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第十六話「星ひとつ」⑤

 村人たちが曲がり角の先に消えた瞬間、廊下の奥で声が上がった。


「——扉が開いてるぞ!」


 石の壁に声が反響した。腹の底に響く、怒鳴り声だった。


 男たちが動いた。廊下を叩く足音が多方向から押し寄せてくる。松明の光が増えた。一つ、二つ、三つ——光が増えるたびに、廊下の逃げ場が狭くなっていく。


 蒼依は裏手の方向へ走った。村人たちの最後尾が角を曲がるのを見送りながら、反対方向へ引きつけるように走る。男たちの注意がこちらに向いている——誰も村人たちを追っていない。あと少し距離を稼げれば——


 角を曲がったところで、正面から光が来た。二人が武器を手にして走ってくる。


 引き返した。別の通路へ——そこにも足音があった。石の壁が、選択肢を一つずつ塞いでいく。横の扉は閂がかかっている。もう一つも同じだった。突き当たりには窓がない。


 気づくと、廊下の中心に立っていた。


 前に三人。後ろに二人。横の通路の角から、さらに一人が顔を出した。六人。廊下の幅が狭いから同時にはかかってこられないが、それだけだった。


「面白い女だな」


と先頭の男が言った。笑いの混じった声だった。急がない。当然だ——どこへも逃げられないのだから。


「扉を全部開けたのか、お前一人で」


 蒼依は答えなかった。


 男たちが向かった方向を確認した——村人たちの逃げた方向に、誰も走っていない。廊下の騒ぎで注意がこちらに集まっている。自分が時間を稼ぐ分だけ、あの人たちが遠くへ行ける。


 蒼依は構えた。拳を握る。


 男たちの輪が、じわりと縮まった。前の男が半歩踏み込んでくる。後ろの男も間合いを詰めてくる。一人なら、あるいは。二人でも、もしかしたら。三人から先は——頭の中で計算が、静かに崩れていった。


 唇を噛んだ。まだ隙を探していた。どこか一点、崩れるところがないか。どこかに一瞬だけ開く場所が——


 なかった。


 壁を背に、六人の男を前にして、蒼依は一歩も退かずに立っていた。声にも出来ないまま、夜久の名前を思った。


 来い。


 早く来い——。


 石の砦が、息を詰めて沈黙した。

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