婚約者が巡礼の旅に選ばれました
「ティアナ。俺が何故か巡礼の旅の同行者に選ばれたんだが……」
騎士団所属の婚約者(美丈夫)が困惑したようにいつもなら仕事中は声を掛けないという約束を忘れたように話しかけてくるので、同僚に一言断りを入れて中座して、空いている部屋を借りて婚約者の話を聞くことにする。
「それは……おめでとう。ロバート」
お祝いの言葉を掛けながらも心中は複雑だ。
巡業の旅。
聖女が国内の寺院、聖地を訪ねて、その土地土地を清めていく聖なる儀式で、聖女が代替わりをする時に土地神に挨拶をするための儀式とか言われているが、実際には聖女がイケメンを護衛に連れていき、侍らせて自慢して、目星の男とくっつくための婚活イベントと言われている。
そうではない場合もあるが、巡業の旅は長くて5年から10年。帰ってくるとすぐに聖女は聖女を辞めて結婚する場合があるのでそう思われているのが実情。
もう、巡業辞めた方がいいんじゃないか。税金の無駄だとまで言われるほどの行事なのだ。
「聖女さま………確か、新しい聖女はマルセイン公爵家の……」
ロバートファンクラブの一員だった。しかも過激派とまで言われている。
(あのご令嬢ね)
女官として仕事をしている最中によく声を掛けられた。冴えない女官は独身でいる者が多いと最初に言われたと思ったら、仕事命で婚約者を蔑ろにするのだろうとか。そんな女の婚約者が哀れだとか。
あれって、そんな女が婚約者を縛り付けるのはおかしいから婚約を解消しろという脅しだったのだろう。
「ああ。彼女からのご指名だが………」
青ざめて、震えているロバート。聖女からの指名を断ることが出来ない事実と婚活イベントと言う噂で恐れをなしているのだろうと思い、
「ロバート。これは名誉なのよ。事実が」
「俺よりもクライア隊長とか。ディスタとかの方が強いし、頼りがいがあるのになんで俺なんだっ⁉」
心底戸惑ったような声で、敬愛する隊長と同僚の名前を出す。
「そ、それは……」
脳裏に浮かぶクライア隊長の服がいつはちきれてもおかしくないほどの筋肉量。あれで襲い掛かってきた敵を馬ごと屠ったと有名な逸話がある。そして、ディスタさんの全身にたくさんある傷。だけど、あの傷は多くの味方を守り、多くの敵と対峙し、それでいて誰一人命を落とさずに生還させたという一騎当千の証。
「俺はあの二人に比べればまだまだだ。なのに聖女は見る目はないのかっ!!」
「……………」
いや、戦闘能力や実力ではなく、世間一般の美醜を見る目ならある。
ロバートは美丈夫だ。国で三本の指に入るほどの。そして、彼女自身は過激派と言われるほどのロバートのファンだ。
側に置きたい。それに聖女の巡業は婚活イベントと言われているほどのものだ。あわよくばを狙ってもおかしくない。
(騎士団員としての実力は中の上だからぎりぎり連れて行っても大丈夫なくらいでしょうし)
実力不足なら無理だけど。そこまでではない塩梅だ。
だけど、まさか顔で選ばれましたと真実を告げたら、騎士なら顔で判断されないはずと信じているロバートが哀れだ。
そう信じているのだ。生まれつき顔立ちが良かったので変な女性に付きまとわれて、騎士団なら男がほとんどだと判断して騎士団入りして、幸いにも綺麗な顔立ちなら性別問わないという輩は所属した部隊にはいなかったようで、毎日生き生きしている。
訓練場に女性のファンが詰め掛けるのは結婚相手が見つかりにくい騎士団の婚活と、騎士団の運営資金を集めるための物だと判断しているので我慢していると愚痴られた。
そんなロバートがわたくしと婚約したのは偏にわたくしが女官になって、学生時代にお世話になった王妃さまを支えたいという気持ちが強かったのと。わたくしはロバートを美丈夫だと判断しても顔ではなく、騎士団になるために潰した手の豆。無理をして作った傷ばかり見ていたからだろう。
破傷風になったらどうするのかと呆れたのもきっかけだった。
それで年齢と身分。後、婚姻後も女官をしてもいいという話で婚約に至った。まあ、相性が良かったのが一番の理由だが。
(そんなロバートに顔で判断されました。婚活イベントですと言ったらショックになるわね)
「確かに。二人の方が実力としては申し分ないわね。でも、もしかしたら……(爪の先ほどかもしれないけど)ロバートの将来性を期待しての指名かもしれないわね」
将来性(自分の旦那さん)を期待してのとあえて言わなくていい言葉は濁しておく。
「そうか……」
ロバートはわたくしの言葉で考え込む。
「そっか。そうだなっ!! 流石、ティアナだ。お前に相談してよかった。愛してる!!」
と思いっきり抱き付いて、
「あっ、ごめん。仕事着をぐちゃぐちゃにしたかもっ!!」
と慌てる様につい微笑ましくて笑ってしまう。
「ティアナはホント笑うと可愛いよな。ソバカスがごみみたいとか、メガネザルとか言っている奴の目は腐っているのか」
前半は甘く。後半は思い出すだけで不快だというばかりの舌打ち付き。
メガネザルもソバカスのこともロバートのファンによく言われる悪口なので気にも留めないが、ロバート本人にも言っているのかと初めて知った。
「じゃあ、将来性を期待されているのならがんばらないとな。巡業の準備でしばらくティアナに会えないのが辛いけど」
「ここで辛いって言ってどうするの。巡業は10年掛かる時もあるのよ」
などと慰めてその場を別れるが、
「10年か……婚期が遅れるわね」
その前に別れた方がいいのかとつい弱音が漏れてしまった。
そんなこんなで巡業の出立式。
「な、なんなのよぉぉぉぉぉぉ!!」
聖女の悲鳴は奥の部屋で書類の整理をしていたわたくし達の元にも響いた。
今回は裏方だったので、出立式の様子が全く見れないなと残念に思っていたからこその聖女の悲鳴に何があったのかとすぐに手が空いている者が様子を見に行くようにと上司が命じる。
それがたまたまわたくしだったのですぐさま走っていくと中庭には聖女一行とそれを見送る王族や神殿関係者の姿。
それはいい。なんで聖女はロバートを見て悲鳴をあげているのか。
たかが、筋肉が二倍になって、熊相手に戦って傷だらけになっただけなのに。
「こ、こんなのロバートじゃないわっ!! ロバートをどこにやったのよっ!!」
聖女は喚くがロバート本人は困惑している。聖女の旅に同行するために身体を鍛えて、農村を荒らす熊の話を聞いて熊の退治に明け暮れていたと聞いていたから逞しくなったなと思ったけど。悲鳴を上げるのは失礼だろう。
まあ、美丈夫の面影は残していてもほとんど別人だから仕方ないかもしれないが。
とりあえず。出立はずらせない。そのまま聖女らは巡業の旅に出たのだが、最低でも5年掛かると思われていた旅も聖女が早く終わらせたいとばかりに爆速で移動して2年で終わらせた。
どうやら、聖女の旅はイケメンを口説くためにあえてゆっくりだったのもあったようだ。
それからというもの。聖女の巡業に無理やり連れて行かれる羽目になるイケメンは口説かれるのが嫌なら鍛えて原型を消し去るのがいいと判断されて、綺麗な顔立ちは婚活目当ての同行だと判断されるようになったとか。
まあ、そんな未来の話は知らないけど、わたくしは無事に巡業の旅から帰ってきたロバートと無事に結婚するのだった。
10年掛かったのは口説けなかったので諦めたパターン。ちなみに真面目な聖女もいます。




