善良な小市民です。悪役令嬢のやり方がわかりません!
足……痺れてきた。なんでこんなことになっちゃったのかなぁ?
こんなにきれいなスカートなのに皺になっちゃいそうだし……
「ではもう一度。名前を」
「あ、エマ……です……」
「ちっがうだろーがぁ!」
「ひぃ……」
三角に吊り上がった眼光が怖すぎる……。
私には無理ですよぉ、クラリスさん。
あ、そんなに足上げたら見えちゃいますって。よいしょ。
「貴族がメイドのスカートの裾を直すなぁ!」
「ひぇぇ……」
拝啓、お母さん。私、悪役令嬢になりました。
◇
「いい? 作戦は昨日教えた通りよ。アナタはアリシア。男爵令嬢のアリシア様。復唱!」
「あの、ほんとうにやるんですか? 昨日ですよ? 私がここに来たの」
「復唱!」
「私は男爵令嬢のアリシアですぅ……」
「この計画には一年かけたのよ。今更、戻れないの。もう退路はないの。エレノア様をぶっ潰すのよ」
「そのエレノア様はなにをやったんですか?」
「第三王子と婚約したわ。アリシア様が狙ってたのに」
うぇーん、やりたくないよー。
一応、クラリスさんが怖すぎるから昨晩練習はした。
「いいですか、アリシア様の笑い方は”オーホッホッホ”です。バカっぽく。高らかに」
「おーほっほっほ!」
「品性が滲み出ている! もっとバカっぽく!」
「オーホッホッホぁ! けほ!」
「むせるなぁ!」
立ち方も、歩き方も、笑い方まで怒られる。
怖い。クラリスさん超怖い。もう怒られたくないから頑張るしか……。
「よし、来たわ。エレノア様よ。用意はいいわね?」
「うう……」
えーっと、黄色いドレス着た金髪のイケ好かない女……あ、あの人かな?
わ! すっごい綺麗なひと!
「あら、アリシア様。ご機嫌よう。今日は舞踏会の招待を受けてくださり、ありがとうございます」
「あ、はいっ! ごきげんよう! すっごい綺麗なドレスです……痛っあ!」
つねった! クラリスさん、足つねってきた!
そうでした。ここで私はエレノア様にワインをかける。そうするとエレノア様が着替えに退場する。その隙に第三王子さんを色仕掛け。うん、仕様書に無理しか書いてないなぁ。
「あのクラリスさん。ワイン、かけなきゃダメですか?」
「っすぞ? はじまらんだろうが」
こっわぁ……小声なのにこんなドス効いた声初めてきいた……。
「うう……あの、エレノア様」
「はい、なんでしょうか?」
「あの、ごめんなさい! やっぱむり! こんな高そうなドレス……そうだ! エレノア様、他の色のドレスって持ってないですか? ほら、エレノア様の金色の髪には、黄色もすごくいいですけど、青系も映えるかなぁ、って!」
「まぁ! まぁまぁ! 髪色とドレスの色を合わせて考える……さすがアリシア様、素晴らしい知見です! 早速着替えてまいりますわ!」
とてとてとてとて……。
走り方まで可愛いらしい! そして、これミッションクリアですよね?
「クラリスさん! なんとかなりました!」
「進行が遅れている、キリキリ歩け」
「うわーん、少しも褒めてくれない……」
次は……あ、あの人だ。第三王子さん! こっちも美形だなぁ……。
で。
「あの、色仕掛けってどうしたらいいんですか……?」
「その無駄についてる胸の脂肪を寄せて上げて見せつけてくるんだよ。そのためのドレスだろうが。じゃなきゃお前はただの露出狂破廉恥令嬢だろ」
「こんな服自分じゃ絶対着ないのに……」
ただでさえスースーするし、視線は集めるしで嫌だったのに……その上寄せて上げて? 無理だよぉ……。
「あ、あの……こ、こんにちは!」
「ああ、アリシア様。こんにち……っ! こほん!」
「……? あの?」
「あの……アリシア様。そういったドレスをお召しになっているときは、あまり深くお辞儀はされない方が……その、よろしいかと」
「へ……? ふぁ? あ”--! ご、ごめんなさい」
「いえ、ですが気を付けた方がいいですね。うーん……今日はなんだかいつもと雰囲気が違いますね」
ひぇ! これクラリスさんまた怒らせて……あ、OKだ! これOK出た!
で、次は……この封筒を、渡す、んだっけ? なんだっけこれ。
「クラリスさん、クラリスさん。これでしたっけ、次」
「ニワトリみたいな頭だなぁ、お前はほんとに。そうだよ、それブチまけるんだよ。やれ」
私にだけ聞こえるウィスパーボイスが本当にもう、やだ。怖い。
「あの、これ……」
「おや、アリシア様。そちらは?」
「あ、なんだかよくわからないのですが、お渡ししたいそうで? いやちがうな、お渡ししたいのです!」
「ほう……検めても?」
「はい、どうぞ!」
中から出てきたのは一枚の紙きれ。
それに目を通すと第三王子さんの目が訝しげに細くなった。
「アリシア様。こちらの内容……エレノアの浮気調査書と見受けられますが」
「あ、そうなんですか?」
「……? ええ」
「じゃあ、それ嘘ですね。エレノア様、浮気なんかしそうにないですもん」
「おいコラ、ポンコツっ!」
「え、だって嘘は良くないですよ? おばあちゃんも、エマは嘘をつかないのが一番の美徳だって」
「……ポンコツ?」
「やっべぇ、普通に声に出てた! ちくしょう! 終わった!」
うーん、つまり。私が乗り移る前のアリシア様はここで嘘の浮気証拠を突きつけ、第三王子さんを落とそうとした、と。
「そもそも、計画がザルじゃないですか? これに一年かけたんですか?」
「うるさいな、アリシア様の性悪バカデカ声の自己主張ならなんとかなるんだよ! やれ! 同じ声帯だろうが! もはや死なば諸共なんだよ!」
「売ってないものよこせと言われましても……」
「えーっと……アリシア様? なにかすごいメイドを連れらっしゃいますね……」
「はっ……!」
そういえば。クラリスさんはメイドさんでした。
見渡せば舞踏会中の注目が私たちに。
皆さん目をまんまるに。まぁ。
……ここの世界感的に、不味いのでは?
「クラリスさん、クラリスさん、もしかして今、すっごいヤバいです?」
「……不敬罪でクビ、で済むんなら儲けもんだよ」
それは……いや、自業自得な気もしますね。
うん……クビ? クラリスさんいなくなる!?
やった! これでもう怒られないで済むよ!
やったぁ……!
「アリシア様~! どうですか、このドレス! 確かに貴女が仰る通り、私の髪色と良く合いますの!」
「あ、エレノア様! わーすっごい似合ってます! かわいい……」
「まぁ! まぁまぁ! アリシア様が選んでくださったのよ、見てくださいますか!」
嬉しそうにクルクル回りながら第三王子さんにドレスをお披露目してるエレノア様。
ん~可愛い。こんな子が浮気なんかするはずないじゃんねぇ。
よし、アリシア様のザルな婚約破棄計画も阻止できたし、エレノア様も嬉しそうだし、怖いメイドさんはバイバイだし、一件落着!
「もう……私、アリシア様のことを勘違いしていたのかもしれません。こんなに接しやすい方だったなんて……」
「いやいや、私なんてそんな……」
「それに、遠目で見てましたがそちらのメイドもとても愉快な方で! そうだ! 良かったら今度お茶会どうでしょうか! そのメイドも一緒に!」
「……へ?」
……あれ? なんで?
私そっち行きたくないよ……?
「ぜひ! ぜひぜひ! ね、いいですよね?」
「ああ、エレノアがそうしたいのなら、僕に止める理由はないよ」
……これ……断ったらダメだよね?
良く知らないけど貴族の社交場だもんね?
「……しゃあ! 敗・者・復・活! 第二ラウンドだオラァ!」
もうやだーー!




