55/83
第十一話「聖女ジャンヌ」④
リーフェル村まであと半刻ほどというところで、声がした。
唐突だった。
いつもは問いかけに応じる形で言葉を寄越す声が、このときは何も問わないうちに届いた。
短く、しかし明瞭に。村へ急げ。村を守れ。入り込んだ異分子を排除せよ、と。
ジャンヌは迷わなかった。
理由を聞くより先に、馬の脇腹を蹴っていた。
声が告げるなら、そういうことだ。それだけで十分だった。
蹄が夕暮れの街道を打ち、草原の風が正面から当たり、外套の裾が激しくはためいた。
リナがいる。あの村に、リナがいる。
声が示した。ならば従うだけだ。
遠くの空に、細い煙が見えた。
一本ではなかった。幾筋もの煙が、暗くなりはじめた夕空へ向かって上がっていた。橙の残光が、その煙を縁取るように照らしていた。
ジャンヌは小さく喉を上下させたあと、正面を見据えもう一度馬の脇腹を蹴った。




