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第1話.由比川のどかの出張

ニコラ・テスラが発明した永久機関発電と全世界への無線電力送電を行うテスラタワーにサーバを置くドール型の二足歩行ロボット『テスラドール』。その開発を担う主人公『由比川のどか』は製品不調の原因究明のため、現地へ急行する。 そこで彼女を待っていたのは、時間を逆行して遡ってくる未来技術の氾濫だった。

『テスラタワー』


 その塔は、19世紀の偉大な電気技術者によって建造されました。

 この塔の実現により人類は、いつでも・何処でも・誰でもエネルギーを受けられる世界を実現したのでした。

 この枯渇することのないエネルギー源の上に、私たちの文明は成り立ってます。


 私は由比川(ゆいかわ)のどかと申します。

 企業の技術系研究員で、テスラドールという小型ロボットの開発をしています。

 ちなみに名前のテスラは、認証を受けるために必要なロゴのようなものです。


 私がここテスラタワー着た理由を説明するために、3日ぐらい(さかのぼ)りたいと思います。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「テスラタワーに出張? 一体どういうことですか?」


 学会発表の原稿を入稿して、のんびりしていた私は、部長から海外出張を告げられた。


「テスラドールの不具合が報告されきている。ドールネットのサーバーチェックをやってきてくれ」


 ドールネットというのは、テスラドール間で相互にデータを受け渡すシステムです。

 ドール間の通信は自由にできますが、それ以外の機器からの接続には複数のロックが掛かる個人情報の保護に配慮したシステムになっています。

 開発者の私と言えど作動状態を調査するにはサーバーまで行く必要があります。


 しかし、あっさり引き受けると『あいつは断らない』と仕事を押し付けられる元です。

 少しは抵抗するフリをするのも大切です。


「いい加減なコスト低減活動をやった結果なんじゃないですか」


 最近のコスト低減活動は形骸化の一途を歩んでおります。

 嘆かわしい。


「そうではない。例えば、君のところのアーカーだが最近調子はどうかな」

「ひとんちのドールに軍用銃みたいな名前を付けないでください。アカですか?いたって元気ですよ」


 アカというのは、私の家にいるテスラドールです。

 ふわふわした赤い髪が特徴なので『アカ』と呼んでいます。

 テスラドールのプロトタイプだった彼女を開発終了後に『このまま研究所においておいては保管場所がもったいない』という適当な理由をつけて引き取りました。

 もともと自分の物にするつもりだったのは内緒です。


「いつも帰ったら料理はできているし、お風呂も沸かしておいてくれるし、私にはもったいないぐらいよくできた娘です」


 テスラドールは愛玩用ロボットなのですが『家電ロボットに勝て』という役員の大号令のもと家事機能が充実しています。

 その恩恵を一番受けているのが開発者たる私です。


「新婚の旦那みたいなセリフだな。例えばその料理の材料の出所について、君は考えたことがあるかね」


『それは、冷蔵庫から...』と言いかけて気づきました。

 仕事柄不規則な生活の私は、基本的に生鮮食料品を買っていません。

 冷蔵庫にあるのは、飲み物と僅かな冷凍食品のみです。

 夕食に供される新鮮な肉、野菜はどこから来ているんでしょう?


 ネット買い?

 特に銀行口座からの引き落としが増えた様子はありません。


「家事機能についての報告が数件あがっいてな。『入手経路不明な材料で料理を作るのはやめさせてほしい』とさ。そうそう、ゲームが欲しいといった子供に、半年後、発売予定のソフトを与えた例もある。君はそんな機能を組み込んだかね?」

「そんなことが出来るなら、こんなところで働いていません」

「知らない機能が知らない間に追加されたわけだ。メーカーとしては原因を調査しないわけにはいかんだろ?いわゆるメーカー責任と言うやつだ」


 メーカー責任。

 この一言が出た以上これ以上の抵抗は無駄でしょう。


「当然、業務出張扱いになる」


 部長のその一言で私の出張は決定しました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 飛行機、電車と乗り継いでようやく目的地に到着したのは、3日後の朝。


「ようやく着いたね。なんだか体中に力がみなぎってくるよ」


 アカは、眩しげに塔を見上げています。

 方向感覚、生活力ともに壊滅的な私の生命線としてアカも出張に連れてきました。

 絶好調な彼女とは対照的に私は移動疲れ&時差ぼけでへろへろです。


「テスラタワーに近づきすぎて電源電圧が耐圧を超えても知りませんよ」

「僕は大丈夫だよ。来る前に高耐圧化は済ませてあるからね。請求書は全部のどかちゃんにまわして置いたよ」

「...良いですけど使った費用分はちゃんと働いてくださいよ」


 テスラタワー正面についた私は、アカのナビ機能を頼りにサーバーを探します。

 テスラタワーは、その管理者であるニコラ・テスラ(AI)の嗜好により、週単位で改変・拡張が繰り返されています。

 お蔭で、ここに何回か来ている私でさえ、毎回迷子になりかけます。

 今回は、アカの案内で無事にサーバールームに到着しました。


 セキュリティチェックを済ませて入室します。


「・・・」(目点)


 サーバーがあるだけの殺風景に部屋の様子が全く違います。

 人っ子一人いませんが、この景色は秋葉原駅の出口に相違ありません。

 後ろには、さっき潜った事務的な入口は、確かにあります。


 部屋の中に作られた1:1ジオラマといった雰囲気ですが、町並みの大きさと部屋のサイズが全く合っていません。

 部屋という風船を膨らまして、そこに強引に町を押し込んだかのようです。

 場の膨張というか歪とか言うものをひしひしと感じます。

 例えるなら、空気をいっぱいに入れられた風船を頭の上に置かれている感じでしょうか。

 ...そんな経験はありませんけど。


 さっさと逃げ出したい気持ちを抑えて辺りを見回します。


「のどかちゃん、パーツ屋さんあるよ。寄らないの?」


 確かに其処にあったのは、本家の秋葉原では行きなれたパーツ屋さんです。

 お言葉に甘えて、中を覗くと見慣れた陳列棚に見慣れない部品の数々あります。

 ジャンク扱いの棚には、私の知る最新デバイスが並んでいます。


「これ、確か1個20,000円位する最新デバイスの筈ですが」


 最新デバイスがジャンク扱いになるまでの期間は5~10年ぐらいでしょうか?

 置いてあるパーツには私の見覚えが無いものもあります。

 まるで、未来にタイムスリップしてしまったような薄気味悪さを感じます。

 この状況でサーバーは無事なのでしょうか?


「ドールネットのサーバーにアクセスできますか?」

「サーバーに? ...出来るみたいだよ」


 サーバーは無事の様ですので、そのIPアドレスに秘密のコードを打ち込みます。

 それは、サーバーを借りるとき密かに入れておいた裏コードです。

 もちろん報告書には書きませんので、この真実を知っているのは私だけです。

 ネット経由で位置情報を得ることができました。


「この位置情報から場所を特定できる?」

「たぶん」


 アカは、サーバー情報とGPS情報元を使ってサーバーの位置を特定できます。


「こっち」


 駆け出すアカを急いで追いかける。とあるビルの3階に上がっていく。

 本来は同人誌売り場の場所に、薄型のPad型モバイルが処狭しと展示されています。


「これから信号が出てるみたいだよ」


 アカに渡されたPadは、外装が痛いBL系でしたが、中身はサーバーに違いありません。

 テスラドールのフォルダもちゃんとあります。

 状況は飲み込めませんが、ここはは感情を封殺してお仕事モードに切り替えます。


 そのサーバーをチェックしていくと、いくつか覚えの無いコードが出てきました。

 しかも、そこにコードに、何が記述されているのかは全く認識できません。

 まるで、超常的何かに認識をずらされているかのようです。

 アカに、コードについての質問をいくつかしてみましたが...


「そこは、@+^~¥に欲しいものと場所をいれてキューを打ってるんだよ」

「...文字、バグってますけど」


 状況に進展は見込めないようです。

 こうなったら、最後の手段、アカのデバックモードを活用します。

 アカはプロト機なので製品版にはない裏モードが色々あります。

 アカとサーバーの実行履歴との照合しながら異常原因を調査します。


 結局原因には到達できず、分かったのは以下の二つです。

  ①OS自体が全く未知のものに切り替わって、ファイルプロパティが10年後。

  ②READMEにメールアドレスと『詳細はメールで説明します』との記載があること。


 相手の思いのままに動くのはしゃくですが、手がかりが無いのですから仕方ありません。

 READMEのアドレスにメールを打って暫し待ちます。

 その間に、アカにファイルシステムの変更について確認します。


「最近ファイルシステムの変更をしなかった?」

「したよ。こないだアップデートのお知らせがきたから」


 私、開発責任者なんですけど、そんな話は知りません。


「アップデートしてから色々出来るようになったよ」

「そっ、そうなんだ。よかったね。あはははは」


 とりあえず犯人を捕まえてこの技術を我が物に・・・と物思いにふけっているとアカが突っついてきた。


「のどかちゃん宛てにメールが届いているよ」

「あなたにメーラーを実装した覚えはありませんけど...なんて言っています?」

「『そこは、危ないからすぐ逃げるように』だって」


 途端に周囲から『ピシっ』という何かがひび割れるような音が響いてきます。

 空が描かれていた天井も色を失い、崩落が始まりました。


 お仕事モードを緊急停止して急いで逃げだした私達でした。

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