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第十三話「侍と聖騎士」④

 一瞬だった。


 ジャンヌが踏み込んだ、その刹那。男の剣が動いた。どこから来たのか分からなかった。気づいたときには、刃が首筋の間合いにあった。


 冷たい、と思った。


 炎の中にいるのに、刃の気配だけが冷たかった。このまま振り切られれば、自分の首がどうなるかを、戦場の経験が瞬時に告げていた。


 終わり、と思った。


 その次の瞬間——男の動きが、止まった。


 止まった、というより——何かが、引き戻した。


 剣が、空中で止まっていた。

 首筋まで届く軌道の途中で、男の腕が静止していた。ほんの刹那の後、手首が返り、刃の向きが変わった。裏返った峰が、首筋を打った。


 衝撃が走った。


 ジャンヌの膝が崩れ、石畳に手をついた。頭の中が白くなった。痛みより先に、何かが揺れた。


 遠くなった。


 音が遠くなった。炎の音も、自分の息の音も、全部が綿の向こうへ押しやられたように遠くなった。それまでいつも傍にあった声もまた、この瞬間だけ潮が引くように遠ざかった。揺るぎなかった何かが、峰打ちの衝撃とともにほんのわずかに揺れた。何が揺れたのか、ジャンヌには分からなかった。ただ、遠くなった。


 視界が戻ってきた。


 石畳が目の前にあった。手の平が、血の混じった石畳についていた。

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