第10話.封印、そして...
テスラタワーの最深部。ごく一部のものしか立ち入れない超極秘ポイント。
それがここ『ジェネレータ』だ。
ニコラ・テスラの権限で立ち入りを許された私たちは今そこに立っている。
「ねぇ、のどかちゃん。ここのエネルギー、何処から来ているか知っている?」
いきなり基本的な質問をするパー子。私を誰だと思っているんですか。
「小学生でも知ってますよ。19世紀にニコラ・テスラが無線給電と同時に発明した永久機関による発電装置が封じ込まれているんですよね」
パー子は、微妙な表情で首を横に振った。
「...確かに、ニコラ・テスラは無線技術を提唱して送電タワーを作った。けれどエネルギー源は違う。その正体は『コア』。永遠に稼動する永久機関よ」
自分の胸のあたりをさして言うパー子。
「考えてもみて。彼は電気技術者で物理学者でも錬金術師でもないもの、永久機関なんてものとは全く無縁の人物でしょ。彼は永久機関なんてものは作らなかった。それは別のものによって、もたらされたのよ」
「別のものって?」
「彼の出資先であったJ・P・モルガンの娘、に姿を変えた千の異なる顕現によってね」
『千の異なる顕現』
なんだろう?
何か胸の中でざわつくものがある。
「私がこっちの時空間に飛ばされた時、私のバディも一緒だったの。私は貴方の7歳の誕生日プレゼントの中、彼は19世紀のロングアイランドのウォーデンクリフ・タワー、通称テスラ・タワーに送り込まれたみたい。もっとも、彼の方は千の異なる顕現による改変で、永劫にエネルギーを吐き出し続けるだけの存在として、ニコラ・テスラーの手渡ったみたいだけどね」
肩をすくめるパー子。
「私の存在に引かれて彼の自我も戻るみたい。10年前の事件では私が永久凍結されることで彼を眠りに着かせることができた。でも今回彼を目覚めさせてしまったのは彼女たちなの」
視線の先にあるのはアカとアオちゃん。
「のどかちゃんが作った彼女たちのシステムは、私にすごく似ているの。それこそ彼が間違えるぐらいに。前は私が凍結されれば彼を止めることはできたけど、もうその手は使えない」
何かを決意したように、少し言葉を切ってから次の言葉を紡ぐ。
「だから私は彼を切るわ」
私が幼いころ私を守るために永久凍結を受け入れたパー子。
あの時と同じ目をしている。
「あきらめるのは早いですよ。あの時は私たちしかいませんでしたが今の私たちにはこの子達がついています。何か方法がありますよ」
「そうですよ。私たちにどーんとお任せです。おねえちゃん」
「私はそのために着たんです。そんな悲しい終わらせ方はさせません」
アカ、アオコンビの頭をなぜながらパー子に言う。
「私思うんだけど、完全に自我を失っていたら貴方を求めてこの子達にアクセスするようなことはしないと思うの。多分まだ自我は存在する。それを信じようよ」
「信じるか...良い事を言うようになったね」
眩しそうに私をみるパー子。
やめてよ。
照れるじゃない。
「のどか。ちょっとお願いがあるんだけど・・・」
彼女から出てきたのは意外な作戦でした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
準備を終えた私たちがジェネレータに近づく。
すると、それに反応するように黒い影が現れる。
「うぉおおお」
パー子の号令で最後の戦闘が始まった。
雄たけびを上げて疾駆しながら両腕の剣を振る。
ガキンという音を立てて、黒い霧の中から突き出てきた斧がそれを受ける。
巨大な筋肉の鎧を纏い巨大な斧を持ったその姿は狂戦士のよう。
パー子の剣と斧がぶつかり火花を散らす。切り結んで離れる。
他の影が近づくのをアカの放つ炎とアオちゃんの放つ風が食い止める。
「パーねーちゃん。他のやつらは私達で食い止める。だから勝って!!」
「...わかった。パー子さんに任せなさい」
斬る、斬る、斬る、斬る、斬って斬って切りまくる。
だが、狂戦士の纏う漆黒の霧に阻まれて攻撃が通らない。
逆にパー子を襲う斧が徐々に彼女を捕らえ始め、細かな傷を作り始める。
今は何とか耐えているが、一発もらえば致命傷になりかねない。
喉元ぎりぎりを掠めた斧を避けて距離をとるパー子。
「ちょっと手ごわいな。」
攻守交代で迫る狂戦士。
避けるパー子。
追い詰めらそうになった瞬間、絶妙のタイミングで紫紺の焔に包まれる狂戦士。
「おねーちゃんに手を出すなら、先ず私を通してからにしなさい」
アカ、そこは倒してじゃないの?
私の心の声を知ってか知らずか、霧散した紫紺の焔のあとに無傷の狂戦士が立つ。
「そんな・・・」
絶句するアオちゃん。
「いえ、確かに一瞬だけどあの霧を超えて攻撃は通った。二人共力を貸して!!」
「(・∀・)オッケー!」
「分かりました」
気合とともに立ち上がる真紅の炎と蒼の風。
パー子の構えた右の剣がアカの炎、左の剣がアオちゃんの風を纏う。
「必殺、ファイナルパープルザンバー!!」
三人の声が重なって左右の剣を振る。
ガキンという音と共に、漆黒の霧に再びはじかれると見えたのは一瞬、そのまま袈裟懸けに斬り下げ返す刀で胴を割る。
凶戦士はそのまま、紫の炎に包まれて、後には何も残らなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さてとっ、それじゃあ行ってくるよ」
私たちを残して、ジェネレータに近づくパー子。
「怖がらなくていいからね。愛しのパー子さんが会いにきたよ」
エネルギー発生装置の近くで剣を振る。
空間に亀裂が走る。
「じゃあ10年後に。信じているよ。のどか」
パー子が空間に身を投じると同時に亀裂が消える。
その日を境にタイムパラドックスは起こらなくなった。
「全くいきなり現れて、いきなり消えてしまうなんて貴方らしいですよ。しかもこんな面倒な宿題を人に押し付けておいて・・・」
あの時、彼女が語ったのはバディを斬らない唯一の方法。
戦力を奪った彼にパー子が逆アクセス、システムを抑えながら自我の復帰を試みる。
彼女の見積もりでもおよそ10年の作業だ。
その間に私がコアのバックアップシステムを開発してバディとテスラタワーを分離する。
「とりあえず戻ってきたら、文句のひとつも言ってあげましょう」
前回の別れでは泣くことしかできなかった私だけど、今回は友達を救うことができる。
戦うためのすごい力はないけれど、その代わりに役に立てることがある。
そのことが、とても嬉しかった。
@10年後
「...寝てたのに激疲れていますが、とりあえずおはようございます。修復プログラムの実行は終了しました」
タイムパラドックスの侵食を押さえ込んでいた負荷が軽くなり、目覚めるアカ。
こちら側でのバディアクセスの手違いで過去へのアクセスを許してしまい大変な目にあったが、これも折込済みの事件だったんだろうか?
なんにしても、ようやくバディとパー子のサルベージに移行できる。
手元に光り輝くのは、この10年の結晶コアだ。
私だけでは手に負えないが、成長したアカとアオ、そしてニコラ・テスラの助力によって、10年前の彼女との約束はぎりぎりのタイムスケジュールで完了している。
「さてと、こっちはこっちでさっさとサルベージしますか。今日から怖いおねーさんが加わると思うけど覚悟はいい?」
アカの後ろから姿を表した青い髪のテスラドールに話しかけた。
・
・
・
・
・
・
『テスラタワー異聞 FIN』
とりあえず、異聞篇はこれにて終了です。
コミカルなものを目指したのですが、クトルーネタを入れ始めた辺りから、ちょっとシリアスになってしまいました。
まあ、ハッピーエンドになって何よりです。




