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第十七話「足音、ふたつ」②

 建物に入ると、廊下が伸びていた。


 松明が一定の間隔で壁に刺さっていて、明るく、隠れる場所が少ない。廊下の突き当たりに男が一人、背を向けて壁にもたれかかっていた。腰に剣を帯びて、頭を壁に預けている。寝てはいない。ただ、意識が緩んでいるようだった。


 観桜が男の状態を読む。重心が右に偏り、右肩がわずかに下がっていた。利き腕は右——振り返るとしたら、右回りになる。


 夜久は廊下に足を踏み入れた。


 夜桜の余韻のまま——足音を消して、呼吸を消して。松明の光の中を、影のように進む。男まであと三歩。二歩。男の耳が、空気の変化をわずかに感じ取った。肩が動こうとした。


 一歩。


 夜久の右手が、男の首の後ろに刃の腹を当てた。添えるように、しかし確実に。男の体が固まった。


「声を出すな」


 囁くような声で言った。男の呼吸が止まった。


「捕虜がいる部屋はどっちだ」


 男はわずかな間のあと、顎を右の方向へ動かした。夜久は手刀の角度を変えて、男の首の後ろを打った。鈍い音がして、男がその場に崩れ落ちた。死んでいない。しばらくは起きない。


 夜久は男を壁際に引き倒し、廊下の奥へ進んだ。


 曲がり角の手前で足を止めた。角の向こうに気配がある——二人。話し声が聞こえた。近い。十歩以内だ。


 夜久は角から半身だけ出した。意図的に音を立てた。靴底を石畳に打ち付ける、小さな音。それだけで十分だった。気配が動いた。一人が角の方へ向かってくる。もう一人がその場で待つ。


 夜久は半歩だけ下がった。来る。来る。角を回ったところで——


 男の視界に、廊下の奥への気配が映るよう、わずかに体を傾けた。見えているものを、真実だと思わせる。男の目がそちらへ向いた。その一瞬、男は夜久を見ていない。


 夜久は男の正面に出た。男が気づいた瞬間、影桜の柄頭が男の顎を下から打ち上げていた。首が揺れた。膝が折れた。声が出る前に、男が崩れた。


 もう一人が走ってくる気配があった。


 夜久は倒れた男を廊下の端に押しやりながら、角の陰に戻った。足音が近づいた。曲がり角を回ってきた男が、廊下に誰もいないのを見て立ち止まった。首を捻った。その背後に、夜久は音もなく立っていた。


 手刀が、男の首の後ろを打った。


 二人目が崩れた。


 廊下が静かになった。奥の気配を改めて確かめる。右の翼の奥——まだ笑い声がしていた。細い声は、続いていた。


 足を速めた。

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