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第十七話「足音、ふたつ」③

 廊下の突き当たりを左に折れたとき、気配が変わった。


 多い。一気に増えた。前方に複数の足音——走っている。方向が入り乱れている。扉が開く音が続いた。男たちの怒鳴り声がした。


「——扉が開いてるぞ!」


 捕虜が動いた。砦の中が目を覚ましている。


 観桜が広がった。廊下の先に四人。別の方向から二人が回り込もうとしている。さらに奥——蒼依の気配があった。動いていない。じっと、止まったままだ。


 走った。


 正面の四人が松明を手に向かってくる。廊下の幅が狭い。全員同時にはかかってこられない。先頭の男が剣を抜きながら踏み込んでくる、その軌道が完成するより先に、夜久の体が動いていた。


 踏み込みと同時に、影桜を鞘ごと引き抜いた——抜刀はしない。鞘のまま左から水平に薙ぐ。先頭の男が弾かれて壁に激突した。そのまま鞘を縦に返して、二人目の顎を打ち上げる。顎が揺れる前に右へ踏み替えて、三人目の胸を鞘の先で突いた。男が呻いてよろめく。四人目が横から剣を振ってくる——夜久は低く沈んで刃をやり過ごし、立ち上がりながら影桜の柄頭を男の鼻に叩き込んだ。


 四人が、ほぼ同時に止まった。


 夜久は走り続けた。背後から二人の足音が追いかけてくる。追いつかせない速度で、廊下の先へ向かった。角を曲がった。


 追手の足音が迫った。


 夜久は走りながら、壁に貼りついた。追手の一人が角を曲がって飛び出してくる——その勢いのまま、肩口を壁に押しつけた。男の体が壁と夜久の間に挟まれた瞬間、膝を脇腹に入れた。空気が抜ける音がして、男が崩れる。二人目が続いて曲がってきた。夜久はすでに動いていた。男の腕を取り、廊下の先に向けて流す——男が前に泳いで、石畳に転がった。


 走った。


 蒼依の気配が近い。


 あと一曲がり。


 その角を回ったとき——廊下の中心に、蒼依が立っていた。


 前に三人、後ろに二人、横から一人が顔を出している。六人が、じわりと輪を縮めていた。蒼依は両拳を構えたまま、一歩も退かずに立っていた。


 夜久の足が廊下に音を立てた。


 蒼依が振り返った。

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