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第十四話「夜の始まり」④

 混成隊の隊長格らしき衛兵が、夜久のそばに来た。


「この惨状を作ったのはあなたか」


と衛兵は言った。疑いの混じった目だった。


「俺です」


と夜久は言った。言葉が、そこで止まった。


 衛兵は夜久を見て、広場に倒れた男たちを見て、また夜久を見た。何か言おうとして、言葉が出てこない顔をした。一人で、十人近くを。それが信じられないのだろう。


「村人はどこにいるんだ」


「賊に連れ去られたと考えています。馬車で、街道をオルディナとは逆の方向へ」


「馬車の台数は」


「少なくとも一台は確認しました。他は……把握できていません」


 衛兵が渋い顔をした。ディルクが割り込んだ。


「俺から話す。お前さんたちには動いてもらわないといけないことがある」


 衛兵はディルクの顔を見て、何かを察したように頷いた。ディルクとは面識があるのか、無条件に信用しているわけではないだろうが、話を聞く気にはなったようだった。


 ディルクが衛兵を少し離れた場所へ連れて行った。


 夜久、ジャンヌ、ゼータの三人が残った。


「捜索の方向性を整理しましょう」


とジャンヌは言った。声が、落ち着いていた。先ほどまで命のやり取りをしていた相手と話しているとは思えない落ち着きだった。ただ、その目の底には、さっきから消えないものがあった。リナへの心配だろうと、夜久は思った。


「馬車が向かった方向に、心当たりがありますか」


と夜久は聞いた。


「一つあります」


とジャンヌは言った。


「オルディナと逆の街道を進むと、森の中に分岐があります。そこを奥へ行くと廃村があって、さらに先に山の麓に旧い砦の跡がある。人を隠すなら、そのどちらかだと思います」


「廃村と、旧い砦」


「廃村の方が近い。ただ、大勢を長期間隠しておくなら、砦の方が都合がいい。建物が残っているので」


 夜久はその情報を頭に入れた。地図を持っていない。でも、方向と目標が絞れた。


「夜のうちに動けますか」


と夜久は聞いた。


「動けます」


とジャンヌは即答した。


「でも、混成隊と連携した方が確実です。一人で突っ込むより、包囲した上で交渉か制圧の方が、人質がいる場合は安全です」


「……そうですね」


 夜久はジャンヌの顔を見た。先ほどまでの剣士の顔ではなかった。考えている顔だった。戦場で積み重ねてきた経験が、今は別の形で動いていた。


「ローブの男が離脱した方向も、同じ可能性があります」


とジャンヌは続けた。


「あの魔法の規模を出せる人間が一人でも向こうにいるなら、正面から少数で突っ込むのは危険です」


 夜久はジャンヌの言葉を聞いた。正しい、と思った。戦術として、正しかった。でも頭の中で、別の声が動いていた。


 蒼依がいる。今夜。今この瞬間も。連れ去られた女の子が最初の夜を何もなく越えられる保証は、どこにもない。


「……分かりました」


と夜久は言った。声は平静だった。ただ、影桜の柄に触れていた指が、一度だけ力を込めた。


 ゼータが二人の話を黙って聞いていた。夜久がゼータを見ると、ゼータは小さく頷いた。


「ん」


とゼータは言った。


 夜久には分かった。

 見ている、という意味だった。

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