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第二話「剣と魔法と知らないおじさん」

 最初に感じたのは、土の匂いだった。


 次に、光。

 道場の蛍光灯とは違う、黄みがかった柔らかい光が、葉の隙間から斜めに差し込んでいた。木々は太く、高く、幹に苔が張っていた。足元は踏み固められていない土で、靴底に柔らかく沈む。風が吹くたびに、どこか遠くで鳥が鳴いた。聞いたことのない声で。


 夜久は立っていた。影桜を右手に持ったまま、しばらく動かなかった。


 視界に入るものが、全部、さっきまでと違う。

 道場がない。住宅街がない。アスファルトがない。空の色まで、わずかに違う気がした。青が深い。雲の形が違う。空気の重さが違う。


「……本当に」


と夜久は言った。


「ん」


とゼータが言った。


 隣に蒼依がいた。蒼依はその場でゆっくり一回転して、木々を見上げて、もう一度夜久を見た。


「本当に別の世界だこれ」

「ん」


とゼータがまた言った。


 ゼータは三人の中で一番落ち着いていた。落ち着いているというより、動揺するという選択肢がない、という感じだった。

 素足で土を踏んで、周囲をひととおり見回して、それだけだった。


「ゼータ」


と夜久が言った。


「ここがどこか分かるか」

「森」

「それは分かる」

「……森、の中」

「もっと細かく」


 ゼータは少し間を置いた。


「分からない」

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