表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/83

第十五話「夜道」②

 ディルクの傍へ行ったのは、村の音が少し落ち着いたころだった。


 ディルクは桶を持ち上げながら、夜久が近づいてくるのを横目で見た。何も言わなかった。手を止めなかった。次の桶を受け取り、崩れた壁の残り火へ向かう仲間に渡した。

 この男は戦わない。剣も魔法も持たない。それでも今夜、誰よりも早く動いていた。荷運びの仕事で鍛えた体が、黙々と動き続けていた。汗が額に光っていた。


「少し出ます」


と夜久は言った。


 ディルクは動きを止めなかった。


「捜索開始時刻までには戻ります」


 ディルクが桶を置いた。それからようやく夜久の方を向いた。


 夜久の目を見た。何かを測るような間があった。測るというより、確かめている間だった。この十五年、街道で人を見続けてきた人間の目だった。旅人も、商人も、賊も、逃げる者も、追う者も。そういう人間を何百人も横目に見ながら荷を運んできた目が、今夜も静かに夜久を見ていた。


「無茶はするなよ」


とディルクは言った。それだけ。それ以上は、何もなかった。


 夜久は一秒、ディルクの顔を見た。


「ありがとうございます」


 深く頭を下げた。ディルクはすでに次の桶を手にしていた。お互い、それ以上を言葉にしなかった。言葉にしなくても、十分に届いていた。


 夜久が踵を返そうとしたとき、ゼータがそこにいた。気づいていなかった。いつの間にか、夜久のすぐ傍に立っていた。


 灰色の目が、夜久を見上げていた。


「気をつけて」


とゼータは言った。


 夜久は少し間を置いた。


「ああ」


 ゼータはそれ以上何も言わなかった。視線を桶の方へ戻した。夜久は門の方へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ