第十五話「夜道」④
分岐は、森の中に静かにあった。
街道本筋から外れる細道が、木々の間に口を開けていた。見落としそうなほど細かったが、地面は踏み固められていた。人が定期的に使っている道だ。轍の跡もこちらに続いていた。夜久は分岐の手前で足を止め、二方向を交互に眺めた。
目を閉じた。耳と皮膚と、体の奥の何かで、二方向の空気を比べた。
廃村の方向は、静かすぎた。人の気配が完全にない。静かというより、空白に近かった。廃村というのは本当に廃村で、今は誰もいないのかもしれない。あるいは、気配を完全に消せる何かがいるのかもしれない。どちらとも断言できなかったが、ここではないという直感が働いた。
旧砦の方向は、もう少し距離があった。でも、何かがあった。
かすかだった。人の気配というより、人の熱の痕跡のようなものだった。多くの人間が、長い時間をかけてそこに居続けたことで、空気に染み込んだもの。煙の匂いではない。体の熱が染み込んだ、独特の重さだった。家畜の臭いとも違う。人間の、密集した呼吸の残滓だった。砦の石の壁に、何十人もの体温が馴染んだ感触。今日今夜だけの気配ではなく、長い期間をかけて積み重なったものだった。
旧砦だ、と夜久は思った。
目を開けた。廃村は念のため後で確認するとして、まず砦へ向かう。判断に迷いはなかった。蒼依はおそらくそこにいる。村人たちも。あの馬車は人を運ぶためのものだった。それだけの人数を一晩留め置くなら、廃村よりも壁のある砦の方が都合がいい。ジャンヌの読みと、夜久の読みが、同じところを指していた。
細道を進み始めた。




