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第十話「引き金」 ⑤

 街道を、二人で走った。


 足元の砂利が音を立てた。午後の風が正面から当たった。今朝歩いたばかりの道だった。

 草原の向こうに森が続いていて、傾いた日差しが道の上に長い影を落としていた。

 景色は今朝と変わらなかった。でも、今朝とはまるで違う足音で、二人はその道を踏んでいた。


 蒼依は速かった。毎朝の自主練は伊達ではなかった。

 黒スパッツの足が砂利を蹴って、青いショートカットが風に揺れた。呼吸は整っていた。隣に並んで走っても、息の乱れがなかった。視線が前を向いていた。揺れなかった。


 夜久は前を見て走った。


 影桜が腰で揺れた。鞘の重みが、いつもより少しだけ大きく感じた。


 村の顔が、次々と浮かんだ。

 女主人が腕まくりをして包みを押しつけてきた顔。自警団の男が、もう一度、深く頭を下げた顔。リナが「ありがとうございました」と言って頭を下げた顔。昨夜の宴の笑い声の中で、母親の手を離さないでいたリナの顔。


 その村に、今、賊が踏み込んでいる。


 夜久が砦に踏み込んだことが引き金になった。それは事実だ。

 でも今それを考える場面ではない、とディルクが言った。

 今考えるべきことは、村に着いたとき、何ができるか。何をしなければならないか。混成隊が着くまでの間、何を守れるか。それだけだ。


 草原の風が、二人の横を通り抜けた。


 丘を越えると、草原が広がった。その先にリーフェル村がある。

 今朝とは別の足で、別の速さで、二人はその道を走り続けた。


 振り返る者は、誰もいなかった。

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