第十話「引き金」
門の前の人だかりは、近づくにつれてその輪郭をはっきりさせていった。
衛兵だけではなかった。思い思いの装備を身につけた、年齢も体格も出自もばらばらな人間たちが、同じ場所に向かって立っていた。
革鎧を着込んで剣を背負った者、大きな盾と槍を組み合わせた者、弓と矢筒を肩にかけた者、重そうな帷子を鎧の下に透かせた者。どれも旅人や商人の姿ではない。
戦いを生業にしている人間の、研ぎ澄まされた顔と装備だった。
その中に衛兵が数人混じって、何かを指示していた。
声は整然としていた。怒鳴り声ではない。でも、底に緊張が滲んでいた。
「冒険者ギルドの連中だ」
とディルクが言った。
御者台から目を細めながら、集まった人間たちを眺めていた。
「衛兵だけじゃない。ギルドの者も混じっている。依頼が出たのか、あるいは自発的に集まったか」
荷車が門の手前で止まった。夜久は降りた。蒼依とゼータも続いた。
砂利を踏む音が、混成隊の準備の物音に溶けた。
近くに立っていた衛兵に声をかけた。三十代ほどの、顎に短い無精髭を生やした男だった。
装備は整っていたが、顔には疲労の色があった。早朝から動いているのか、目の下にわずかに隈が滲んでいた。
「何があったんですか」
と夜久は言った。
男は夜久たちを一瞥した。
旅の格好を見て、街の者ではないと判断したのか、短く、しかし端的に答えた。
「リーフェル村だ。賊が出た」
空気が、変わった気がした。音のない何かが、夜久の体の内側で静かに動いた。
影桜の柄に触れていた左手が、ほんの少し、力を帯びた。
「……いつのことですか」
と夜久は言った。
声は、いつも通りだった。
「つい先ほどだ。リーフェル村から急報が入った。賊の襲撃を受けたと。それ以上のことは分からない」
蒼依が、短く息を飲んだ。その音が夜久の耳に届いた。
ゼータは無言で衛兵の横顔を見ていた。表情は動いていなかった。でも灰色の目が、わずかに引き絞られた気がした。
衛兵はそれ以上詳しくは知らなかった。
被害の規模も、今どういう状況かも、何も分からないと言って、別の指示に呼ばれて行ってしまった。
夜久は衛兵の背中を見送った。
門の外に、街道が伸びていた。歩いてきたその道が、傾きかけた午後の光の中にまっすぐ続いていた。




