第十一話「聖女ジャンヌ」③
戦場は、最初から怖かった。
そのことは正直に言える。
人が倒れる音を初めて聞いた夜も、血が土に染み込んでいく朝も、慣れることはなかった。声は道を示してくれるが、恐怖を消してくれるわけではない。
それでも、従い続けた。
迷ったとき、行き詰まったとき、もう動けないと思ったとき、声は答えた。
どこへ向かえばいいか。誰に何を言えばいいか。
その問いに対する答えは、常にあった。従うたびにうまくいき、戦いに勝ち、人が集まり、旗が立った。
神の声を聞く少女、という噂が、ジャンヌの名より先に走るようになった。
信仰が集まった。神に選ばれた剣士として、いつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。その重さを、ジャンヌはずっと引きずってきた。
なぜ自分なのか、という問いに答えられないまま、声に従い続けてきた。選ばれた理由を問う暇もなかったし、問えば答えが返ってくるかも分からない。問わない方が楽だった。
戦いの合間の静かな夜に、時折リナのことを考えた。あの子は今何をしているだろう、と。
石畳を走り回っているだろうか。転んでいないだろうか。母さんは元気か。マルタさんはまだ、あの温かいスープを作ってくれているだろうか。ディルクさんはまだ荷を運んでいるだろうか。
声は、そういうことには答えなかった。それでいい、とジャンヌは思っていた。
使命に関わることを示してくれるだけで十分だった。私的なことに神の声を煩わせるべきではない。いつもそう自分に言い聞かせて、また剣を握った。




