第十話「引き金」③
混成隊の準備は続いていた。
馬に装具を付ける音、武器を確認し合う声、人の足音が幾重にも行き交っていた。
夜久はその様子を眺めながら、頭の中で距離と時間を計っていた。
混成隊は準備を整えてからリーフェル村へ向かう。馬で行けば今日の半日の行程よりはるかに短い。
それでも今から準備を整え、村に着くのは日が落ちた後になるだろう。
夜久たちが村を出た後から賊が動いているとすれば、村はすでに半日近く、その圧力を受けていることになる。
自警団はいる。だが数は少なく、武器も限られている。村人のほとんどは戦える人間ではない。
一刻の差が何を意味するかは、分からない。でも、無意味ではないかもしれない。
夜久は影桜の柄に手を置いた。鞘の冷たさが、手の平から腕の内側まで伝わった。
「先に行く」
と夜久は言った。
ディルクが夜久を見た。蒼依も見た。ゼータも、静かに夜久の横顔を見た。
「混成隊を待つわけにはいかないということか」
とディルクが聞いた。
夜久は少し間を置いた。
「引き金を引いたのは俺だ」
と夜久は言った。
「誰より早く、あの村の状況を知る必要がある」
ディルクは少し考えるような顔をして、それから短く息をついた。責める顔ではなかった。
どこか諦めたような、それでいて理解しているような顔だった。
「行くなら行け」
とディルクは言った。
「俺は混成隊に話を通しておく」
「分かりました」
と夜久は言った。
深く頭を下げた。言葉通りに、そう思っていた。
踵を返しかけた。
そのとき、袖が引かれた。




