバー内で親をきめて親に指名された人から順に注がれたお酒を飲み親に返杯、これをメンバー順に回していく。
つまり親は最初の一杯+参加人数分のお酒を飲むことになり、しかもこれがエンドレスに続くのだ。
当然かなりの酒量になる。
もっとも、現代ではルールもかなり優しくなっていて、お酒を水で薄めてもいいし(既に薄まっているオトーリ用も売ってる)水でやってもいいことになっている。
水バージョンなら私も参加したことがあるが、やつは見事に泡盛でやっていた。
ドイツ人にとってビールは水のようなものだと言うが、泡盛も同じレベルらしい。
迎えに行った私たちを手こずらせることなく、普通に歩いていた。
かなたちゃんに手間をかけさせないのは立派である。
酒臭いのは閉口したが....
「かなた。楽しんできたかい」
「はいっ、とっても楽しかったです」
「それはよかった」
会話を聞いていると、この子をヴェルナーのところへやった事に間違いは無かった事を確信した。
しかし、決して口には出さない。
口に出たのは別の言葉だった。
「ふんっ。今回は引き分けってことで大目に見ておいてあげるわ」
言われた二人は、パチパチと目を瞬いたあとに微妙なアイコンタクトをしていた。
夜更けのプライベートビーチを移動する小さな三つの影。浮かび上がる涙滴型の機体。
「これがちょーカッコイイんだ。ちょうどこの子みたいに涙滴型でさ...」
次回「実験潜水艦アルバコア 命名『実験潜水艦アルバコア』」




