第十四話「夜の始まり」③
ゼータが夜久の隣に来て、静かに立っていた。ジャンヌはゼータを見た。
白いワンピース、青白い長い髪、素足。この村でも、戦場でも、見たことのない格好だった。年齢も、どこから来たのかも分からない。ただ、その灰色の目が落ち着いていた。
何かをよく知っているような、あるいは何も驚かないような、そういう目をしていた。
「連れ去られた方は、馬車で運ばれたんですか」
とジャンヌは夜久に向けて聞いた。
「仲間の一人が馬車に乗せられました。村人たちも同じ方法だと思います」
「馬車の向かった方向は」
「門から出て、街道を……オルディナとは逆の方向でした」
ジャンヌは少し考えた。街道の先、オルディナと反対側。地形を頭の中で引いた。森が続いて、その先に古い街道が分岐する。廃村になった集落が一つある。さらに奥へ行けば、山の麓に旧い砦の跡がある。
「賊について、他に分かっていることはありますか」
とジャンヌは聞いた。
夜久がディルクを見た。ディルクが頷いた。
「一つ聞いてほしいことがある」
と夜久は言った。
「その賊の中に、ローブを着た男がいました。武器を持っていなかった。革鎧の連中とは明らかに違う、整った身なりをしていた。魔法を使いました」
「魔法を」
ジャンヌの眉が、わずかに寄った。
「どんな魔法でしたか」
「炎の球を、空中に複数出しました。七つ。それを同時に動かした」
ジャンヌはその言葉を聞いて、顎を引いた。魔法使いが賊と組んでいる。それだけで、この集団の背後に相応の組織があることは分かった。ただの山賊の話ではない。
「そのローブの男は、まだこの辺りにいると思いますか」
とジャンヌは言った。
「分かりません」
と夜久は言った。
「蒼依——連れ去られた仲間を馬車に押し込んだ後、先に立ち去りました。同じ方向かどうかも」
「蒼依さん、というんですね」
「ああ……はい」
ジャンヌは改めて広場を見た。倒れた賊たちは、混成隊の者たちが処置し始めていた。火消しの動きも始まっている。完全に鎮火するまでには時間がかかるだろうが、燃え広がることは防げそうだった。




