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第十三話「侍と聖騎士」②

 剣先が弧を描いた。


 踏み込みと同時の、鋭い横一閃。熟練の剣士でも避けるのに一瞬を要する速さだった。白銀の刃が炎の光を受けて、橙の弧を引いた。


 男が動いた。


 動いた、というよりも——消えた。


 ジャンヌの剣先が男の立っていた空間を抜けた。次の瞬間、男は二歩右にいた。移動した気配がなかった。刃が空を切った感触だけが、腕に残った。


 驚きより先に、体が次の動作へ移っていた。戦場で磨かれた反射が、思考を追い越して剣を引き戻す。返す刃で右から切り込んだ。


 また、間に合わなかった。


 男はそこにいながら、いなかった。剣が届くはずの場所に体がない。かといって大きく跳んでいるわけでもない。最小限の動きで、剣の軌道からだけが外れていた。まるで斬られる場所だけが消えてしまうような、そういう動きだった。


 ジャンヌは踏み込んだ。


 三撃、四撃。連続して打ち込む。剣速を落とさず、軌道を変えながら。本来ならこの連撃を全て捌ける相手など、王国の中で片手に収まる。それが、男には届かなかった。


 五撃目を放ったとき、はじめて金属の音がした。


 男が武器を抜いていた。


 いつ抜いたのか、見えなかった。気づいたときにはそこにあり、ジャンヌの聖剣を受け止めていた。鍔と鍔が噛み合う。火花が散った。


 黒かった。


 刃が、黒かった。炎の光の中でなお光を返さない、底のない黒だった。刃というものは研ぎ澄まされるほど光を帯びるはずだ。なのにその剣は炎の橙を飲み込んで、ただ黒く在った。見たことのない色だった。そんな刃が、この世にあるとは思っていなかった。


 ジャンヌは押し込んだ。


 男はその力を流した。剣を半回転させるような動きで、ジャンヌの剣先を外側へ逃がした。体勢が崩れる。立て直す間もなく、男の足が動いた。石畳を、ほとんど音もなく踏んで。

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