表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/78

第十三話「侍と聖騎士」⑤

 夜久は、手の震えに気づいた。


 影桜を握ったまま、その手が震えていた。意識が戻ってきた感覚は、深い水の底から浮かび上がるような感覚に似ていた。体が、自分のものに戻ってきた。腕も、足も、体の芯も重かった。さっきまで自分が何をしていたか、霧がかった記憶のように映像だけが残っていた。


 影桜の刀身に視線を落とした。


 峰を返した。間に合った。ギリギリで、間に合った。


 地面に膝をついた少女を見た。金色の髪が乱れ、白銀の鎧が炎の明かりの中で揺れていた。意識はある。手をついて、顔を上げようとしていた。


 夜久は影桜を鞘に収めた。


 手が、まだ震えていた。


 倒れた男たちが広場に散らばっていた。血だまりが石畳に広がっていた。

 斬った。斬って、斬って、斬り続けた。人を斬った。殺した。

 賊とはいえ、自分の手で、命を奪った。その事実が、今になって胃の底に重く落ちてきた。重力のように、ゆっくりと。


 蒼依はいない。


 守れなかった。蒼依を追う一手を踏み出せないまま、引き金を引いたのは自分で、リーフェル村を燃やしたのも自分の行動が招いたことで、それでも最後に、蒼依を守ることができなかった。


 少女が顔を上げた。


 コバルトブルーの瞳が、夜久を見た。恐怖と、衝撃と、それ以上の何かが混ざった目だった。

 先ほどまで命のやり取りをしていた相手が、今は剣を収めてただ立っていた。なぜ斬らなかったのか。この男に何が起きたのか。その答えを求めるような目で、夜久を見ていた。


 夜久も、少女を見た。


 何者か、分からなかった。白銀の鎧。黒い外套。腰の剣。この村に何の関係があるのか、なぜ自分を斬りに来たのか、何も分からなかった。


 二人は動けなかった。


 炎が揺れ、煙が流れ、星がひとつ、空に出た。夕暮れが完全に終わり、夜が始まろうとしていた。その境目で、夜久と少女は向かい合ったまま、それぞれの重さを胸に抱えて、静かに止まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ