第十二話「侘桜」③
夜久は走った。
石畳を蹴り、煙の中を抜けて、門の方向へ向かった。影桜の柄を握りながら。
走りながら気配を数えた。多い。十を超えている。武装している。蒼依の気配は動いていない。止まっている。
門の近くに出たとき、夜久は足を止めた。
蒼依がいた。
門の内側の広場に、男たちが固まっていた。
革鎧を着た、武器を持った男たちが十六人。その中に一人だけ、毛並みの良い黒いローブをまとった男がいた。革鎧の男たちとは明らかに違う、整った身なりをしていた。顔に感情がなく、状況を眺めているような目をしていた。
蒼依は男たちの中心に立っていた。後ろ手に手を縛られ、口に布を噛まされていた。青髪のショートカットが乱れ、制服の肩口が汚れていた。目だけが、夜久を見ていた。
夜久と目が合った瞬間、蒼依の喉の奥から声が漏れた。言葉ではなかった。布に塞がれて形にならない、それでも確かに届く声だった。肩が震え、後ろ手のまま、指先が白くなるほど握られていた。
逃げろと言いたいのか、来るなと言いたいのか、それとも別の何かか——夜久には読めなかった。読もうともしなかった。
男たちの中の一人が、前に出てきた。
大柄な男だった。首に包帯を巻き、砦で夜久が手刀を打ち込んだあの男だった。
「昨日は世話になったな」
声に、笑いが混じっていた。おかしそうな笑い方ではない。怒りを笑いで包んでいる声だった。
男が手を挙げると、周囲の男たちが動いた。砦で相手をした三人と、初めて見る顔の三人が夜久の周囲に回り込み、扇状に広がって取り囲んだ。間合いは均等だった。連携が取れている。烏合の衆ではない。
蒼依が、また喉の奥で声を上げた。
夜久は蒼依を一度見た。それから視線を前に戻した。




