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第十五話「夜道」⑤

 道は、思ったより長かった。


 細道が森の奥へ伸びていた。木々が密になり、月明かりがほとんど届かなくなった。足元だけを確かめながら歩いた。枝を踏まないよう、落ち葉の上ではなく土の上を選んだ。影桜の柄から手を離さなかった。暗さが増すにつれて、他の感覚が研ぎ澄まされていく感覚があった。目が使えない分、耳が、皮膚が、鼻が、それぞれに外の情報を拾おうとしていた。息を浅く整えながら歩いた。自分の存在をできる限り薄くするように。


 三十分ほど歩いたころ、前方に光が見えた。


 松明の光だった。一つではなかった。複数の揺れる光が、木々の間からちらついていた。夜久は足を止めた。木の幹に背を沿わせ、光の方向に意識を集中させた。


 声が聞こえた。


 男の声だった。複数。離れた場所で話している。何を言っているかまでは聞き取れなかったが、緊張した声ではなかった。長い夜に飽きている声だった。見張りの、ぼんやりとした響きだった。


 建物の輪郭が、暗がりの中に浮かび上がってきた。


 石積みの壁だった。高さがある。かなりの年代物に見えたが、崩れてはいなかった。

 正面に門らしき構造物があり、その左右に人影が立っていた。松明を持った見張りが二人。壁の上にも、もう一人いる。壁の内側から、光が漏れていた。建物がある。中に人がいる。


 夜久は木の陰から砦の全体を眺めた。


 蒼依がいるとしたら、あの壁の中だ。村人たちも、あの中にいるかもしれない。ローブの男がどこにいるかは、分からない。中かもしれないし、別の場所かもしれない。今夜確認できたのはここまでだ。夜明けまでに戻ると言った。ジャンヌたちと合流して、混成隊と包囲する。それが正しい手順だと、頭は分かっていた。


 だが、足が前を向いていた。


 夜久は砦を見たまま、影桜の柄を握った。


 確かめるだけだ、と自分に言い聞かせることもできた。でも、それは嘘だった。最初からそのつもりではなかった。正しい手順ではないと頭が言っていた。戦術として間違っていることも分かっていた。それでも、今夜ここへ来たのは、確かめるためだけではなかった。


 蒼依を一人残して夜明けを待つことが、できなかった。


 女の子一人守り切れない剣に、何の意味があるのか。 

 砦への踏み込みがこの村を燃やした。蒼依を攫われた。それは自分が引き金だった。ならば、その結末まで自分が引き受けるのが筋だ。それが責任だと、夜久は思っていた。誰かに言われたわけではない。ただ、そういうことだと思っていた。


 夜久は木から離れた。


 暗がりの中を、砦の外壁に沿って動き始めた。足音を消して、影の中を。見張りの視野の外を辿りながら、壁の死角を探しながら。観桜で、夜の砦の中の気配を少しずつ拾い始めた。


 壁の向こうに、人の声があった。

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