第9話.邂逅
古い埃まみれのRPGのダンジョンの様な廊下を歩いています。
ここが人類の英知を集めたあのテスラタワーの真下とは誰も思わないでしょう。
「なんで、こんなところにダンジョンがあるんですか?」
「このテスラタワーは、我々ニコラ・テスラが実装される遥か昔から存在していた。その中には改装されず放逐され、管理が行き届かないブロックも多数存在する」
「そう言うセキュリティホールは潰しておいてくださいよ」
ニコラ・テスラの本体は、ネットワーク環境が整なわないこの場所では活動できないらしく、答えているのはポータブルサーバーで活動中の分体だ。
役どころといえば、マッパー兼賢者(但し魔法なし)といったところでしょうか。
かく言う私も、せいぜい冒険者パーティに拾われた村娘Aと言ったところなのですから、人のことは言えた義理ではありません。
しばらく進むと、ちょっと広めの広間に出ました。
備品が散乱し、盗掘の跡が見受けられます。
ニコラ・テスラが言っていた管理できていないということは本当の様です。
「タイムパラドックスが起きなくても普通に怖いですが...」
「大丈夫だ。盗掘の対象になるものは既に残っていない。いるとしてもねずみかゴキブリ程度だ」
「それはそれで大問題です」
カラ・・・ガラガラ・・・
急に近くのガラクタが揺れ始めます。
これは、何かが起こるフラグを踏んでしまったようです。
周囲の瓦礫を押しのけながらそれは現れました。
黒い霧をまとった彼らの姿は、物語かアニメで見たことがあるゾンビの様です。
見かけによらず素早いその動きにアカとアオちゃんは翻弄されています。
本来愛玩用のテスラドール(若干チューンアップ)には、ゾンビ退治は分が悪すぎます。
「こんっのお」
アカが相手の攻撃を避けながら、炎の力場で黒い霧を浄化しています。
黒い霧がなくなると、ゾンビの動きは停止するのですが、数が多すぎでこちらに勝ち目はなさそうです。
ここは一度退却しますか...
「のどか様!!」
アオちゃんに押されてこけた私がいた一瞬前に居た場所をゾンビの腕が通過していった。
『どかっ』
「きゃん」
アオちゃんが、私の代わりにゾンビの一撃をくらってしまいました。
「アオちゃん!」
「...だ、大丈夫です」
気丈に振舞っているけど、かなりキツそうです。。
アカがフォローに駆けつけようとするけど、ゾンビたちに阻まれてこちらに近づけません。
紫の髪をした何かの面影がフラッシュバックの様に横切ります。
『どんな時でも駆けつける...』
「...パー子!!」
キンッ
突然黒い影と私たちのあいだの空間に切れ目が入り、中からから紫の髪をした何かが現れます。
両腕に剣を持ったその身体全体から怒りのオーラが溢れている。
そこからは一方的な虐殺が始まった。
二本の剣は、戦闘用アンドロイドたちをまるで紙のように切り裂いていく。
2,3体倒した後、なにを思ったのか剣をしまって近くにあった鉄パイプのようなものに持ち替えた。
ごきっ、めしっ・・
アンドロイドたちを押しつぶし、粉砕する音が広間にこだまする。
...知っている。私はこの光景を知っている。
確かな確信とともに蘇ってくるトラウマ。
膝から崩れそうになるところに、手薄になった黒い影のあいだを縫ってアカが駆けつける。
「のどかちゃん、アオちゃん大丈夫?」
「大丈夫ですが、あれは一体・・・」
事情を知らないアカ・アオコンビがあっけにとられている。
とりあえず、目先の問題を片付けるため、彼女のことは一時棚上げにしておく。
「とりあえず味方だけど絶対に近づいたり目を合わせちゃダメだからね。それより今がチャンスよ」
「わかった」
二人揃って気合を入れると、炎が風に煽られ強力な紫紺の焔になる。
「必殺!パープルシャワー」
紫紺の焔に焼かれて消滅していくゾンビたち、救いの主は、未だ暴れたらないのか、がるがる言いながらその辺りに黒い影が残っていないかを探している。
あのまま放置しておくと、こちらを襲いかねない。
「お久しぶり。相変わらず見事なキレっぷりですねパー子」
びくっとしてこちらを振り返る。
先程までの蹂躙ぶりは何処へやら明らかに狼狽している。
「・・・なんのことかな。私は通りがかりの正義の味方だよ」
それには答えず只ジト目で見つめる私。
沈黙に耐え切れなくなったパー子が先に根を上げた。
フルフェースの戦闘用マスクを取りながら私に声をかける。
「のどかちゃん、私のこと覚えてるの?」
「さっきまですっかり忘れていましたけどね。そのキレっぷりは私の幼心にトラウマとして刷り込まれていますよ」
「そっか」
なんだか嬉しそうなパー子。
私としてはちょっと複雑ですが・・・
「なんにしても色々聞きたいことがあるので、一緒に来てもらいましょうか」
「いいけど、ちょっと先に用事を済ませちゃっていい?」
「いいですけど、なんなんです?」
「こんな悪戯ができないように、パラドックスの核を潰しに行こうかと思ってね」
ゾンビたちの体液がベットリついた鉄パイプを私に見せる。
ちょっとひく私。
「よかったら着いてくる?」
パー子さん再登場。
物語はいよいよ佳境に入ります。




