第十六話「星ひとつ」②
連れ込まれたのは、石積みの部屋だった。
窓がない。壁の高いところに松明を差し込む溝が一本切られているだけで、今は何も刺さっていない。室内は暗い湖の底のように沈んでいた。足を踏み入れた瞬間、石と土と汗が混じったような匂いが鼻を打った。長い時間、人が閉じ込められていた場所の匂いだ。
目が慣れてくると、壁際に人の輪郭が見えた。
五、六人いた。
顔を見た瞬間に、胸の中で何かが締まった。マルタさんがいた。他にも見覚えのある顔が二つ三つ——村の住人たちだ。廊下の向こうからも、くぐもった声がする。壁を隔てた先に別の部屋があり、そちらにも人がいるらしかった。分けて入れられているようで、怪我を負っている者が数人いたが、倒れている者はいない。
「蒼依ちゃん」
マルタさんが小声で言った。丸顔に疲労の色を刻みながら、蒼依の手首に視線を落とした。縄の跡が赤く残っているのを見て、眉を寄せる。
「大丈夫です」
と蒼依は言った。扉が閉まる音を確かめてから小声で返した。
「みなさんは? 怪我は」
「ここにいる人たちは大丈夫よ、今のところは。廊下の向こうにも何部屋か分けられてるみたい。全員かどうかまでは分からないけれど」
とマルタさんは言った。低い声で、しかし確かな声で。
扉の外から閂が落ちる音がして、足音が遠ざかっていく。
マルタさんに縄を解いてもらった。血が戻ってきて、指先が熱を持ったように痛んだ。手首を回しながら部屋の構造を頭に描く。石の壁は厚い。窓はない。扉は木製で外から閂がかかっている。
逃げ道は扉だけだ。
事実を地図として頭に焼きつけていると、部屋の奥から小さな気配がした。
リナが壁際から立ち上がっていた。亜麻色の短い髪が乱れ、麻の服に汚れがついている。大きな目に、涙の乾いた筋があった。今は泣いていなかった。
「リナちゃん」
と蒼依は言った。そばに寄って、両腕でその肩を抱いた。小さかった。骨が細い。
リナは蒼依の袖に指を引っかけながら、蒼依の顔をまっすぐ見た。
「蒼依さん」
と小声で言った。
「お母さんは、この部屋にはいないんだけど……別の部屋かな」
「そうだと思う。村の人たちを分けて入れてるみたいだから」
と蒼依は言った。
「そっか」
とリナは言った。一拍おいてから続けた。
「夜久さんは?」
「来る」
と蒼依は言った。迷わなかった。
「絶対に来る」
リナは大きな目で蒼依を見た。それから、こくりと頷いた。
信じるかどうか迷う顔ではなかった——一度助けてもらったことがある、という記憶が、その頷き方の骨になっていた。袖に引っかけた指に少しだけ力を込めるリナの手を、蒼依はその指が離れないよう、わずかに腕を寄せて受け止めた。
今夜中に何かが動く——その確信が、蒼依の体の芯に静かに降りてきた。




