第6話.警告
「最悪ですね」
覚醒とまどろみのはざま、全ての夢が繋がるところ、幻夢境の執務室で机に頬杖をついて独り言ちる。
ここは、私の大事なおもちゃだから、他の邪神に気取られたくない。
そう思って目立たないように、この次元のガードを下げておいたのが失敗だった。
「戦争がなかったおかげで発展してなかったロケット技術が、ようやく面白い感じになってきたって時に....」
欠落していた宇宙空間へのアクセス方法が発展すれば、ここにも宇宙世紀が訪れる。
ようやく芽生えた宇宙への好奇心をここで無くさせてなるものですか。
「とは言え、私が出たのでは元も子もないですね」
奴と殺りあったら地上の壊滅は必至。
それでは元も子もなくなってしまう。
やりあうならば成層圏外、やつを地上から引き剥がすしかない。
仕方ないか、計画変更はやむを得ない。
執務室のドアをアレがいる部屋につなげる。
開けたドアの向こうから飛んでくる非友好的な視線を黙殺して、明るく挨拶する。
「お久しぶり。元気そうで何よりです。実はちょっと、面倒が起きたので手伝ってもらえませんか?なに貴方にも無関係な話ではないですよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『あかり』の最終到達高度が、上空30kmにも達したことが判りました。
これは、従来のコロンビヤード砲の到達記録の約3倍という大記録です。
ヴェルナーなどは鼻息も荒く「勝ったも同然」宣言をしています。
あ~、なんとか抑えないと...
鼻息が荒くても、自信過剰でも、彼女の設計に間違いは無かったことは明白でした。
プロジェクトの士気も、温泉宿での休暇効果もあいまって高く、破竹の勢いでプロジェクトが進んでいきます。
次のロケット『かなた』で、いよいよ上空100km、成層圏に挑戦します。
基本操作はアカ・アオコンビがやるのですが、制御用の細かい仕事に向いていない(特にアカ)ので、一人几帳面な娘を介した方が良さそうです。
その辺りとロケット本体のインターフェースについて、搭乗する本人たちの意見も聞いてみます。
「あなたたちのロケットどんなモノが欲しいですか?」
「テレビ!あとニパニパ動画が入るタブレット!!」
「出来ればドレッサーがあると嬉しいのですが....」
....聞き方を間違えました。
そんな中、部長から急に呼び出しをくらって、久々に事務所に顔を出しました。
「あぁ、こんな落ち着いた空間がこの世界にはあったのですね」
以前の私なら、絶対に思わない感想を浮かべる。
これも、ここ数ヶ月の賜物だろうか?
久々にみる自分のデスクは、手紙の類が山積みになっている。
多くはロケット発射を見た子供たちの感想でした。
ロケットの絵と私(想像図)の絵が書かれたもの、感激の言葉、こまっしゃくれたご意見など等。読んでいて飽きません。
お返事書くの大変だな(^^♪
そんな中、異彩を放っている一通の手紙を発見した。
「警告文?」
場違いな題目が書かれた封筒を手に取る。差出人は『イタクァ教団』となっている。
「イタクァ教団?聞いたこと無いですね」
つぶやきに反応した部長が声をかけてきた。
「あぁ、それは読まなくていいぞ。新興宗教からの難癖のようなものだ。何でも宇宙はイタカという神様の神聖な土地で、無断で荒らすものは万死に値するのだそうだ。
その教団が絡んでいるらしいハッキング事件の報告がニコラ・テスラから上がってきている」
「ニコラ・テスラに手を出すなんて、なんて命知らずな・・」
「サーバーへの攻撃が不発だったやつらが、ロケット関係者を狙う可能性がある。場所と警備を確保するから、事態が収まるまで自宅には戻らないでもらいたい」
何処にも狂信者というのは居るものですが、まさか自分が標的になる日がくるとは思っていませんでした。
しかし、人類初の成層圏外への到達が現実味を帯び始めた今、技術系研究員としてのプライドにかけてもプロジェクトは続行です。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
警告を受けたあの日から、厳戒態勢の中ロケット開発は進められます。
オペレータドール『かなた』も順調な仕上がりました。
彼女には、ロケットに直接つながるインターフェースを組み込んで、ロケット制御用ーのすべてを任せようと思います。
時間不足でAIの教育に時間をかけられませんが、そのあたりはアカ・アオコンビに頑張ってもらいましょう。
そして、とうとうロケット用レールガンの最終発射試験にこぎ着けました。
噴射用の一角を除き、巨大なコンクリートの塊に囲われ試射室にレールガンを据え付けます。
通常のコロンビヤード砲で使用されるレールガンは、せいぜい数秒の通電を行うだけです。
しかし、今回のロケット搭載型は加速度を軽減するため30秒以上撃ち続けます。
今回の試射はレールガン制御担当のアカと『かなた』の相性チェックも行われます。
若干の不安は感じますが、『かなた』のバックアップがあるので大丈夫でしょう。
出番のないアオちゃんと試験室で見学モードに入ります。
計測用に色々ケーブルをつけたアカが、レールガン制御用シートに着席します。
「それではレールガンの試射を開始します」
ヴェルナーが実験のスタートを宣言し、実験がスタートする。
アカの制御によってレールガンが火を噴きます。
プラズマ化した水素イオンが強大なローレンツ力で打ち出され、轟音と共に巨大な推進力を生む。
推進力のまき沿いを食った周囲の土砂を巻き上げ、後方にたたきつける。
たたきつける。たたきつける。たたきつける・・・たた・・
「30秒って長いね」
「そうですね」
最初は緊張していた私とアオちゃんは30秒の噴射が終わるころには、すっかりだらけていた。
...まぁそれぐらい安定した噴射だったということです。
新たな姉妹『かなた』を加えた三姉妹が乗ったロケットが轟音をあげて成層圏へ飛び去っていく。その先に湧き上がる暗雲。その向うに待っていたものとは?
次回「コロンビヤード砲外伝 待ち伏せと、再会と、」
いよいよ物語りは佳境に!刮目して待て




