8/46
第二話「剣と魔法と知らないおじさん」②
三人はひとまず、その場に座った。
倒木があった。蒼依がそこに腰を下ろして、鞄を膝に乗せた。夜久は影桜を鞘ごと地面に立てて、ゼータの顔を見た。ゼータは立ったまま、木の幹を眺めていた。
「来たことはあるか」
と夜久は聞いた。
「……ある、ような」
「ような」
「ない、ような」
とゼータは続けた。
「どちらとも言えない」
蒼依が口を挟んだ。
「記憶があいまいってこと?」
「記憶というより」
ゼータは少し考えた。
「知っている気がする、というだけ。」
「勘ってこと」
「……そうかもしれない」
蒼依が夜久を見た。夜久は軽く頷いた。これ以上聞いても出てこない、という意味の頷きだった。
「とりあえず」
と蒼依が言った。
「整理しよう。私たち今、別の世界の森の中にいる。帰り方は」
夜久がゼータを見た。
「分からない」
とゼータが言った。
「帰れるのか」
「……たぶん」
「たぶん」
「うん」
沈黙があった。木々の間で、また鳥が鳴いた。遠い声だった。
「まあ」
と蒼依が言った。妙に明るい声で。
「死んでないし、怪我もないし、とりあえず最悪じゃないか」
夜久はそれには答えなかった。答える代わりに立ち上がって、影桜を持ち直した。
「動こう。ここに留まっていても何も分からない」




