第十二話「侘桜」④
六人が一斉に動いた。
正面の男が踏み込んでくるのと同時に、左右から二人ずつが間合いを詰めた。残る一人が背後から回り込んでくる。全方位から、ほぼ同時に。
乱戦を想定した動きだった。一点を突くのではなく、全体で圧力をかけて逃げ場を潰す。砦での夜久の動きを見て、正面での一対一を避けたのだ。
夜久は動いた。
正面の男の踏み込みを、半歩の横移動で外した。男の体が前に泳ぐ。その側面に入り込みながら、影桜の柄頭で男の顎を打ち上げる。短く声を上げて、男が仰向けに倒れた。
続けて左から振り下ろされる棍棒を、右腕で受け流した。力ではなく、角度で。棍棒が石畳を打つ。男の体勢が崩れた一瞬、夜久は膝を入れた。男が膝をついた。
右からの剣を、後ろに引いてかわした。刃が空を切る。夜久は剣士の伸びた腕を掴み、そのまま前方へ体重を流して投げた。男が転がった。
背後の男が組みつこうとしていた。夜久は振り返らず、肘を後ろへ送った。鈍い音がして、男が止まった。
残る二人が同時に間合いを詰めてくる。どちらも斧を手にしていた。重い。正面からは受けられない。
夜久は低く沈み込んだ。
刀を抜かずに、鞘ごと流す動きだった。二人の斧が交差する軌道を、体を傾けることで通過させた。刃が頭上を抜けていく。その直後、立ち上がりながら鞘で一人の首の後ろを打ち、もう一人の足首を払うと、二人がほぼ同時に崩れ落ちた。
静けさが戻った。
六人が地面に伏していた。誰も死んでいない。呼吸はある。だが、すぐには立ち上がれないだろう。
夜久は息を整えた。
蒼依が、押さえていた息を吐き出すように目を閉じた。わずかに肩の力が抜けた。しかし、男たちはまだそこにいた。




