↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ令嬢なので聖女の力は隠します〜死亡フラグ回避のため隠しダンジョンで鍛えていたら王国最強になっていました〜  作者: オレンジペコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/68

第21話 予定にない魔族

魔物の増加とは別の手がかりが見つかったのは、3日後だった。


     ◇


 放課後。


 王都の屋敷へ戻ったリリアーヌを、リゼが玄関で待っていた。


「お嬢様」


 いつもより声が低い。


「何か見つかった?」


「フィナから連絡がありました」


「西街道?」


「はい。こちらへ」


 案内された部屋には、すでにガルドがいた。


 机の上には王都周辺の地図が広げられ、西街道から北へ外れた森に新しい印が付けられている。


「何があったの?」


「森の中に、古い小屋が見つかった」


 ガルドが答えた。


「昔、炭焼きに使われていたものらしい。今は放棄されているはずの小屋だ」


「誰かが使ってるの?」


「その可能性が高い」


 リゼが地図上の印を指す。


「フィナが森を調べていたところ、人が繰り返し通った痕跡を見つけました。その痕跡を離れた場所から確認し、小屋を発見しています」


「危ないことはしてない?」


「小屋には近づいておりません」


「ならいい。それで、誰がいたの?」


「3人です」


 リリアーヌの表情が変わる。


「何をしてたの?」


「そこまでは分かりません。ただ、3人のうち1人が、人間ではない可能性があります」


「……魔族?」


「フィナはそう判断しました」


「理由は?」


「遠目ですが、額の横に角のようなものを確認しています」


「見間違いの可能性は?」


「否定できない」


 ガルドが答えた。


「だから、明日もう一度確認する」


「私も行く」


「駄目だ」


「まだ最後まで言ってないよ」


「では、最後まで聞こう」


「私も――」


「駄目だ」


「結局、言わせてくれないじゃん!」


「学生が放課後に魔族を見物しに行くな」


「見物じゃないよ」


「では何をしに行く?」


「確認」


「それを見物と言うんだ」


 正論だった。


「近づかない。戦わない。見るだけ」


「お前は8歳の時にも、似たようなことを言って地下遺跡へ入ったんじゃなかったか?」


「昔の話を持ち出すのは卑怯だよ」


「同じことを繰り返そうとするからだ」


 リリアーヌはリゼを見る。


「リゼからも何か言って」


「お屋敷でお待ちください」


「そっち側だった」


「当然です」


 味方はいなかった。


     ◇


 偵察には、ガルド、リゼ、フィナが向かうことになった。


 シオンは少し離れた場所で待機し、地面の振動から周囲の動きを探る。


「確認だけ。相手が魔族でも絶対に戦わないで」


「分かっている」


「見つかりそうになったら?」


「退く」


「何か落としても?」


「拾いに戻らない」


「フィナがもっと近づけると言っても?」


「止める」


「私が後から追いかけてきたら?」


「担いで帰る」


「それはしなくていい」


「では、来るな」


「……はい」


 今回も勝てなかった。


     ◇


 翌日、学園では何事もなかったように授業が続いていた。


「リリアーヌ」


「ん?」


「聞いてた?」


 隣からエミリアが顔を覗き込む。


「聞いてたよ」


「先生、今なんて言った?」


「……大事なこと」


「何について?」


「そこまでは聞いてなかった」


「ほとんど聞いてないじゃん」


「ちょっと考え事をしてただけ」


「最近多くない?」


「そう?」


「多いよ」


 エミリアが心配そうにリリアーヌを見る。


「何か困ってる?」


「大丈夫」


「本当に?」


「うん」


 魔族が王都の近くにいるかもしれない。


 そんな話を、何も確定していない段階で伝えるわけにはいかない。


「寝不足?」


「それはちょっとある」


「ちゃんと寝なきゃ駄目だよ」


「はい」


「今日は素直だね」


「反抗する元気もないの」


「それ、もっと駄目じゃない?」


 その時、教師がリリアーヌを見た。


「フォルティス」


「はい!」


「今説明した箇所を読んでみろ」


「分かりました。ちなみに、どこでしょうか」


 教室に小さな笑いが起きた。


 エミリアが教科書の一か所を指す。


「ここ。大事なところ」


「それは聞いてた」


「そこしか聞いてなかったよね?」


     ◇


 放課後、リリアーヌは急いで屋敷へ戻った。


「リゼたちは?」


 玄関にいた使用人へ尋ねる。


「まだお戻りではございません」


「そっか……」


 自室へ戻り、着替えを済ませる。


 30分が過ぎた。


 まだ戻らない。


 さらに30分。


 窓の外では、日が傾き始めていた。


(遅い)


 何もなければ、もう戻っていてもおかしくない。


 場所は聞いている。


 今から向かえば――。


 そこまで考えて、リリアーヌは首を横に振った。


 自分が行けば、かえって足を引っ張る可能性がある。


 ガルドも、リゼも、フィナも、シオンもいる。


(任せるって決めた)


 全部を1人でやろうとしなくていい。


 アルベルトへそう言った自分が、仲間を信じられなくてどうする。


「待とう」


 リリアーヌは椅子へ座り直した。


 しかし、その直後には立ち上がった。


 また座る。


 しばらくして、もう一度立つ。


 落ち着かない。


「お嬢様」


 いつの間にか部屋へ来ていた使用人が、不思議そうに尋ねる。


「先ほどから何をなさっているのですか?」


「仲間を信じて待ってるところ」


「随分と忙しそうに見えますが」


「待つのにも体力がいるの」


     ◇


 さらに30分ほどして、ようやく扉が開いた。


「お嬢様」


「リゼ!」


 リリアーヌは立ち上がった。


 リゼに目立った怪我はない。その後ろにはガルドもいる。


「大丈夫?」


「はい」


「フィナとシオンは?」


「無事です」


 その言葉を聞いて、リリアーヌは大きく息を吐いた。


「よかった……」


「ただいま戻りました」


「うん。お帰り」


 リゼは一瞬だけ表情を和らげた後、小さな布包みを机へ置いた。


 中に入っていたのは、黒い金属片だった。


「……これ」


 リリアーヌは、刻まれた印に見覚えがあった。


 8歳の頃、最初の地下遺跡で捕らえた男が持っていたものとよく似ている。


「魔王軍のもの?」


「断定はできん」


 ガルドが答えた。


「だが、まともな商人や旅人が持つものではない」


「どこにあったの?」


「小屋の近くに落ちていました」


「3人は?」


「確認しました」


 リゼの声が低くなる。


「人間が2人。そして、もう1人は魔族です」


「間違いない?」


「はい。角を確認しました」


 今度は、はっきりとした答えだった。


     ◇


「何をしてたの?」


「複数の荷物を小屋へ運び込んでいました」


「中身は?」


「確認できませんでした」


「会話は聞こえた?」


「フィナが一部だけ拾っています」


 風を細く操り、遠くの音を拾う。


 フィナが得意とする魔法だ。


「聞き取れた言葉は3つです」


 リゼが指を1本立てる。


「『移動』」


 2本目。


「『南』」


 そして、3本目。


「『学園』」


 リリアーヌの表情が固まった。


「……学園?」


「はい」


「王立学園とは言ってないんだよね?」


「そこまでは確認できておりません」


「別の学園かもしれない?」


「可能性はあります」


 だが、この周辺で魔族が口にする学園。


 嫌な予感しかしない。


「こちらには気づいてない?」


「そのはずだ」


 ガルドが答える。


「途中で相手が移動を始めたため、追跡せずに戻った」


「それでいい。追わなくて正解」


「珍しく素直だな」


「私はいつも素直だよ」


「そうだったか?」


「そうです」


「なら、次から留守番と言われた時も素直に頷け」


「それとこれは別」


「ほらな」


     ◇


 リリアーヌは地図を見る。


 西街道。


 南の訓練林。


 王都。


 そして王立学園。


(狙われているのは、エミリア?)


 最初に彼女の顔が浮かんだ。


 エミリアは《聖》属性を持ち、いずれ魔王を倒す中心となる少女だ。


 しかし、今の彼女は教会に確認された10人の聖女の1人にすぎない。この時点で、魔王軍がエミリアだけを狙う理由は分からない。


 そもそも、標的がエミリアだとは限らない。


 誰にも知られていないはずの11人目の聖女が、もう1人いる。


(まさか、私?)


 8歳の時、リリアーヌは地下遺跡で黒い印を持つ男と遭遇している。


 あの男が《聖》属性に気づいていた可能性は、完全には否定できない。


 あるいは、特定の誰かではなく、学園そのものが狙われているのかもしれない。


 分からない。


 だからこそ、決めつけてはいけない。


「リゼ。学園について、外から調べられる範囲を確認して」


「生徒や教師についてでしょうか?」


「それだけじゃない。学園へ入る人と物も。最近、何か変化がなかったか知りたい」


「承知しました」


「ダリオにも、学園向けの荷物や出入りしている業者について聞いて。商売の範囲で分かることだけでいいから」


「はい」


「危険なことはしないでね」


「承知しております」


「本当に?」


「お嬢様よりは慎重です」


「比較する相手を変えてくれる?」


 ガルドが地図を見たまま言う。


「もし本当に学園が狙われているなら、どうする?」


 リリアーヌは少し考えた。


「その時は、私も動く」


「普通の生徒のままではいられなくなるぞ」


「分かってる」


 正体を隠すことは大切だ。


 だが、そのためにエミリアやほかの生徒を見捨てるつもりはない。


「私、普通に学園へ通いたかっただけなんだけどな」


「今さらか?」


「さっきも言ったけど、今さらって何!?」


 ガルドは答えなかった。


 リゼまで静かに目をそらしている。


「リゼ?」


「報告書の準備をしてまいります」


「逃げた!」


 部屋を出ていくリゼを見送り、リリアーヌはもう一度、黒い金属片へ目を落とした。


 8歳の時に見た印と、よく似ている。


 狙われているのはエミリアなのか。


 それとも敵は、11人目の聖女が学園にいることを知っているのか。


 どちらにしても、魔王軍は王立学園のすぐ近くまで来ていた。

面白かったと思っていただけましたら、ブックマーク・☆☆☆☆☆からの評価をいただけると嬉しいです!

感想も大歓迎です。執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。