第16話 宴会の翌朝、蘭が来た
蘭との婚約を決めた日は、村会議の日でもあった。
つまり、私がまだ状況を完全に飲み込めていないうちに、その話は村全体へ持ち込まれることになった。
早い。
いつも思うが、この国は決まってから動くまでが早すぎる。もう少し確認とか、準備とか、心構えとか、そういうものはないのか。
ないのだろう。
剛力王国では、決まったことはすぐ動く。強い者がやると言ったなら、なおさらだ。
私は父と母、そして蘭と一緒に会議の場へ向かった。
会議に使われる建物は、村の中でも広い。外ではない。昔は広場でやるものだと思っていた時期もあったが、実際は違う。
考えてみれば当然だ。
会議の後に、そのまま飲み食いすることもある。なら外では都合が悪い。
その飯を、まだ鍛錬中の子供たちに見せるわけにもいかない。
魔物の血肉を混ぜた、あのまずい飯を食べている子供たちの前で、大人たちがうまい飯を食う。
それはもう、ほとんど拷問だ。
私は今朝、焼いただけの肉で泣いた。あれをもっと幼い頃に見せられていたら、普段の飯への憎しみはさらに増していただろう。
知らない方が幸せなこともある。
この国の飯に関しては、特にそうだ。
建物の中には、すでに何人か集まっていた。
剛武と蓮華もいる。二人はもう成人している。私とはそれほど歳が離れていないが、この国ではもう完全に大人側だ。
私はまだ成人していない。
ただ、もうすぐその年齢になる。だからこうして、村長交代の話まで現実のものとして進んでいるのだろう。
村会議は普段から開かれている。
とはいえ、毎回大きな議題があるわけではない。村の状況確認、危険地帯の様子、畑や食料の状態、怪我人の有無、外から入った話。そして最後はだいたい世間話のようになる。
手の空いている大人たちが集まり、村の空気を揃える場。
そういうものらしい。
その日も、本来なら大きな問題はなかった。少なくとも、朝までは。
だが、私と蘭の婚約が決まり、話は変わった。
議題は二つ。
蘭との婚約。
そして、村長交代。
分村の話は出なかった。出す必要がなくなったからだ。
私が分村を考えていたのは、村長になるためだった。
蘭に勝てない。だから今の村では村長になれない。なら新しい村を作って、そこの長になる。
そういう道だった。
だが、蘭が私と婚約し、将来は子を産むつもりで村長候補から外れる。そうなると、今の村で一番強いのは私になる。
なら、分村する必要はない。
私はこの村で村長になれる。
話としては、かなり単純だ。
ただ、私の感情は単純ではなかった。
朝に普通の肉を食べて泣き、蘭に抱きつかれ、結婚を申し込まれ、所有宣言され、婚約が成立した。そこから村会議だ。
頭の処理が追いつかない。
だが、会議は待ってくれない。
父がまず口を開いた。
「剛理と蘭が婚約することになった」
ざわめきが起こった。
驚きはあった。だが、それは蘭が私を欲していたことへの驚きではないようだった。
村の大人たちは、私と蘭の関係をそこまで細かく見ていない。蘭は表情に乏しい。私も蘭をライバルとして見ていた。だから、蘭が私に特別な感情を向けていたと気づいていた者は多くない。
母。蓮華。そして、おそらく蘭の叔母。そのくらいだろう。
他の大人たちは、蘭が村で一番強い女で、私が蘭に次ぐ強い男であることを見て判断していた。
「蘭なら、一番強い男を選ぶか」
「剛理なら相手として十分だな」
「まあ、強い者同士だ」
そんな空気だった。
恋路というより、強さの組み合わせとして納得されている。
それはそれでどうなのかと思う。
だが、この国では自然なのだろう。強い者が選ぶ。欲しい者を得るために強くなる。そして蘭は一番強く、私は男の中では一番強い。
剛力王国の価値観では、わかりやすい組み合わせなのかもしれない。
蘭は私の隣に座っていた。
近い。
昨日までより、明らかに近い。肩が触れそうな距離だ。
いや、触れている。
私は少し横目で蘭を見た。蘭はいつもの無表情で前を見ている。だが、離れる気はないらしい。
婚約したからか。
婚約すると距離が詰まるものなのか。
私にはまだわからない。
次に、母が補足した。
蘭が将来、子を産むつもりで村長候補から外れること。
その結果、蘭が候補から外れれば、今の村で一番強いのは私になること。
そして、私自身に村長になる意思があること。
そこまで説明されると、村の大人たちの反応は早かった。
「なら、剛理だな」
「剛力羅にも勝っているしな」
「男たちの中ではもう一番だったろう」
「蘭が外れるなら、順番としてはそうなる」
特に大きな反対はなかった。
私が父に勝っていることは、村中に知られている。村の男たちにほとんど負けないことも知られている。蘭だけが壁だった。その蘭が候補から外れる。なら、私が一番強い。本人も村長になりたいと言っている。
だから、村長交代。
単純だ。
あまりにも単純だ。
だが、この単純さは嫌いではない。
理知帝国なら、ここで派閥、血筋、後援者、形式、根回し、利権、書類、会議、また会議、さらに会議が必要になる。成果を出しても、それがそのまま地位になるとは限らない。むしろ、成果が大きいほど奪われる。
私はそれで死んだ。
だが、この村では違う。
強い。
なら、資格がある。
もちろん、村を運営するための能力は必要だろう。力だけで全部が回るわけではない。
だが、最初の資格は強さで決まる。
単純で、明快で、少なくとも裏から毒を盛られるよりはずっといい。
ただし、懸念も出た。
「剛理は、まだ成人していないだろう」
年配の男が言った。
それはもっともだ。私自身も気にしていた点である。
父が頷く。
「成人するまでは、俺が補佐する」
「剛力羅が?」
「ああ。剛理が成人するまでは、俺が村長補佐として動く。外への顔見せや、細かいところはしばらく一緒にやる」
村長補佐。
父が。
正直、心強い。
父は説明が雑だ。何かあればすぐ力で示そうとする。筋肉でだいたい解決できると思っている。実際、かなり解決できるのがまた腹立たしい。
だが、村を運営してきた実績はある。私に分村の話をしばらく教えなかったことも、結果だけ見れば、私と蘭を高め合わせる判断になっていた。
思っていたより頭がいい。
……単に、筋肉や成長に関することだけ勘が働いただけかもしれないが。
それでも、補佐がいるのはありがたい。
私は前世の知識を持っている。理知帝国の制度も、技術も、侵略のやり方も知っている。だが、剛力王国の村長としての実務は知らない。長会議の作法も知らない。他の村長たちとの関係も知らない。
父に教わることは多い。
「剛力羅が見るなら問題ないな」
「剛理ももうすぐ成人だ」
「なら、顔見せは次の長会議か」
話はまとまった。
村長交代の顔見せは、次の長会議で行う。完全に私一人へ任せるのではなく、成人するまでは父が補佐につく。
これで、先に進める。
ようやく、スタートラインに立った。
村長になれば、発言権を持てる。理知帝国への備えも始められる。
ただし、村長になったからといって何でも意見が通るわけではないだろう。次の長会議までに、父から色々聞いておく必要がある。
長たちはどういう人間なのか。
どう話を通すのか。
どこまで村長の裁量で動けるのか。
理知帝国の話をどの段階でするべきか。
考えることは山ほどある。
だが、会議はそこで終わらなかった。
誰かが、にやりと笑った。
「今日は祝いだな」
周囲が一斉に頷く。
婚約。村長交代。確かに祝い事だ。
そして、祝い事なら宴会になる。
その判断も早かった。
会議の場は、あっという間に宴会の場へ変わった。
もともと広い建物だ。大人たちが動く。料理が運ばれる。酒が開けられる。器が並ぶ。火が入る。座る場所が整えられる。
本当に早い。
この国の人間は、鍛錬と戦いと宴会の準備だけは妙に手際がいい。
出てきた料理を見て、私は息を止めた。
うまそうだった。
というか、匂いがすでにうまい。
魔物の血肉を混ぜた、あの体が拒む匂いではない。鉄臭くない。苦みを予感させない。喉が身構えない。
肉が焼ける匂い。煮込まれた野菜の匂い。香ばしい脂の匂い。酒の匂い。
料理だ。
これは料理だ。
この国にも、ちゃんと料理はあったのか。
私は少し感動した。
いや、かなり感動した。
朝の焼いただけの肉でも泣いたのだ。今、目の前にあるものは、それより明らかに料理として整っている。食べる前からわかる。
これはうまい。
参加しているのは、基本的に大人だけだ。手の空いている大人たち。そして、主役である私と蘭。他の若い子供たちはいない。
当然だ。
こんなものを見せたら、普段のまずい飯に戻れなくなる。
家族の中に鍛錬中の子供がいる場合、その子に合わせて食事をしている家庭も多いらしい。うちもそうだった。私がまずい飯を食っている間、家族もそれに近いものを食っていた。
だから私は、この国にまともな飯がないのだと思っていた。
違った。
あった。
ただ、私に出されていなかっただけだ。
知りたくなかったような、知れてよかったような、複雑な気分だ。
器を受け取る。
肉を口に入れる。
噛む。
涙が出た。
まただ。
今日二回目だ。
私は飯で泣きすぎではないか。
だが、仕方がない。
うまい。
肉がうまい。苦くない。舌が痛くない。喉が拒まない。胃が身構えない。
ただ、肉がうまい。
野菜も食べる。うまい。汁を飲む。うまい。
私は静かに涙を流しながら食べた。
周囲の大人たちが頷いていた。
「わかるぞ」
「鍛えた後のまともな飯はな」
「剛理もようやくこっち側か」
うざい。
少しうざい。
だが、何も言えない。たぶん、私も同じ状況なら同じ顔をする。
魔物の血肉飯を食い続けた後の、まともな料理。これは人をおかしくする。
私は前世の記憶があるから、食事が本来うまいものだと知っていた。だから余計につらかった。生まれてからこの方、食事だけは苦痛続きだった。
もちろん、強くなるためには必要だった。合理性も理解している。
だが、まずいものはまずい。痛いものは痛い。
今日の飯は、その全てを一度許してしまいそうになるほど、うまかった。
危険だ。
うまい飯は危険だ。人を甘やかす。筋肉を鈍らせるかもしれない。
……いや、筋肉の心配をするな。
私はどこまで染まっているんだ。
酒も出た。
私にも普通に差し出された。この国では、成人前だからといって特に厳しく制限するものでもないらしい。そもそも、ここの人間が酒に負けるわけがない、という空気がある。
そういう問題なのか。
私は一口だけ飲んだ。
前世で毒入りの酒を飲んで死んでいるため、酒には少し警戒がある。だが、この場で母や父がいる。毒を盛られる可能性は低い。
口に含む。熱い。喉に落ちる。胃に広がる。
毒ではない。
たぶん。
ただ、今日はあまり飲まないでおこう。うまい飯だけで十分頭が揺れている。
その横で、蘭は私の近くにいた。
いつも以上に近い。
婚約のアピールなのか。それとも、単に近くにいたいのか。蘭の表情からはわからない。
だが、私が少し移動すると蘭も自然に近づいてくる。私が料理を取ると蘭も隣にいる。私が座ると蘭も隣に座る。
完全に距離が変わっている。
婚約したからか。
婚約とは、そういうものなのか。
私はまだよくわからない。
ただ、周囲の大人たちは特に驚いていない。強い者同士が婚約した。なら、近くにいる。そういうものとして受け取っているのかもしれない。
しばらくすると、母を含めた女たちが蘭の方へ近づいてきた。
「あら、蘭。少しこっちへ来なさい」
「剛理の横に張り付いてばかりじゃ、話も聞けないわ」
「いつからだったの?」
「どういうところがいいの?」
蘭が固まった。
私はそれを見逃さなかった。
戦いの時には見せない硬直だ。魔物相手にも平然としている蘭が、大人の女たちに囲まれて動きを止めている。
理由はわかる。
この手の話題に慣れていないのだ。
蘭は表情が乏しい。感情を言葉にするのも苦手だ。そんな蘭が、他人の恋路を楽しむ女たちの質問攻めに耐えられるのか。
かなり怪しい。
母が蘭の背に手を添えた。
「大丈夫よ。少し話すだけ」
「……」
蘭は私を見た。
助けて。
そう言っているように見えた。
口には出していない。蘭は何も言っていない。ただ、こちらを見ている。
私は少し考えた。
助けるべきか。
だが、母がいる。無茶なことにはならないだろう。それに、女たちは蘭に興味があるだけだ。今まで蘭の気持ちに気づいていなかった者たちが、ここでようやく蘭を知ろうとしている。
今後、深い関わりができるかどうかはわからない。たぶん、ただ他人の婚約話を楽しんでいるだけだ。だが、悪意はない。
なら、私が止めるのもおかしい。
何より、蘭は口に出して助けを求めていない。
私は頷いた。
「いってらっしゃい」
蘭の目が少し細くなった。責められているのかもしれない。
だが、母がいる。大丈夫だ。たぶん。
蘭は女たちに連れていかれた。途中で何度かこちらを見たが、やはり何も言わなかった。
私はそれを見送り、料理を食べた。
うまい。
すまない、蘭。今の私は、うまい飯に弱い。
宴会は進んだ。大人たちは食べて、飲んで、笑った。
父も普通に飲んでいた。朝の一件で、母にぶっ飛ばされたであろう父だが、もう妙に黙っているわけではなかった。自分が悪かったと理解したらしい。分村の件を、母に事前相談せず自分だけで済ませようとした。それが問題だったのだろう。
理解したなら、後は普通だ。
父は飲み、笑い、村の男たちと腕相撲を始めた。祝いの余興らしい。
腕相撲。
実に剛力王国らしい。
ただ、この国では単なる遊びでは済まない。机がきしむ。床が鳴る。腕と腕がぶつかる音が、木材を叩く音に近い。大人たちが笑いながら力を比べている。
父は楽しそうだった。
そして強かった。
村長を退く話が進んだとはいえ、弱くなったわけではない。父はまだ十分に化け物だ。
私はそれを見ながら、酒をほんの少し舐め、料理を食べた。
剛武が私の横に座った。
「剛理、村長か」
「まだ補佐つきだ」
「それでもすごいよ」
剛武は素直に言った。
この兄は、本当にこういうところがまっすぐだ。前世の兄なら、まず別の言葉を選んだだろう。褒めているようで下げる。心配しているようで足を引く。そういう言い方をしたはずだ。
剛武は違う。
ただ、すごいと言う。
「蘭とも婚約だしな」
「そっちは、まだ実感がない」
「まあ、急だったしな」
剛武は少し笑った。
「でも、蘭は強いからな。剛理には合ってるんじゃないか」
「合っている?」
「剛理、強い相手がいる方が伸びるだろ」
結婚相手に対する評価として、それでいいのか。
ただ、否定はできなかった。
私は蘭がいたから強くなった。追いつこうとして、届かなくて、それでも追った。蘭がいなければ、今の私はいない。
そういう意味では、確かに合っているのかもしれない。
しばらくして、蓮華もやってきた。にこにこしている。
「よかったわね、剛理」
「姉様は気づいていたのか」
「少しね」
「なぜ教えなかった」
「教えても剛理、わからなかったでしょう?」
否定できない。
私は黙った。
蓮華は楽しそうに笑った。
「蘭、ずっと剛理のこと見てたもの」
「強い相手としてだと思っていた」
「剛理はそうでしょうね」
何だ、その言い方は。
少し腹が立つ。だが、反論できる材料がない。私は蘭の気持ちに気づかなかった。蘭もわかりやすく示していたわけではない。結果として、昨日の朝に真正面から爆発した。
そういうことだ。
宴会の途中で蘭が戻ってきた。
少し顔が赤い。酒は飲んでいないはずだ。女たちに何を聞かれたのかはわからない。
聞こうかと思った。
だが、蘭は戻ってくるなり当然のように私の隣に座った。そして黙って料理を食べ始めた。
聞くな、という空気がある。
私は聞かなかった。
その代わり、器に残っていた肉を一つ蘭の方へ寄せた。
蘭はそれを見た。
「いいの?」
「食べるなら」
「食べる」
蘭は肉を食べた。
表情は変わらない。だが、少しだけ空気が柔らかくなった気がした。
気のせいかもしれない。
宴会は夜まで続いた。食べて、飲んで、笑って、腕相撲をして、また食べる。
私も食べた。かなり食べた。
普段なら、食事は苦行だ。飲み込むだけで精一杯だ。だが、今日は違う。
うまい。
だから食べる。食べすぎる。腹が重い。
だが、後悔はない。うまい飯を食える機会を逃すほど、私は愚かではない。
宴会が終わり、家へ帰った時には、体も頭も少しふらついていた。酒は少ししか飲んでいない。原因は、出来事の多さと食べすぎだろう。
今日は本当に色々あった。
分村の道ができたと思った。朝飯のうまさに衝撃を受け、何もかも忘れかけた。そこへ蘭が来た。分村の道が絶たれると思った。だが、蘭が結婚したいと言った。そのまま婚約した。村会議で婚約が認められ、村長交代の話まで進んだ。
一日で起きる出来事としては、多すぎる。
私は床に入った。
目を閉じても、頭の中で出来事が回っている。
村長。
婚約。
長会議。
蘭。
宴会の飯。
特に宴会の飯。
いや、そこに引っ張られるな。もっと大事なことがある。
明日からどうする。
村長の仕事を本格的に父から教わるべきか。次の長会議について、先に情報を集めておくべきか。村の帳面や食料の管理も見ておいた方がいい。理知帝国への備えも、どこから始めるか考えなければならない。
蘭との婚約についても、どうすればいいのかよくわからない。
婚約した相手とは、何をするものなのか。
戦うのか。
飯に誘うのか。
話すのか。
距離を近くするのか。
今日の蘭は、明らかに距離が近かった。あれが標準になるのか。
わからない。
……いや、今日はもういいか。
眠い。
明日のことは明日考えよう。今日ぐらい、何も考えなくていいだろう。
私はそう決めて、目を閉じた。
翌朝。
私はいつも通りに起きた。体は少し重い。宴会で食べすぎたせいだろう。だが、魔物の血肉飯を食べた翌朝のような嫌な重さではない。
普通に食べすぎた重さだ。
幸せな重さと言っていい。
私は起き上がり、顔を洗い、朝食の場へ向かった。
その途中で、玄関の方に気配を感じた。
誰か来ている。
朝早い。
嫌な予感がした。
昨日から、朝に何かが起きすぎている。
私は玄関へ向かった。
そこに、蘭が立っていた。
小さな荷物を持っている。いつもの無表情。だが、どこか決意したような空気がある。
その隣に、母がいた。
雷華は、当然のような顔で言った。
「今日から蘭はうちで暮らします」
私は固まった。
今、何と言った。
今日から。
蘭が。
うちで。
暮らす。
情報がつながらない。
昨日、婚約した。それはわかる。だが、婚約した翌朝に同居が始まるものなのか。剛力王国では、そうなのか。いや、普通なのか。普通とは何なのか。
私が混乱していると、母はにこりと笑った。
「剛理?」
「はい」
「仲を深めるのよ?」
仲を深める。
簡単に言われた。
私は蘭を見た。
蘭もこちらを見ていた。荷物を持ったまま、じっと。逃げる気配はない。むしろ、もう決定事項だと言わんばかりに立っている。
私は思った。
仲を深めるとは、具体的にどうすればいいんだ。




