窓にいる物
ホラーです気を付けてください。
もう何日経つだろう。
一人暗闇の中で膝を抱えてその時を待っている。
最初は恐怖と葛藤でどうしようもない程、憤りを感じ、
暗闇の中をがむしゃらに走り回り、悪態を付き、
助けを求め、思いつく人の名を叫び続けた。
不思議と腹も減らず、喉の渇きも排泄の生理現象も無かった。
黒い床に投げ出したままの携帯はどこにも通じないが、照明替りに使っても
バッテリーの消耗は無いようでボゥと床に光を投影し待ち受け画面の
デジタル時計はAM2:15で止まっている。
不思議と涙は沢山出るのに他の物は止まっているようだ。
だがもう涙が出ない程泣き疲た。
今は、最初ここに来た時よりも冷静で、全てを悟り、今を受け入れた時、
チャンスを逃さないよう集中する他やることは無かった。
帰って来たのは相変わらず残業続きで今日も遅く、コンビにで買った
パスタを食べながらバスタブにお湯が溜まるのを待つ。
マンスリーマンションで一人暮らしを初めてもう半年、
寂しいと思う事も有るが、勤めながら小説家を目指す自分にとって、
とても良い環境で満足していた。
カチャカチャとマウスをクリックしながら小説投稿サイトを確認する。
「ログインと・・[フレンドマスター]・・とアクセス解析・・とりゃ!」
今日は金曜だと言うのに、今朝、徹夜でUPした連載「フレンドマスター」の
エピソード5は12アクセスしかなかった。
「ウーム・・面白く無いか・・どうしようかな・・」
そう独り言を言いながら、汗臭いワンピースを脱ぎ玄関脇の洗濯機へ向かう。
ついでにブラとパンティーも脱ぎ洗濯機に放り込む。
「今日はお風呂で落とそう」又、独り言を言って化粧はそのまま、
パジャマ代わりの男物のTシャツを裸の上から着ながら長い髪をシュシュで
束ねてバスルームを覗くと、まだバスタブのお湯は半分も溜まっていなかった。
冷蔵庫からビールを取り出してパソコンの前の椅子に座りトップボタンを
押した後、しばらく画面を眺めて(うーん、何か良いネタはないかな・・)
何も思いつかないので検索欄に”助けて”と打ち込んでみる。
(まさかこんなの・・有ったら怖いな・・別の検索・・うーん)
検索欄を消そうと狭いテーブルの上のマウスを動かした時、横に置いてある
食べかけのナポリタンが机から落ちた。
赤いソースが床に散乱する。
「あ・・」
急いで後ろのロフト式ベットに置いてあるティッシュを取ろうと
椅子を立った時、「たすけて・・」
パソコンからそう聞こえた気がした。
ビックリして画面を見ると黒い画面に白文字で小説が表示されていた。
タイトルは「助けて」
(え・・何・・?検索で・・出たの?)
椅子に座り直し小説のサイトを表示し読んでみる。
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暗い場所から明るい場所へ、新月の闇夜に光の窓が。
魔性着たりて神を騙り、汝は我なり、我、汝なり。
光の窓を抜け汝の背後へ立つ者なり。
振り向いてはならぬ。
落ち行く闇夜が汝を連れ去る。
助けて。
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↓
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(叙事詩? 呪文? 掴みかな? 何だろう・・)
下に続くようだが、床に散らばったナポリタンをかたづける方が先、
とティッシュを取り拭き取りにかかる。
下に落としてしまうと、食べ物が別の物に感じる、
「ミミズ・・うう」
そう思うと手に伝わる感触が気持ち悪い。
そばに放って置いたコンビニの袋に入れ玄関の大きなゴミ箱に放り込んだ。
気を付けてはいたが、Tシャツに赤い染みが飛び散っている。
するとバスルームからジャバジャバとお湯があふれる音がしていた。
(先に入ろう)Tシャツを脱いで洗濯機に放り込み風呂に入る事にした。
シャワーを浴びながらさっきの文章(呪文?)を思い出していた。
(”助けて”て所だけが他と違っていたな・・・・)
シャワーを止め、シャンプーを容器から手に取る。
下を向いて髪に付け泡立てた時、後ろに何か気配を感じた。
とっさに目の前の鏡を見る。
何もいない。
後ろを振り向こうとした時、
さっきの呪文が頭に浮かんだ「振り向いてはならぬ」
「いや!」
怖くなり体が固まる。
だが、見るなと言われると見たくなる。
思い切り体をねじり振り向く。
何もいない。
「はー、居るわけ無いか・・でも怖いな・・」
思わず口に出して独り言を言いながら、
急いで髪を洗い、洗顔ジェルで化粧を落し
体を洗おうとした時、思い出した。
(そうだ・・携帯、防水だったんだ、誰かと電話しながら入ろう)
バスルームを出てビチャビチャと床に雫が垂れるのも気にせずに
パソコンの横に置いた携帯を取りにリビングへ向かうと、
照明を落とした部屋の壁に何かもぞもぞ影を落としている。
(え・・? 何?)
パソコンの画面から光が漏れ、部屋の壁を照らしているようだ。
急いで携帯を手に取り、パソコンの画面を見ると、
先ほど表示していた文章の文字がウネウネと画面を這っていた。
「きゃー!!」
そのまま、余りの恐怖で体が固まり、
携帯を握り締め、画面から目がはなせ無くなっている。
すると、いきなり画面がスクロールし、
大きなな文字で、
後ろにいる!!
と表示された。
即座に後ろを振り向くと、
そこには自分が立っていた。
目を見開き、開放されたような薄笑いを浮かべて。
そしていきなり、その自分は、私を後ろに付き飛ばした。
とっさに手を突こうと後ろの机を探したが見当たらず、
体をひねった私の目に映ったのは、
パソコンの画面が暗い洞窟の入り口のように口を開いていた。
私は暗闇に落ちて行った。
そんなに深くない暗闇の床に、私と握っていた携帯が叩き付けられ、
振り向くと、2m程の高さに窓が見え、そこから私が覗いていた。
彼女は、「振り向いてはならぬ」と言うとパソコン電源を落とす音楽が流れ、
辺りは闇に閉ざされた。
私は暫く呆然としていたが、我に返り窓の有った場所へ駆け寄り壁にぶつかった。
その壁を何度も叩き「出して!!ねえ!出して!!」と
何度も叫び、父や母や友人の名を叫び続けた。
足元に携帯がボーと光を発しいる事に気が付き、拾い上げ辺りを照らすと、
黒い壁に囲まれたトンネルのような場所で、出口を探して右へ進むか、
左へ進むべきか、選択枠は二つしかなかった。
ふと右の方から突然「グオーー!!」という野獣の雄たけびのような声と、
地下鉄を走る電車のようなゴーと言う音が聞こえ、凄まじい突風が吹いて来る。
(何か来る!!)
とっさに反対側に走った、がむしゃらにどこまでも続く暗闇を、
携帯画面の光だけを頼りに。
気が付くと音もやみ、もう追いかけて来る物はいないようだ。
もう何日経つだろう。
一人暗闇の中で膝を抱えて、何が有ったのか考える。
(そういえば・・・)
ホラーを書く小説家仲間が日記に書いていた事を思い出した。
「ホラーの題材にする幽霊や禍禍しい物達は、昔、人の口伝で
百物語や怪談として恐怖を与えて来た。
そしてある程度人が恐怖する回数が増えると、それらは形を成し、
語られる度に力を付け、さらに沢山の恐怖を得るため私達の前に
現れるのだ。 そして現在はネットを通じて広がり恐怖を手に入れるため
何処にでも窓を開くのだ。」
そう、あの時開いてしまった小説がネットで広がり、ドンドン力を付け
現実から私を引きずり込んだのだ。
(・・・・・・・・・・・・)
そう思った時、私は助かると確信した。
追いかけて来る得体の知れない物から逃れ、
今を受け入れチャンスを逃さないよう集中する。
やることはそれだけだった。
そして、私は今窓が開いた事を確認した。
窓を見上げると誰かが驚いた顔で窓を見ている。
さーここを出よう、今見ている人はどんな人かは知らない。
自分はその人になるのだろうが、ここから出れるなら、
もう他はどうでも良い、その人が私の替わりに成るのだ。
そう私はその人になって外へ・・。
顔が笑っているのが解る・・(嬉しい)
笑いながら思わず声にだして外の人にそっと呟いた
「たすけて・・」
向こうの人は驚いている。
自分の体がスーと浮き上がって行く
(良かった・・これで外に出られる
だって貴方がこれを読んでくれたから)
貴方よ!
これを読んでいる
そう貴方!!
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後ろにいる
おつかれさま